chapter.36 団結、されど分かれ道

『あーあーマイクテス、マイクテス……』

 インカムのマイクに声を当ててチェックするヤマダ・シアラ。


『よし……さァてェ“教えてイデアル歴史講座”も休憩を挟み後半戦へと突入しましたが、ここでスペシャルゲストの登場ォ!』

 ブリーフィングルームの演壇に作られたセット裏から出てきたシアラと、ウサミ・ココロが台車を押して現れた。

 台車の上には手錠を腕に掛けられたマナミ・アイゼンが、しおらしい顔で正座させられていた。


「ちょっと、何で彼女を勝手に連れてきたのよ!?」

 アンヌ・O・ヴァールハイトを驚いた声を上げる。

 マコトやマナミと交友関係にあったマナミだが、月側に付いてマコトたちを襲撃にやってきた謂わば裏切り者だ。アンヌの決定でジャイロスフィア・セレーネに留置していたはずだった。


『まァまァ彼女も反省してることですし。許したやったらァ?』

「死者だって出てるのよ、許されるわけないでしょ!」

「……私のことが憎いのであれば今すぐ殺してくださっても構いません。私は敵として貴方たちの前に現れました。後悔は、してません……」

 覚悟を決めた表情でマナミは頭を垂れる。


「シアラ女史、彼女をここで出した理由は?」

 イザが手を上げて質問する。


『良い質問だイザ君。それがこれから話す西暦2100年の戦いについてさァ』

 壇上のモニター画面が切り替わる。


『ゴーアルターが消息不明となり、ゴッドグレイツが月に封印されてから今に至るまでの約四十年。国際SV法によりSVの製造、販売が地球で禁止となり平和が時代が訪れる……はずだった』

 映し出されたのは壊滅状態となった軍基地の上空に浮かんだ巨大な剣が銀色のSVに変形する、という短い映像だった。


『これが撮影されたのが2075年。謎の未確認機体が地球統合連合軍の基地を攻撃しています、ぴょん』

『頻度こそ少ないが弱体化した統連軍は自分達が作った国際SV法のせいで、成す統べなくやられっぱなしされるわけにもいかない。そこで五年後の2080年、遂に法を改正ィ!』

 今度の映像はアニメとなって活躍する《ゴーアルター》の姿であった。


『私が率いるネオIDEALは表向きアニメ製作会社であるが、それは地球人類に失われた闘争心を呼び起こして来るべき戦いの日に向かってだァ』

「要するにプロパガンダかよ……クソかっ」

 頬杖をつきながら歩駆がボソッと吐き捨てる。

 歩駆がいた時代からロボットアニメを戦争を道具にしている。

 何も変わっていないことに歩駆は憤りを覚えた。


「通りでつまらない訳だ」

『……えー、オホン。新たなるSV開発、製造と謎の剣型SV、我々は《ソウルダウト》と呼称している。これの拿捕するために取り込んでいる』

『シアラお姉さん質問です、ぴょん!』

 元気に手を上げるココロ。


『何だね、ウサミン?』

『二十五年ぐらい捕まえられてないんでしょ? でも月にソウルダウトの情報が入ったのはごく最近です。あれは月本社が極秘裡に開発した第三のexSVだとウサミンは聞いてる、ぴょん……でもサーバーにハッキングしても情報一つ出なかった

『それは織田竜華元社長に聞いたってことかなァ? どうなんですかァそんこところ?』

「…………」

「お婆様? どうして黙ってるんですか?」

 アンヌが聞くも竜華は黙って俯くだけで答えない。


『そりゃ真実ではないので当然。あれはSVと言っても全てのSVのベースとなった原初のSVだからね』

「原初? トヨトミインダストリーが南極の模造戦争で作ったのが最初じゃないの?」

 と、マコト。


『南極で発掘された“シン”のSV第ゼロ号。ソウルダウトはIDEALのイドル計画の最終段階に必須な重要アイテム。歴史を改変するキーさァ……これを手にしたものは世界の未来を、いや……過去さえも思いのままに操る。君もそう教えられたんだろうマナミ・アイゼン?』

