4-2

二枚重なった雑貨店のレシートを見、俺はこの世界の不思議を再認識する。

シグマの店の一件で目にしたり聞かされたりすることはあったが、不思議なことにこの世界での通過は現代日本と同じく「円(エン)」だった。

電子演算機が存在していることに関しては地下水道が当たり前のように通っていたり、スイッチを捻ればコンロの火がつく仕組みと同じように、「機械都市」からもたらされ広まった技術だとビアフランカに教わっていたのでもう気にしていない。

だが、お金についてはやっぱり不思議な感覚で、慣れるまで少し苦労した。


(世界観にどうしても合わないんだよなぁ……)


円とはいえ紙幣には有名な文豪や博士や総理大臣やその他見知った偉い人が描かれているわけではないし、硬貨にも桜や菊のような馴染みの絵は描かれていなかった。

それらの代わりになっているのはとてもぼんやりとした全く知らない人物の輪郭と、行ったこともない建造物など。

少なくともファレルの港町近郊では見たことがない場所だった。

ビアフランカから一時借りて返したお金だけではなく、マグの財布に入っていたお札も硬貨もみなそうだ。


「……なんだ? これ」


雑貨店の次は文具店。学校で使用する教材などだろうか。領収書と一緒に針金でとめられたレシートを片付ける前に裏面に書かれた文字を見、手が止まる。


「何か書いて……『新しいマグへ。真実が知りたければ来たらいい。機械都市で待っている』って……? 機械都市? まさかこれ、マグからのメッセージじゃ……!!」


つい大声になってしまい慌てて口を塞ぐ。

誰かに聞かれていたら疑いの目を向けられてしまっていただろう言動に自分で急ブレーキをかけ、


「なんでこんなところに? 俺が財布の中を見るのを見越して書き置きしたのか?」


ノリツッコミよろしく冷静になって筆跡を目で辿る。

短いが整った丁寧な文字。俺のことを招くような、誘うような、導くような文が二行つづられていて、俺は久しく感じていなかった胸の高鳴りを思い出していた。

初めてこの世界で自分を認識し、スーと話していたときのあの不思議な緊張感に似た感覚だ。

胸の奥で、ずん。と重みを感じる。


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