第39話 中身を好きになってほしい?
「男子は、みんな、エッチなことばっかり、考えていて、私と付き合いたいって言っても、みんな、エッチなことが目的じゃないですか!」
真藤は初めて声を荒げた。
「好きなんて、みんな、嘘じゃないですか! そりゃ、私はかわいいですよ。胸だって大きいですよ。褒められたら、うれしいですよ。だけど、だけど! そればっかりじゃないですか!」
「あなただって、そうですよ! ここに来てから、私の胸ばっかり見て! 私のことをおっぱいとか呼んだりして! 私が喜ぶとでも思っているんですか? 嫌だってわからないんですか? そんなんだから引きこもりの不登校なんですよ!」
「どうせ、私の身体が目的なんでしょ? 私のことが好きなんじゃなくて、私とエッチがしたいだけなんでしょ? 私がかわいいから! 私の胸が大きいから!」
「男子なんて、私の外見ばっかり見て、誰も、私の中身を見てくれないじゃないですか! だから嫌なんですよ! それで相談しに来たのに、性病? はぁ? ふざけないでください!」
息を切らした真藤は、床を力強く叩いていた。これが彼女の本音であることは間違いない。しかし、本性かというと違うようで、声を出し慣れておらず、ところどころ音量が散らかっていた。
まぁ、真藤の言わんとすることはわかる。特に、すこぶる美少女で巨乳の彼女にとって、常日頃から感じている不満だったのであろう。自らの美貌をあそこまで明確に自覚していたところは驚きであったが。
さて、僕は次にどう動くべきか。
真藤の怒りを鎮めるために、何かしらのフォローを入れるべきか。それとも、不満があるのであれば帰れとつっぱねるべきか。
いや、そのどちらも意味がいない。いずれの行動も、これまで費やしてきた時間を否定するもの。
「よくわかっているじゃないか」
「は?」
僕のやるべきことは、真藤の抱えている問題の解決。そのために時間を費やしてきた。別に尽力する義理もないが、無駄は嫌いだ。幸い、彼女の発言は、ここまでの流れの延長上にある。だとすれば、僕は自らの提案の合理性を示すべきだろう。
「君の言う通りだ。男子は、君の外見しか、いや、顔とおっぱいしか見ていない。追中も例に漏れないだろう。だからこそ、性行為ができないとわかれば、追中も諦める」
「……それは!」
「君が言ったことじゃないか」
「……っ! だから、男子なんて!」
「何がそんなに不満なんだ? 君がかわいくて、巨乳なのは自他ともに認めることだろ。だとすれば、そこに魅力を感じるのはおかしな話でもないと思うけれど」
「それが嫌だと言っているんです! 私は、私の中身を好きになってほしいんです!」
これだ。
これが核心。
真藤の課題。
真藤の課題は、追中の告白をやめさせたい、ではない。
外見しか見ていない不純な動機での告白をやめさせたい、いや、正確には、内面に目を向けた純粋な告白をされたい、といったところか。
ただ、
「中身?」
その言葉を聞いて、僕は思わず笑ってしまった。
「君の中身を好きになるだって、そんな無茶を言っちゃいけないよ」
「……どういうことですか?」
「君は確かにかわいいし、巨乳だ。外見に関しては、すべての男子を虜にする天授の才能と言っていい。ただ、それだけだろ」
「それだけ、って」
「思考実験として、君から外見という要素を取り除いたとしよう。すると、君にいったい何が残る? 勉強もできない、運動もできない、料理もできない、その他に突出した才能もない、だからといって努力もしていない。おおかた、そのかわいさを理由に、ずっと甘やかされてきたんだろう」
「そんな、こと……」
「じゃ、性格がいいのかといえば、そうでもない。甘えてばかりで決断力がない、いわゆる他力本願。他人に判断を任せるくせに文句ばかり。その上、自分の利益のために、友達を利用する利己主義者。しかも、自覚がないというところが余計に
「私は……」
「で、何だっけ? 中身を好きになってほしい? ははは、笑わせる。君から外見を取り除いて、いったい何が残るって言うんだい?」
「何が……」
「なぁ、教えてくれよ。君の、中身の、いったい、何を、好きになればいいんだい?」
「……」
僕は言い切って満足した。ここまで丁寧に話せば、僕の提案がいかに正鵠を得ているか理解できるだろう。仮に、これでまだ理解が及ばないというのであれば、さすがにお帰りいただくことにしよう。
さて、どんな反応を見せるのか、と僕が
「え?」
何で泣いているの?
「うっ、何で、うぅっ、そんな、ひどいこと、ズズ、言うんですか……?」
「いや、僕は本当のことを言っただけで」
「本当のこと……!? うえぇぇぇん!」
えー、ぼろ泣きしてんじゃん。
何でー?
僕があたふたしていたところ、白殿がやれやれと頭を抱えていた。
「どうせ、あなたのことですから、真藤さんが何で泣いているのかわからないとか、そんなことを考えているんでしょうけど」
よくわかってんじゃん。
「はぁ、前にも言いましたが、私にはそういった趣味はないのですけれど、結果こうなってしまっては仕方がありませんね」
白殿は、前髪をさっと後ろに払ってから、口の端を吊り上げ、スッと手を掲げてみせた。
「それで、グーとパー、どちらがよろしいですか?」
え? 何、その二択?
「じゃんけんの話、だよね?」
「私はチョキでもかまいませんが?」
「いや、パーで! せめてパーでお願いします!」
チョキって、何する気だよ。
「あら、わかっているじゃないですか」
僕が切実に頼んだところで、白殿は、もう片方の頬も吊り上げて、グッと拳を握り込んだ。
「あなたは、正真正銘くるくるパーです」
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