Episode.11 機神と魔神のマリアージュ
chapter.73 混沌戦(カオスバトル)
焦土となった月面の上でマコトたち戦いは続いていた。
ガイの《ブラックX》による“ADD(アンチダイナムドライブ)システム”の発動で撒き散らされた赤いADD粒子の影響で、三代目ニジウラ・セイルが率いるSV部隊が活動を停止する。
残された《ゴッドグレイツZ》《ルクスブライト》《アレルイヤC》《アレルイヤ・ゴスペル》の四機は、微粒子に避けながら戦闘を続けていた。
『ナイトたちもう動けないなんて信じられなぁいー! て言うか、キミなんなの? セイルの生き別れの妹?』
『レイルは……ニジウラ・セイルは私一人だっ!』
『さっきからそればっかりー』
まるで鏡を見ているような同じ挙動、同じ攻撃パターンで二機の《アレルイヤ》はぶつかり合う。
『居なくなれ、ニセモノっ!』
『ニセモノはキミのほうでしょ!?』
『セイルが本物よ! 貴方こそ誰なのよ?!』
『ニジウラ・セイルは二人もいないに決まってるでしょ? セイルが……』
『『私がニジウラ・セイルだ!』』
シンクロする声。
機体から放たれる光で複雑な軌道を描く高速戦闘。
しかし永遠に決着がつかない一人じゃんけんのようだ、とマコトは端から眺めていた。
「何かは知りませんけど、この赤い球に触れてはダメみたいですよマコトちゃん!」
「邪魔者が居なくなって好都合!」
セイル達の《アレルイヤ》は勝手に疲弊させておけばいい、とマコトは気になっている《ゴッドグレイツ》に似た謎の白いSVに接近する。
「逃げるなよ! アンタから先に倒す!」
『ちょっとちょっと君! 戦う相手を間違えてるんじゃない?! 私は敵じゃあないのよ!?』
純白の魔神、《ルクスブライト》を操る虹浦愛留は突然、襲いかかってきた真紅の魔神、《ゴッドグレイツ》のサナナギ・マコトに言った。
白と紅。
二つ魔神が両手を組み合って力比べをする。
「頭部だけの合体型SV……それ“アナザージーオッド”でしょ? その機体は残さず破壊するって決めているの」
額の角飾りを擦らせながら二機は睨み合いは続く。
力は互角。
両者、一歩も譲らなかった。
『確かにこれは君のexSVと同じ性質、同じ設計図から作られた物だから、そう呼ばれるものでしょうけど、君に恨みを買われるようなことはないわよ!?』
「……マコトちゃん、どうやら敵ではないみたいですよ?」
コクピット下段操縦席の《ゴッドグレイツZ》サブパイロット、クロス・トウコは言う。
「だってトウコちゃん、コイツら何て名乗ったよ? ニジウラ・アイルだ、ってさぁ……馬鹿にしてるでしょ? どうして百年ぐらい大昔のアイドルが居て、それにニジウラ姓の人間が三人もいるのよ?」
真上では三代目ニジウラ・セイルと虹浦零琉、同型機の改良SVである二つの《アレルイヤ》の戦いが未だ続いていた。
『あら、それを言うなら貴方も戸籍上ではお婆さんの年齢じゃないのかしら? サナナギ・マコトさん?』
皮肉った言い方で愛留が反論する。
「それは……」
『ね、お互い様でしょ?』
「まるで不老不死のバーゲンセールですね、マコトちゃん」
「どっちにしたって怪しいことには変わりないよっ。その白いジーオッドも破壊するし、ジェシカの仇だって取るんだ!」
相手を掴む腕を真っ赤に赤熱化させて《ゴッドグレイツZ》は思いきり力を込める。
「燃えろっ!」
噴き出す炎が《ゴッドグレイツZ》の腕から《ルクスブライト》に伝わっていく。
『フフ……それで終わり? こんなんじゃ私を熱くさせるなんて無理よ』
「なに?!」
全身が炎上する《ルクスブライト》だったが愛留は不敵な笑みを浮かべる。
次の瞬間、《ルクスブライト》から放たれた閃光が周囲を真っ白に包み込む。
