chapter.35 総集編

 ジャイロスフィア・セレーネは修復のために今の宙域から離れることした。

 歩駆、マコト、イザたちは今後の作戦のために戦艦イデアルへと乗船する。


「歩駆ちゃんっ!? 無事だったのね?」

 艦の中へ入るなり歩駆へ真っ先に駆け寄ってきたのはウサギ耳の少女だ。アンドロイドのウサミ・ココロである。


「宇宙の塵になったって、いくら不老不死でも助からないだろうって」

 泣き顔のウサミは歩駆の胸をポカポカと叩く。

 元々背の低くかったウサミだったが、歩駆が以前見たときよりもウサミの身体は小さく感じた。


「お前こそ、てっきり死んだかと」

「ココロは中のCPUが無事だったからね。お陰で大きくモデルチェンジしちゃったけど」

「あの監督は?」

「オノサキちゃんなら心配しないで彼女も何とか無事よ。まだ安静にしてなきゃだけどさ」

「そうか……良かった」

 胸を撫で下ろす歩駆。

 自分の身勝手で彼女らを連れ出し《ゴッドグレイツ》に乗ってきた機体もろとも撃墜されたと思い込んでいたのだ。


「ココロさん、御苦労様」

「マダム……遅くなりましたけど、ただいまです」

 後ろからアンヌ・O・ヴァールハイトに車イスを押されて織田竜華がやってきた。


「向こうは感動の再会って感じじゃなさそうよ」

 歩駆たちはアンヌの言う方向を見る。

 かなりの険悪なムードを漂わせる二人。赤い眼鏡の少女、サナギギ・マコトと白衣を着た戦艦イデアルを所有者であるネオIDEALリーダーの女、ヤマダ・シアラだ。


「うん十年ぶりだねェ、サナギギさん。見ない内に小さくかったかなァ? あっ、そうか私が成長したんだねェ!」

「たぶん年齢的に還暦ぐらいだよね? 若作りが痛いよシアラちゃん。あと相変わらず人の名前を間違って呼ぶそれ、面白くないから止めた方がいいよ」

 見えない火花が二人の間でバチバチと弾けている。

 予想の笑みを浮かべるシアラへ、眉間に深く皺を寄せてマコトは睨み付ける。

 マコトにとってシアラは十代の青春時代を狂わされた敵であり混乱の元凶だ。

 

