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「お待たせしました。どうぞごゆっくり」


 毅然とした姿勢でスーの前に三段重ねのパンケーキを、俺の前にコーヒーとミルクさしを置くと、ウェイターは目だけで冷たく合図した。

 俺が興奮していた様子を見ていたのだろう。

 頭の形はどうみても犬だがスタッフとしての気配りは一流なようで、言葉に出して俺を注意することはしなかった。


 無機質な視線が突き刺さるように痛いが、店の雰囲気にそぐわぬ行為をしたのは俺のほうなのだから何も言えない。こころなしか他の客たちからも注目を受けているような気がする。


「まぁまぁ、仕方ないよ。それよりもほら。先生も食べて」


 混乱と反省とで焦燥気味になっていた俺にスーは気を遣ってくれており、先ほどのウェイターのところへ行き、皿をとって戻ると器用に切り分けたパンケーキを俺にわけてくれた。

 イチゴの赤い実や黄色い果肉をふんだんに乗せたパンケーキは、ふんわりと焼けた生地の重なりに溶けたアイスクリームが浸み込んでいる。

 美味しそうには見えるのだが、どうしても腑に落ちないことが多すぎて、今これを上手に食べきる自信が俺にはなかった。

 でも、スーの気遣いを断りたくない。


「ありがとう」


 甘酸っぱい実が口の中で弾ける。味覚は常人と同じなのか。角の生えた自分の姿を見てからというもの、俺は自分の行動のすべてが自分の体への実証実験のように感じられていた。

 少なくともおいしいものはおいしいと感じられる舌ではある。それがわかると少し安心した。

 そんな安心がスーにも伝わったのか、


「おいしい?」

「うん。おいしいよ」


 さっきと同じような会話を取り戻すことが出来そうだ。自然と微笑みを交わせた。


「なぁ、スー。俺も君と同じドラゴンなのかな?」

「まさかぁ。先生はそんなことひとことも言ってなかったよ。もっときっとすごいものなんじゃない?」


 スーを通して自分のことを学んでいくしかない。そう決めたのだからあとは彼女に合わせて質問をしていけばいい。

 でも、彼女から得られる情報は何故か偏っていて上手い事使えるかというとそうでもなさそうだ。


 例えば彼女は、俺の体の主がコーヒーに砂糖は少し、ミルクはたっぷりというのが好みだということは知っているけれど、角が生えている理由については知らないらしい。

 彼女と同じ種族ではないらしいということまでしかわからない。そういえば竜である彼女にはバランスよく顔の横に二本あるのに対し、俺のは頭の片側に一本しかない。

 尻尾や羽根もないし、ドラゴンに変身できるかと言われても到底できそうにはない。

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