光に飲み込まれた一瞬、僅か数秒の間に行われた《ルクスブライト》による激しい連撃が《ゴッドグレイツZ》を襲う。
何をされたのかマコトにはわからず、気付いた時には強い衝撃で月の大地に叩き付けられ、巨大なクレーターを作り出していた。
「……くぅっ、がは……っ!?」
『………………ま、マコトちゃ……大丈夫……ですか……』
「うぅ目がチカチカする……って、あれ?」
マコトはトウコの声が遠くから聞こえているような違和感を覚えた。
何故だか力も入らず起き上がるのも精一杯だ。
『…… マコトちゃん?! 合体が……解除されてます!?』
「え、ちょ……本当じゃん!?」
ボヤけた視界でマコトは状況を確認する。
二体合体である《ゴッドグレイツZ》の頭部が抜け出してしまいマコトの《ジーオッド》とトウコの《Zアーク》に分離してしまった。
周りにはADD粒子がクレーターの中心に集まり囲まれていた。
『全く世話の焼ける子たちだこと……』
苦悶の表情で愛留はふと《ルクスブライト》の腕を見る。
一方的な超光速の連続パンチは確実に手応えはあったはずだったが、いつの間にか両腕が握り潰されていたのだ
『でも、ここで彼女らをノックダウンさせたのは不味かったな……』
使い物にならない腕を切り離し、ゆっくりと降下する《ルクスブライト》が《ジーオッド》の前に立ち、不吉な変化を起こす宇宙空間を見上げる。
先程までそこに無かったはずの、見たこともない色とりどりな光を放つ星空か浮かんでいた。
よくよく観察すると、きらびやか宇宙と月周辺宇宙の間に境界線のようなものが見え、別の異空間であるようだとわかった。
「あれ、またあの敵が来る……?」
マコトの予感は的中する。
別宇宙から突如、飛び出してきたのは無数の鮮やかな尾を持つ巨大な“黄金の鳥”だった。
異空間から身を乗り出し、大きな羽を広げると甲高い奇声が月に轟いた。
『まるで、鳳凰ですわね』
「トウコちゃん、そっちは動ける?!」
ふわりと浮かんだ《ジーオッド》のマコトは、大の字で寝そべる《Zアーク》のトウコに呼び掛ける。
『残念ですが、手足の駆動系に異常が出てます。まともに立ち上がりません』
どうにか機体を起こそうとするトウコだったが《ルクスブライト》の攻撃で月に叩き付けられた《Zアーク》は再起不能状態だった。
トウコが名付けた《鳳凰擬神》は不思議なオーラを放って羽ばたくと、一瞬にして月のルナシティを覆うドームの直上に降り立った。
ぶ厚いシャッターに覆われたドームを《鳳凰擬神》は鋭いクチバシで執拗に突く。
「くそ、ここからじゃルナシティは遠すぎるっ!」
マコトのいる位置から《ジーオッド》のビームを放っても届く頃には威力が減退してしまう。
「だとしても……飛べぇ、ジーオッド!」
ルナシティに向けて《ジーオッド》は精一杯、加速する。
乱れ打つ真っ赤なビームは《鳳凰擬神》の尾に触れるが、焼き切るには温度が足りず気にも止められてなかった。
ドームを囲む城壁から迫り上がる防衛システムの対空機関砲が《鳳凰擬神》に攻撃する。
身体に炸裂するミサイルや弾丸の雨に《鳳凰擬神》は両翼で身を守ると防衛システムの方を睨んだ。
すると、揺らめく無数の尾が蛇のようにしなりながら伸びて防衛システムを城壁ごと貫いた。
怒りの雄叫びを上げる《鳳凰擬神》のクチバシが光り輝く。
前後に振り乱しパワーを溜めているようだ、とマコトは直感的に思った。
「ダメ、間に合わないのっ!?」
その時だ。
クチバシをドームに向けて降り下ろした《鳳凰擬神》の頭が後方へ大きく仰け反る。
その喉元には拳を天高くに突き上げる《ゴーアルター》の姿があった。
「礼奈に……手を出すなぁッ!」
真道歩駆は渇いた唇で力を振り絞り叫んだ。
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