「まァいい。私は大人だからそれぐらいの無礼な発言は許そう。少し準備がある、一時間後、皆ブリーフィングルームに集まってくれ。……お前も手伝ってちょうだい」

「えっ? ちょっ、なに?」

 そう言ってシアラはウサミの引っ張って何処かへ消えていった。


「……アイツのこと知ってるのか、真薙?」

 歩駆はシアラの後ろ姿を見てマコトに質問する。


「うん、ヤマダ・シアラだよ。私の住んでた人工島イデアルフロートで悪いことしてた子。最後の戦いから行方不明になってたはずだったんだけど……生きてたんだね」

 マコトは苦虫を噛み潰したような顔で言う。


「変なこと企んでなきゃいいけど」

「……そうだな」

 シアラの姿が歩駆の知る人物と被る。

 あの《ゴーアルター》を作ったとされる対模造獣対策機関IDEALの科学者ヤマダ・アラシ。

 ヤマダ・アラシとヤマダ・シアラ。

 そして、もう一人。

 マコトのパートナーである傷の男ガイ。


「まだ、アイツに踊らされるのか」

 脳内でふざけたように笑う男の姿を浮かべ、歩駆の中で怒りの炎が沸々と沸き出していた。


 ◇◆◇◆◇


 3、2、1。


『『教えて! イデアル歴史講座~!』』


 どんどん、ひゅーひゅー、ぱふぱふ。


『さァさァ始まりました教えてイデアル歴史講座っ! 司会進行を勤めるのは私シアラお姉さんだよ!』

『アシスタントのウサミンでぇーす、ぴょんっ!』

『このコーナーではァ今、地球で起こっている戦いを順に追って解説していくよー』

『小さな子でもわかりやすく簡単に説明していきますぴょん。準備はいいかなぁ?』


「「「…………」」」


 ブリーフィングルームに集められた歩駆たちが着席すると、突然始まった茶番劇に唖然とした。

 昔の幼児向け番組のようなセットにパステルカラーで彩られた壁紙や、紙で手描きされた動物や花のイラストがモニターに装飾されている。


「これは彼女らの恒例行事なんですか?」

 首をかしげるイザは前の席に座る歩駆とマコトを見るが、二人も困惑していた。


『イザくん良い質問だねェ。まァ、ただのちょっとしたレクリエーションみたいなものさァ。普通に作戦会議したってツマラナイからねェ?』

 インカムから部屋の四隅に配置されたスピーカーにシアラの声が響いてくる。


「では、ココロがいるのは?」

『ココロはこれでも元保育士よ。なんかこう言うの懐かしい感じがする、ぴょん!』

 ウサギ耳をピョコピョコさせてウサミは台本片手にはしゃぐ。


『えぇと……まずはexSV、ゴーアルターの登場!』

 ウサミの台詞と共にモニターに映像が流れ出す。

 真道歩駆と《ゴーアルター》の紹介ムービーだ。

 映し出された工事用重機が合体したような怪物SVに立ち向かう白きSV。

 その戦闘シーンを歩駆と壁際にひっそり佇んでいた老パイロット、楯野ツルギが眉間に皺を寄せて画面を見つめた。


『宇宙からやって来た謎の生命体イミテイト、またの名を模造獣が南極に現れた、ぴょん!』

『模造獣はあらゆる物質をコピーして世界各地を攻撃したんだァ』

 大空を飛ぶ不気味な形の戦闘機が町を攻撃する当時の映像が流れる。


『でも人類、そこのマダム竜華が社長を務めていたTTインダストリアルの前身、トヨトミインダストリーが人型機動戦略機械サーバント、通称SVを開発してこれを撃退するのさァ』

『それから二十年。地球統合連合軍を設立した人類の前に再び現れたイミテイトは突如、人に進化を果たしてイミテイターと名乗り人類に宣戦布告する、ぴょん』

『だがIDEALが開発したexSV、ゴーアルターの活躍によりイミテイターは撃退されるのであった……と言うぴょん』

 そこに映っていたのは沢山の人で溢れるイベント会場。

 ステージの上で仁王立ちの《ゴーアルター》の前で司会者に質問を受けるヒーローマスクの人物だ。


『そのパイロットこそが真道歩駆。流石はexSVを操るパイロットだねェ』

「それは……」

「脚色が過ぎるぞヤマダ。そんな創作のようなものではなかった……」

 歩駆が何かを言おうとする前にツルギが先に指摘する。


「この小僧が活躍しただと? こいつのせいで俺の人生は狂わされた」

 イライラした口調で機械の指を歩駆の方へ突き出すツルギ。


『お爺ちゃん、歩駆少年のことは許したんじゃァないの?』

「今のコイツを見て、その気も失せたわ」

「何だと……?!」

 一触即発。席を立ち上がる歩駆をウサミが取り押さえた。


『まぁまぁ歩駆ちゃん堪えて堪えてぴょん』

『だから掻い摘まんで話をしてるのさァ。細かいことは気にしないの?』

「ふん、下らん……俺は出てくぞ」

 そう掃き捨てるように言ってツルギは、ズカズカとブリーフィングルームから出ていった。明るかったムードが一気に静寂に包まれる。


『……ささ、続いて行きますよ! 次は人工島イデアルフロートの乱、ゴッドグレイツの目覚め!』

 白けた空気にウサミがどうにか明るく声を張る。

 画面が切り変わり、今度はサナナギ・マコトと《ゴッドグレイツ》の紹介映像である。

 炎に包まれた真紅のSVが海上都市で戦う映像が映し出された。


『人類の脅威は去ったものの、再びこのような事が起こらないよう統合連合軍は戦力の増強を図り人工島にSVパイロットを育成する学園を作った、ぴょん』

『だが、それは島を支配する男の野望を叶えるための計画に利用されたのだァ!』

「されたのだァ! ってアンタも一枚噛んでるでしょ?」

 今度はマコトが突っ込む。


『ンモー、さっきから水を指してくるゥ! それは今は置いといて……ウサミン!』

『その男、ガラン・ドウマは地球に隠れ住み統合連合軍を裏で操るイミテイターを抹殺するため軍の施設を攻撃する、ぴょん』

 人工島の中心部が唸りを上げて空に浮かぶ。

 巨大な移動要塞イデアルフロートとして宇宙へと浮上した。


『これに私設武装組織リターナーがイデアルフロートに対抗、宇宙での決戦にてサナナギ・マコトのゴッドグレイツによりガラン・ドウマは宇宙に消えた』

「ラスボス面して向かってきたのはアンタだけどね」

『この時はウサミンも死ぬかと思った、ぴょん!』

『……ここまでが第二部。そして地球はしばらくの間、平和が訪れるのだがァ……ここで一旦休憩を挟むよォ!』

 シアラは台本を纏めてセットの裏に向かい、次の解説の準備を始めた。


 後半へ続く。

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