第4話「委員長って随分と積極的なんだな」
6月末に控えた体育祭に向けて、俺のクラスでは誰がどの競技に出場するのか話し合いが行われていた。
俺のクラスはまぁまぁ前回の制服談義を見てもらうと分かる通り、割とノリの良い奴らが多いと思う。だからこそ、
「絶対学年一位になって担任からアイスを奢ってもらうぞ!」
「おー!」
と活気あふれている。傍でのんびりと眺めている担任はというと、ガリ○リ君なら考えてやると半ば諦め気味に呟いていた。
まぁ俺も楽しみにしている方であるが、こういう決めごとで必ずどこかで詰まることが起きるのだ。それは・・・。
「じゃあまず男子の長距離!誰が出る?」
進行を務める体育委員がそう問いかけるが誰も答えようとしない。それもそうだ。中々進んで長距離走をやるという者はそうそういないだろう。陸上部でない限り。
「誰もいないんかい!」
「じゃあ一旦保留にして女子のを決めましょうか。」
体育委員がツッコみながらも委員長が気を取り直してと声をかけて、女子で誰か長距離に出てくれる子はいますかと声をかける。
しかしここでも進んで挙手する者はいなかった。
これは長引くなと思ったのもつかの間、じゃあと委員長が自身の名前を女子の長距離の所に書いていた。
「え。委員長いいの?」
体育委員が驚いたように声をかける。俺もクラスメイトも驚いていた。委員長はスポーツ万能というタイプでもなく中ぐらいの実力だったようなと思い出す。
「先輩から聞いたんだけど、長距離はそこまでポイント高くないらしくて、障害物競走とかのほうがポイント高いらしいの。私だと障害物競走には向かないと思うから、ならまだ長距離とかならみんなの役に立てるかなって。」
確かに、委員長の頭に付いているツノのことを考えると障害物競走には不向きだろう。網くぐりとか。網に引っかかった魚ではなく委員長。
「(ちょっとそれは見てみたいような。)」
「それにみんなと一緒に何かできるっていうのも嬉しいしね。」
そう言って笑う彼女の笑顔はとても・・・なんというか眩しかった。それに比べ俺は網にかかった姿を面白半分で見てみたいなんてこの差に少し涙を流したくなった。
「い、委員長・・・!」
体育委員が少々涙ぐんでいる。俺の代わりに泣くのか。随分と感動屋らしい。
「じゃあ女子の長距離は委員長にお願いしよう。みんな拍手!」
拍手が起きる中、委員長が少し恥ずかしそうに目を伏せたのは俺は見逃さなかった。
「じゃあみんな。どんどん競技を決めていくよ!」
こうして各競技の出場が決まり始めた。
そして中々決まりかねていた男子の長距離走に俺が出場するとは思わなかった。
「(俺だって想定外だよ。)」
俺だってそこまで運動が得意というわけではない。普通の体力があるぐらいだ。しかし、最後の最後でなかなか長距離の出場者が決まらない中、話し合い特有のなあなあな時間が続いてしまった。
委員長も少し困ったような表情をし、そこでつい言ってしまったのだ。
「俺、やってみようかな。」
と。そうしたら先程の空気が嘘のようにあれよこれよと事が進み今に至る。やると言ってしまった以上、今更辞めるなんてもう言えない。しょうがないかーと諦め、話し合いは幕を閉じたのだ。
放課後。学校から出て帰路につく途中のことだった。後ろから肩をポンポンと叩かれる感触を覚え振り返ってみるとそこには委員長がいた。
「委員長?!」
なんでここにと突然のことに驚く俺に奇遇だねと委員長は平然と答える。
「田中君の後ろ姿が見えて走ってきちゃった。」
「あ、そう・・・なんだ。」
特に用もないのにわざわざ追いかけてきてくれたのか。何とも申し訳ない気持ちになる。
しかし、それとは別に彼女が俺を追いかけてきたという事実に対して嬉しく思う自分もいる。
そんな複雑な感情を抱きながら俺たちはそのまま並んで歩き始めた。ナチュラルに一緒に帰ってるが別に変じゃないよな。普通にクラスメイトと帰っているだけだし。うん。何も変じゃないな。
「あ、そうそう。田中くん、今日はありがとうね。」
「な、何が。」
突然のお礼に声が裏返る。俺今日委員長に感謝されるようなことあっただろうかと。思い当たる節が全然思い浮かばないでいると委員長が今日の話し合いと言った。
「ほら。男子の長距離走やるって言ってくれたじゃない?お陰で長引くことなく終わったから助かったよ。」
「あー。」
さっきのやつか。あの時は勢いだったからな。委員長のためとかではなく自分のためだし。それに感謝されることでもないからなぁと思いつつも委員長が喜んでくれているなら良かったなと思う自分もいる。
結果オーライである。
「私も長距離走れるように慣らしていかなきゃなー。」
「あー。俺も本番ドジやらないように練習しとこっかな。」
正直な話面倒だが、もし本番でなにかやらかすよりはマシである。最下位にならないようにだけ気を、
「あ、じゃあよかったら一緒に練習する?」
・・・え。
「私もやるって言った手前自信がある訳じゃないから。放課後に少し練習しようかなって思って。田中くんもよかったらどうかなって。あ、もし予定とかあったら全然断って、」
「や、やる。」
「え?」
「や、やるよ。一緒に練習。どうせ、俺ほら。暇人だしさ。」
「本当!」
やると話した途端、委員長のツノに咲いている花が大きく開いたような気がする。そういえば、ツノに咲いた植物は宿主の感情とともに変化するって聞いたことのあるような。
「あ。じゃあ私電車こっちだから。田中君は?」
「お、俺はこっち。」
「じゃあここでばいばいだね。練習の予定とかまた連絡するね。」
正直、どうやって帰宅したかのかが覚えていない。気づいたら家に戻っていてベッドの上に寝転がっていた。そしてスマホに、
「金曜日の放課後に練習どうかな?」
と委員長から届いたメッセージに現実だと呟いた。
委員長って随分と積極的なんだな。
ところでなんて返信しよう。
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