第5話「委員長、体育祭だな」

いよいよ体育祭当日。あれだけ盛り上がっていた俺のクラスこと青組だったが、残念なことに点数は他の組に比べやや劣勢気味であった。俺も今しがた男子の長距離走を走り終えたところだが、結果は5クラス中3位という結果だ。なんとも普通の結果に終わった。


「委員長と練習したんだけどな。」


俺の中ではまぁまぁ頑張ったほうなのだが、こんなもんだろうと自分を納得させることにした。そして次は女子の長距離走の時間である。俺は出口に向かう途中で出会った委員長に声をかける。


「次は女子の長距離だな。」

「あ、田中君。お疲れ様!そうだよ。」


頑張ってくるねと元気よく返事をする委員長に対して思わず口元が緩みそうになるがそこはこらえて頑張ってなと手を振った。

自分たちの応援席に戻るとクラスメイトたちがお疲れと声をかけてきてくれた。おうと軽く返事をしていると放送席から女子の長距離走が始まる声がグランドに鳴り響く。いよいよ始まる。小鳥遊の姿が見えると俺のクラスから声援が上がった。その様子を見てつい頬が緩んでしまうのを感じる。小鳥遊がトラックに入るとスタート地点に着くまでの声援が大きくなる。それにしてもすごい人気ぶりだ。委員長様々と言ったところか。


スタート地点に着きピストルの音が鳴ると皆走り出した。その中でも委員長はかなり速い方だったように思える。そのまま順調に順位を上げていき、結局トップで1位を走っていた白組に追いつきそうなくらいまでの追い上げを見せてくれた。このままいけば1位まで行けるんじゃないかとクラスの期待が高まる。しかしそう簡単にはいかなかったようだ。中盤辺りから急に失速してしまい、1位との差が少し開いてしまったのだ。


「委員長ー!!」

「頑張ってもう少しだよー!」


クラスの皆が声援を送る中、俺は彼女に向かって必死に手を振ることしかできなかった。その手が届いたのかどうなのか分からない。ただ彼女が苦しそうに走る姿を見ているだけだった。

しかしそこからまた一転したのだ。苦しそうに走っていた委員長が最後の一周に差し掛かったとき再び調子を取り戻したかのようにスピードアップしたのだ。

これには俺たちのクラスの声援も一層大きくなる。体育委員なんかはまた少し涙ぐんでいた。そして委員長はというと、


『なんとー!青組が1位でゴールです!』


放送席からの実況が響く。なんと委員長は見事1位でゴールをしてみせた。見事な快進撃というやつだった。クラス全員で喜びを分かち合っている中で俺は彼女の姿を目で追いかける。彼女は息を取り乱しながらもゆっくりとこちらに向かって手を振った。その姿にクラスメイトたちからまたしても声が湧き上がった。

その後、委員長が応援席に戻ってきてからも大いに盛り上がっていた。息を切らしながらも答えていた。皆が落ち着いた頃、やっと開放されたのか委員長はなぜか俺の席の隣に腰を掛けた。


「おつかれ。」

「ありがとう田中くん。」


笑顔で答える彼女にドキッとしつつもさすがは学級委員と心の中で称賛した。

何故なら彼女の頑張りの姿に皆がやる気をより一層出したのか、劣勢であった青組がその点数をどんどん追い上げていったのだ。

そしていよいよ大目玉ともいえる借り物競争が始まった。だがしかしなぜかこの大目玉の種目であるこれに俺が出場することになっていた。


何故なんだと思いつつもスタート位置に立ってしまっている俺に対して応援席からはすごい声援が上がっていた。


「田中ー!頑張れよー!」


一層大きく声を上げてる篠崎が本来この位置にいるはずなのだがあいつが応援席で休んでいる。そう、篠崎が先程の騎馬戦で足を捻挫してしまったらしく、補欠要員であった俺が代わりに出場することになったのだ。


「何故こんなことに。」


借り物競争は競技の中でも高得点が狙える競技でもある。劣勢であった俺のクラスが快進撃を送っている中ここで水を指すような真似はしたくない。

迫り上がる緊張に止めを指すかのように放送席からスタートの合図であるピストルが鳴り響いた。


俺は今トラックを走りながら必死に思考を回転させているところだ。正直何が書かれているかわからないこの状況でも確実に1番良い結果を出すためには何を選ぶべきか。やはりこれしか無いのか?いやまだあるはずだきっとなにかなにかか……くそっわからん!もうこれで行くしかないのか。


「あぁっくそ!なるようになれ!」


そして俺はお題から一枚の紙を取り上げた。そのお題はこう書いてあった。

『気になる人』

となんともいえないお題を引いてしまった。一気に頭を抱えた。


「よりによって・・・!」


紙に気を取られて後ろから来た他の選手に気づかず思わずぶつかってしまいお題が書かれた紙を落としてしまった。。まずいと慌てて紙を拾い上げとりあえず応援席へと向かう。ぼぅっとしているわけにはいかない。いかないのだが、


「(気になる人ってなんなんだー!!!)」


そんな甘酸っぱいものは俺は求めてない!普通が一番。しかしどうする引いてしまったものはもう変えられない。


どうする?!と悩んでいながらもとうとう応援席へと着いてしまった。クラスメイトからは皆なにを引いた?!と詰め寄られたが、俺は言葉に詰まる。

思わず皆から視線をそらすとばちっと委員長と目があった。そして、


「委員長!俺と来てくれ!」


思わず委員長に向かって手を伸ばしていた。の手を掴むとその勢いで走り出す。クラスメイトは何を思ったのか歓声がやや黄色いものになったような気がする!俺の気の所為であってほしい!

そしてまさかの1位でゴールしてしまった。


「やったね田中くん!」

「へっ、あ。うんそうだな。」

『ではお題を確認いたしますので紙を提出してください。』


という指示を受けて喜んでいるのもつかの間、この確認のことをすっかり忘れていた。どう説明する?!と悩む間もなくマイクを持った司会が読み上げていく。


『田中君のお題は、えぇ~っとこれは・・・、』


どうする、どうする。俺、どうする?!


『角が生えている人、です!田中君、見事1位でゴールです!』


は?という声が自然と出た。しかし俺が唖然としているのもつかの間、応援席からは雄叫びに近い声が響いて控えめに小鳥遊に手を引かれた。


「ほら、田中君!皆に手を振らなきゃ!」


と言われれば反射的に小さく手を上げていた。小鳥遊は笑顔で手を振りまくっている。

しかし、俺が引いたお題は、


『えー、お題は気になる人!おぉっとこれはー!』

「(俺の引いたお題?!)」


司会の方を見るとどこか見覚えのあるやつがいた。あいつ、確かさっきぶつかった・・・、


「(お題を取り間違えた?!)」


まさかという感情とともに冷や汗が流れた。そして確認しようとしたのもつかの間、盛大な告白がなされる現場に鉢合わせとなったのだ。俺たちが1位でゴールしたことよりもそちらのほうが大いに盛り上がるぐらいのに。


「こっちまでドキドキしちゃうね。」

「そ、そうだな。」


とりあえず助かったのだろうか。


委員長体育祭だな。

でも異様に疲れた気がするのは気のせいだろうか

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俺のクラスの委員長にはツノが生えています。 叶望 @kanon52514

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