 シアラがマナミに言う。


「……そうです。ソウルダウトを手にすれば戦いで散った仲間たちが戻ってくる。この戦争も無かったことにできる、と」

「ふざけないで!」

 声を荒げて立ち上がりマコトがマナミに詰め寄る。


「あとで生き返らせてあげるから今は殺されてくれって言いたかったの?!」

「そう受け取って貰っても否定はしません」

 悪びれる様子もないマナミ。

 思わず手を出しそうになるがマコトは堪えた。


「竜華さんは?」

「私は彼を、真道歩駆を助けたかった……それだけです。ソウルダウトのことは亡くなった兄からの遺言で知らされました。本当です」

 マコトの凄みに潤む目で竜華は白状する。

 それを睨むマコトだったが、彼女は嘘を言っていないようだ、と感覚でわかった。


『統連軍、月、スフィアがソウルダウトを狙っている。我々の目的は、どこの陣営よりも先に機体を捕獲しなければならない。皆様には是非とも協力をお願いしたい』

 シアラは頭を下げる。その後、にこやかな表情で歩駆の元へ近付いて両肩に手を置いた。


『まず真道歩駆、君は愛する渚礼奈を救いたい。だが、彼女は月に拐われてしまったァ』

「……あぁ」

『私らは渚礼奈とゴーアルターを探すのに協力をする。その代わり君も私らのために地球と月とスフィアの戦いを止めるのに協力をして欲しい、それでOK?』

「問題ない」

 と言えば嘘になるが闇雲に動いてもやれることは限られている。

 歩駆はシアラに素直に従うことにした。


『それでなんだがァ、君の機体であるDアルターは申し訳ないが解体しちゃって今はない。新たな機体が来るそれまでマナミ・アイゼンの監視役をやって欲しい』

「俺がか?」

『頼んだよォ? そして次にサナナギさん。君も同じく戦い要員だけども』

「私は私の好きにやらせてもらうよ。アンタの指図は受けない。何か裏があるんでしょ?」

 ふきげんなマコトは机を叩き、ブリーフィングルームの出口へ向かう。


「大体、私は過去をやり直せるなんてSVがあるなんて信じない」

『そんなこと言ったってねェ。ここに不老不死なんてデタラメな体質の人間も存在している、サナナギさんもそうだろう? なのに夢がないねェ』

「……皆おかしいよ。大の大人が、そんな与太話を信じるなんてありえない。そんなことで人達が争うなら私がそれを破壊する」

 死んだ父親、親友、未来の世界。

 何もかもやり直せる夢のようなマシンがあることを認めてしまえば、自分が今まで戦ってきたことが全て無意味になってしまう。

 捨て台詞を吐いてマコトは出ていった。


「さっこれでお開きね。皆、解散しましょ……さ、行きますよお婆様。ウサミさんも、ふざけてないてマミさんを連れてって!」

 アンヌの一声と共に集まった者たちはブリーフィングルームから退室していく。

 最後に残されたのはシアラとイザの二人だけだ。


「はァ……耳が痛い」

インカムを外しながらシアラは言う。


「後片付けを手伝ってくれるのかなァ、イザ?」

「僕に協力して欲しいのはそんなことではないのでしょう?」

「そうだねェ……君はこの計画に一番大事なキーマンさァ。君が居なければソウルダウトを手に入れても意味はない。ただちょっと強いだけのSV、それだけ」

 シアラはモニターに歩駆たちには見せていない《ソウルダウト》の映像の続きを再生する。

 そこには廃墟となった建物に降り立つ《ソウルダウト》に乗り込んだ一人の少女の姿が映し出されていた。


「冥王星の使者、好き勝手してくれるよ」

「…………はっきり言ってもいいかなシアラ女史」

「どうぞ」

「色々と君から僕の知らないことを聞かされたはいいが、どうにも信じきれないんだ。僕が彼等と同じexSV、ソウルダウトに選ばれた存在であるなどと」

「確かなことだよ。私はIDEALのラボから全ての真実を手に入れた。君は」

「止めてくれ! これ以上はいい」

 イザは声を荒げシアラの言葉を止めた。


「記憶は自分で思い出すことにしたい。納得を得たいんでね」

「今更そんな言い方はないだろう?」

「僕はあくまでも見届ける者でいたい。協力はさせてもらうよ、けど記憶に関してはこれ以上は余計なことを言わないで欲しいんだ」

 シアラとの接触はイザにとって有意義なものだった。

 記憶の断片にある白き機神と真紅の魔神の伝説が少しずつ明らかにされていく。

 だがそれは内容を理解せず答え合わせだけをするようなものだ。

 真剣な眼差しで暫し二人は見詰め合う。


「わかったよ。君の意見を尊重する、だが」

「大丈夫、ソウルダウトは僕が手に入れるよ。力を使うことはないだろうけど、乗ればきっとわかるはずだからね」

 爽やかな笑顔でイザはシアラと握手を交わした。



 ◇◆◇◆◇



 一人、廊下で立ち尽くす歩駆。

 今日の話を聞いて決意を固めた。


「この世界は、俺がやり直す」

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