3-53

「ガァアッ!」


気力限り無い衝動に任せた一撃。

槍に貫かれた大竜が轟音と共に地へ衝突する。燃え屑を振り撒き緑と黒を斑にしていた木々を薙ぎ倒し、薙ぎ砕く。ファレルファタルムは背から突き通され標本のような形に縫い止められてしまった。


「な……っ?!」

「こンのくたばりぞこないが……」


圧巻の出来事に言葉を失うマグたちの視線の向こうで上がる土煙。

獲物を仕留めた男の呟きにひらめく黒い制服。遅れて着地する真っ赤な布地。肩に光る銀蜂隊の証。

彼らのシンボルである雀蜂の印は、まさしくこの隊長(ジンガ)の武装姿に決定されていたことをマグはその時初めて知った。


「た、隊長~! 生け捕りにするんじゃなかったんですかぁ?!」

「わめくな、うるせェ。急所は外してある」


目標にしていたファレルファタルムが遂に射落とされた。

マグは暫くスーの背中で呆然としていたが、彼女の墜落地点に到着するなり聞こえてきたジンガとフィーブルの掛け合いにハッとして目をこすった。


「ファリー……?」


彼女がどうなったのか確かめなくてはいけない。心配そうにしているスーから降り、雨粒を受けて光る木々が衝撃でくり抜かれた先へと向かう。

穏やかに、眠るように森の中で横たわっているファレルファタルムを確認し、彼女の無事に胸を撫で下ろそうとしたところでマグはジンガに背中を叩かれた。


「お前は黙ってその絵本でも読んでろ! じゃなきゃ他の奴ら呼んでこいフィー! 尾っぽの毛を毟られたくなきゃあな! ……先公(センコー)もその顔すんにはまだ早ェえだろうが」


竜を貫くほど長大な武器と化していた右腕は普段の空っぽの袖の中に戻っており、ファレルファタルムの周りを回りながらおろおろしているフィーブルにいつもの雑言を浴びせる。


「ほら。行けよ」


その後、囁くような叱るような声をマグに掛けファレルファタルムの傍へ寄るようにと倒れた竜を顎で指し示した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る