4-3
新しいマグへ。
真実が知りたければ来たらいい。機械都市で待っている。
宛てられている新しいマグとは俺のことでまず間違いない。
ファリーから落ちて死にそうになった時連想したような、二人目三人目がいるかも今は解りはしないが、現段階では俺を指す名詞。
死んでしまったマグがこれを俺の為に残したのだろうか。だったら益々死ぬときまで財布を持っていて欲しかったものだ。そうだったらもっと早くメッセージに気が付けたのに。
それよりも今、このメッセージを見付けた事で新たな謎がまた一つ生まれてしまった。
「マグは、本当は生きてるんじゃないか? でも、だったらこの体は……」
スーもアプスもビアフランカもコズエも、マグを知る皆は彼が死んでしまったと口にしたが、だとすればこの書き置きは一体誰がしたというのだろう。
真実が知りたければとあるが、その言葉が指すのはマグがまだ生存していて俺に体を託した理由を話してくれようとして書いたのではないか。
疑いは同時に一縷の希望をも生んでくれたようにみえた。
(でも、機械都市って……何故そこへ?)
機械都市。
その地名についてだけはよく耳にしていた。
先程挙げた演算装置に関しても機械都市の技術と聞いているし、学校の玄関ホールに一台だけ取り付けられているオルガンのようなサイズの大きな通信機(電話のような機械)も、ミレイが担いでいた銃と剣の合体した武器も全てそこからもたされたものだという。
最も印象に残ったのはビアフランカの授業の中できいた、空想魔法を発現させた子供が機械都市へ送られるというものだった。
子供たちはそこで教養を身につけ、選ばれた者だけが家へ返還されるのだという奇妙な制度がこの国にはある。
帰ってこなかった子供らはどうなっているのか。
銀色の高い壁の向こう側は未知が多すぎる。
しかし、何よりも今は。
「待ってるのか? 俺を? 機械都市で……」
非日常に慣れてしまった俺の、本来の目的。自分の記憶を探すために冒険に出なければ。手懸かりに向かっていかなければ。
次の行き先は、謎に包まれた土地。機械都市に決まった。
***
そうと決まれば善は急げ……でもないが、俺はすぐ行動に移った。
「ちーっす! マグちん、ちょっとぶり~」
「こんにちは、ミレイ。警邏の仕事中?」
レシート整理と同日、街中。巡回中のミレイとばったり出会い挨拶を交わす。
パトロールをしているものと思ったが彼女は片手に瓶入りの苺牛乳とロールパンを持っていた。
「いや……サボりか? それ」
「ノンノン。ゥチらは好きな時間に休憩していーの。いつ飯がとれなくなるかわかんないから腹が空いたときにとっとけ、ってさ。隊長の'おコトバ'なんだょね」
近くの木箱に瓶を置いて煙草を吸う物真似。ミレイもジンガの言い付けが彼が煙草を吸いたいときのための詭弁だと解っているようだ。
ファリーの一件でマグは王国騎士団(バテンカイトス)でのちょっとした有名人になったらしい。
あの夜の森での出来事以後、ファリーに襲われた人々の敵討ち……なんて言い方はどうにも。なのだが、とにかく彼等を安心させるための材料にはなれた。
何より俺は今まで誰も口答えしようとしなかった銀蜂部隊の隊長と副隊長に食って掛かった(結果論だ。不可抗力だ)怖いもの知らずとして名を広めていたのだった。
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