遺伝子改良人間


彼女のことは“良い人”だと思っている。


それは皆の共通認識。誰も嫌ってはいないだろう。


なのに彼女は、いつも一人だ。


本当によく出来た人間だと思う。

誰よりも優秀で、でもどこか憎めない天然な要素も持っていて。


だから私たちのリーダーに選ばれたのだろう。


本人もそのつもりで


「いつでも相談して」


「もっと私のことを頼って」


と念を押してくる。


改良を重ねて作り出された綺麗なグリーンアイ。


一点の曇りもない完成された笑顔。



創造者(クライアント)達の好みのタイプがはっきりと現れていて、少し笑える。




ごめん。私たちはあなたに何かを相談したり、頼ったりする気には、きっとなれない。


都合の良い定形文しか返ってこないのは分かってるから。


完璧なあなたは、人並みに挫折を味わったことがないから。


メンタルを患ってる人の気持ちなんて経験したことないから。


醜い感情。嫉妬とか。憎悪とか。

知識として知っていても、そのきれいな心に抱いたことはないでしょう。


客観的な視点から正論を述べるだけの単細胞。


それが彼女の遺伝子をデザインした大人たちにとって、“より理想的な”人間像。


彼女自身には何の罪もない。


リーダーとしてのスペックは申し分ない。

彼女に仕事を任せれば、全てが滞りなく進んでいく。



でもやっぱり私たちは、彼女に大切なことを相談したり、頼ったりしようと思えない。

当たり障りのない会話をするための、都合の良い人形だと思ってるから。


現状がこのままで良いとは思っていない。


いつかこのすれ違いは、グループ内に小さなひずみを生んでいくだろう。


そのひずみは少しずつ大きくなって、いつか取り返しのつかない大きな災いを招くだろう。


でも、気付いていても誰も、自分から何とかしようとは思わない。


ただ壊れてくのを傍観しているだけ。



それが私たち、弱くて汚いナチュラルズだから。



そして彼女はそれを知って、傷ついたり、悲しんだりしても


私たちを憎んだり、蔑んだりしないだろう。


負の感情を抱けないようデザインされているから。


それが一番、どうしようもなく



私たちにとって辛いのだ。

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