chapter.83 ヒーローの条件

「なあ俺よ。なんでロボットアニメが好きか考えたことあるか?」

 唐突に仮面の男は少年に尋ねた。

 すると男の身体が小刻みに震えて、みるみる巨大になっていく。

 鋼鉄のような皮膚に包まれた巨人に姿に変身した。


「さぁ、答えろ!」

 頭上から降り下ろされる拳を避けながら少年はその名を叫ぶ。


「ゴーアルター!」

 叫ぶ少年が白い閃光に包まれると共に白き巨神が出現した。


「確か、幼稚園ぐらいの頃は戦隊ヒーローが好きだったはずだろ俺たちは?」

「……その前は機関車だった。あの正面に顔が付いた青い機関車のキャラクターだ!」

 思い出を語りながら巨人同士の激しい殴り合い。

 その様子をじっとマモリは見守る。


「いいよなぁ! 俺は今でも好きだ。お前どうなんだ?!」

「冥王星に居たくせに、いつまでもガキみたいなこと言うなよ!」


 自分自身の原点。

 二人の頭に遥か遠い昔の幼い記憶が呼び覚まされる。


 物心ついた頃からテレビのヒーローに憧れを抱いてた。


 好きなのはもちろんリーダーのレッド。

 だがレッドそのものより、専用の戦闘ロボットを持っているレッドが好きだった。

 鋼鉄の巨人となった男が真っ赤に変色する。

 白い煙を出しながら《ゴーアルター》と取っ組み合いになる。


「格好よかった。ヒーローが乗る強いロボットが好きだったんだ! 特に龍から人型に変形する中華モチーフのロボットがお気に入りでさ!」

 内向的な性格のせいで友達と一緒にごっこを遊びをするようなことはしなかった幼稚園時代。

 小学校から特撮ものからは卒業したが成長して興味が特撮からアニメに移っても、興味があるロボット物ばかりを見ていた。 


「初めてのおこづかいは白い羽の生えた綺麗なロボットのプラモだったな!」

「いろんな世界があって、いろんなロボットがいて、いろんな物語があった」

 突然、攻撃の手を止めると《ゴーアルター》は一瞬にして消え去り、少年はポツンと立ち尽くした。


「冷めるなぁ……」

 戦いが中断され男も変身を解除し、元の姿に戻る。


「ここは因縁の再戦をするパターンのヤツだろ! こう言うのがお約束ってのが俺ならわからないかなぁ!?」

 男は少年の胸ぐらを掴んで睨み付けるが、少年の瞳は虚空を見つめていた。


「……俺は、そんなロボットアニメが好きで、いつか自分もロボットアニメの主役みたいになりたいって思い始めて……現実は甘くなかった。ヒーローなんていないんだ」

 西暦2035年。


 巨神(ゴーアルター)との出会いが、歩駆の退屈な人生を戦いへと誘う。

 それはマモルによって仕組まれたことであった。


「敵を呼んだのはボクだ。ボクは君にヒーローになって欲しかった」

「マモル……」

「ずっとボクは二人の姿を見てるだけだった……その時は、それだけでよかったんだ」

 それは幼少の記憶。


 一人遊びが好きな少年にいつも甲斐甲斐しく寄り添う少女が一人。

 それを羨ましく影から覗くマモル。

 交通事故で死に、イミテイターとなったマモルは、少年の隣にいる人間が自分でないことにいつしか耐えられなかった。

 周りの認識を変えて生きているように見せかけて歩駆に近付いたのだ。


「ただボクは友達になりたかっただけだったのに……」

 顔を落とし涙声のマモルをたまらず仮面の男が後ろから優しく抱き締めた。


「マモルだって大事さ。ずっと俺のことを見てくれていたのに、俺はお前を見ていなかった……すまない」

「いいよ。ボクだって押し付けてばっかで君のことを考えてなかった。ゴメンね……ごめんねアルク…………うぅ」

「許す。もう泣くなよ」

 今日までの行いをマモルは後悔し、男の胸の中で泣いた。

 人の人生を弄ぶような行為が許されることではないが、男は彼女の罪を許した。


「……ボクはね、シンドウ・マモリとしてボクは渚礼奈を見てきた。あの子は、不死の身体で君をずっと待ち続けてきた。ボクも彼女の優しさはマモリを通して知ってる。ボクじゃ勝てないわけだ」

「なぁ、お前はこの世界をどうしたい?」

 少年はマモルに訪ねる。


「ボクにその権利はないよ……君はどうなの?」

「俺は、礼奈のために戦う。それは変わらない」

「そっか……やっぱり君はボクの憧れるヒーローだよ」

『ならば我を求めなさい』

 唐突に現れた声に一同は振り返った。


「お前は…………たしか、イザ・エヒトか? 何でお前がここに?!」

 少年は半透明な姿でそこに佇む青年イザに驚きの声を上げる。


「誰だコイツ?」

「傍観の使者め……」

『失礼ですね。私は語り部なのです』

 男とマモルは無視して、イザは少年に語りかける。


『渚礼奈のため。そしてこの混沌とした世界を変えたいなら、再生の鍵(けん)ソウルダウトを手に入れるのです』

「元からそのつもりだ。だが、お前が持っていったんだろう?」

『地球で待ってます。この周回にとっての最終決戦が訪れるでしょう』

 一方的に用件を伝えるだけ伝えてイザは霞のように消えていく。


「最終……決戦? この周回で?」

 その問に答えられるものは誰も居らず少年たちの居る暗闇の精神世界が閉じようとしている。


『地球で待ってますよ。我が救世主……』


 そして、二つに分かれた肉体と精神は再び、一つとなった。



 ◆◇◆◇◆



 廃墟の部屋で一人、待ち惚けるマナミ。


 このまま砂埃だらけの淀んだ惑星で死を待つだけなのか、と不安に駆られていると老人が突然、閃光を放ち出した。


「あ、歩駆さん?!」

 光り輝く老人の身体がみるみる内に若返っていく。

 精気を失った肌が瑞々しさを取り戻し、伸びっぱなしのか細い頭髪が抜け落ち艶のある髪が生えてきた。


「……お待ちしてました!」

 マナミは潤んだ瞳で生まれ変わった少年を見詰める。


「本当に、真道歩駆さん……なんですよね?」

「…………あぁ」

 不思議な違和感を感じながら真道歩駆は自分の手を見つめる。

 見慣れた代わり映えのしない掌なのにとても懐かしい気がした。


「巻き込んで済まなかったな」

「い、いえいえ! 私は何も出来ずに待ってただけですから……信じてました」

 照れるマナミだが言葉の半分は嘘だった。


「でも、これからどうやって地球に戻るんですか? ガイザンゴーアルターも壊れてしまいましたし……」

『それなら任せて!』

 脳に直接、響く声。


「マモリか? お前、何処にいるんだ?!」

 それと同時に地面が激しく揺れだし足場が崩れた。

 突然のことに歩駆とマナミは反応できず、崩れて出来た裂け目に落下する。


「うぉぉぁっ?!」

「きゃあぁあぁぁぁー!? 」

『この冥王星に溜め込んだエネルギーを全部ゴーアルターにあげる! 受け取って歩駆!!』

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