第3話「委員長のツノって困ることあるのか?」

突然だが俺の通う高校は男女ともにブレザーだ。

これについて男女関係なく制服で度々論議されるのが、ブレザーと学ラン・ブレザーとセーラー服どっち派である。

すこぶるどうでもいいと前に言った時、友人たちからお前は何も分かっていないと言われ、カラオケに連行され、何を歌う訳でもなく女子の制服に着いて力説された。うんざりした。


「(たかが制服だよな。)」


じっとクラスメイトの制服姿を見てみるが何の変哲もないただの制服である。

しかし、割と俺の高校の制服は可愛い、かっこいいと有名であったりする。故に、


「やっぱりここの制服可愛いよねー!セーターも指定だけど文句なし!」

「わかる~。」

「えー、でも○○高校の制服も可愛いよ。セーラー服で。おっきい赤いリボンなんだって。」


「(…。)」


また始まった。女子による制服談義が。

それに便乗するが如く、


「セーラーって言ったらスカーフだろ。」

「えー、なんで?」

「なんか動いた時にひらひらしてていいじゃん。」

「どこ見てんのよ。」

「はぁ?いいじゃんかよ。」

「あ、でもでも、そこの男子の制服も学ランでかっこいいよー!」

「○○高校って今年の一年生かっこいい人が多いっていうじゃん。そりゃあかっこいい人が学ラン着てたら似合うでしょ。」

「うちの男子が着ても…ねぇ?」

「唐突にディスってんじゃねェよ。」


いつの間にかクラスのほとんどを巻き込んで制服について熱弁し始めた。

口が悪くても仲良き良い事。そして俺に触れてくれるなと全力で願っている。巻き込まないでくれ。

巻き込まれませんようにと窓の外を眺める。そうだ、話さえ聞かなければ、何の話?と回避、


「ねぇねぇ。委員長はどう思う?」


回避しようとしていた俺の耳は都合のいい言葉を拾ってしまった。


「私ですか?」

「委員長はブレザー派?それともセーラー派?」

「うーん。」


窓の外を眺めながら委員長の言葉に耳を澄ませている。

委員長のセーラー服姿か…。


黒髪おさげにセーラー服ってもはやテンプレな気がする。はずれではない。似合っているんじゃないかと想像した所でふと我に返る。


一体何を想像しているんだ俺は。これじゃまるで俺が委員長の事を…。


「(…ないないない。)」


だって俺が気になっているのはあくまで委員長のツノについてだし。うん。


「私は、ブレザーかなぁ。」

「(委員長はブレザー派、か。)」

「へぇ~。なんで?」

「委員長だったらセーラー服似合いそうなのに。」

「あ、それ、俺も思った。」

「(俺も思った。)」

「うーん。ブレザーが着慣れているっていうのが一番かなぁと。」

「そっかー。確かに委員長、うちの制服似合ってるよね。」

「ありがとう。あ、でも一番の理由は、」

「(一番の理由…。)」

「おらー授業始めるぞー。席につけー。」


なんともタイミングが悪い所で休み時間終了の放送が鳴った。そして同タイミングで担任が入ってくる。…次は現文か。


「もー!せんせー、タイミング悪い!」

「今、ブレザーかセーラー派かで話してた所なんすよ。あ、今日の現文、学級会に変更して議題しませんか?」

「生憎、俺がセーラー服派だからその議題は終了だ。」

「何それー。」


クラスにどっと笑いが起こっている中、窓の外へと向けていた視線をこっそり委員長へ向ける。委員長も釣られて笑っている中、俺は委員長が言いかけていた言葉が気になってしょうがなかった。



昼休み、購買に向かおうとしていた俺が運悪く担任に捕まった。

明日の放課後、資料の片づけを手伝えとの申し付け。


何故俺が。

そこに田中がいたからな。


だ、ぞうだ。理不尽を愚痴ったところで担任は、はいはいとじゃあよろしくと手を振りながら去って行った。


お陰で、明日の放課後は潰されたし、購買に一足遅れてしまったし散々だ。


「(やっぱり少ないか。)」


昼の購買は戦争である。少し出遅れたお陰で目当てのものは売り切れてしまっている。俺の焼きそばパン。さようなら。


「おばちゃーん、これください。」


何を買おうか悩んでいると聞き慣れた声がすぐ隣で聞こえた。委員長だった。


「い、」

「あ、田中君も購買なんですね。」


奇遇ですねと笑いかけられて、そうだなとしか返せなかった。

委員長が購買。珍しい。いつもなら教室で弁当広げてた気がするのに。


「田中君は何を買うんですか?」


会計が終わった委員長は俺の手元をじっと見てきた。へっと上擦った声が出て適当に掴んだパンをおばちゃんへと差し出した。

もう、自分が何を買ったのかよく見てなかった。


「め、珍しいな。委員長が購買って。」

「今日はお弁当がなくて。早めに買いに行こうとしたんですが、担任の先生に捕まってしまって。」

「あ、俺もなんだ。」

「そうだったんですね。」


委員長と並んで歩き出す。

そしてまさかのお誘いを受けた。よかったら中庭で一緒に食べませんか?と。


喜んで!とすぐさま返したい所だったが、必死になってる所を見せるのもあれだし、変に断っても、折角の委員長からのお誘いを無下にするのも嫌だし…と悩んだ末にでた答えが、


「委員長さえよければ。」


と、なんとも気の利かない言葉しかでなかった。



そうして、今俺は委員長と並んで飯を食ってる。いい天気ですね~。ここの中庭で昼食をとってみたかったんです~。と委員長が話しかけてきてくれるも、

そうだなとか、へぇ~。としか相変わらず気の利かない返事しか出来なかった。

俺も何か話題振らないと申し訳ないなと思いつつも、話題なんてと悩むと、休み時間の時の事を思い出した。


「委員長ってさ、」

「はい?」

「制服、ブレザー派なの?」

「制服?…あぁ休み時間の皆の論議の。」

「うん。」

「セーラー服も可愛いとは思うんですけどね。一つ困った事がありました。」

「困った事?」


セーラー服で何か困ることってあるんだろうか。

もぐもぐとパンを咀嚼する委員長を見ると、ごくんと呑み込んだのか、再び話始めた。


「その、ツノのせいでTシャツとか着るのが大変で…。」

「ツノ?」

「うん。引っかかっちゃうからシャツの方が着替えのとき楽なんですよね。」

「へぇそうなんだ。」


ツノのせいで服も考えないといけないのか。大変そうだなと思う。

と、いうことは、シャツを着ようとすると、ツノが引っかかるという事だから、


「ふふっ。」


思わず想像して笑ってしまった。服が頭から抜けなくなってる委員長の姿を。

俺の笑った原因を察したのか、少しむっとした委員長が笑わなくたっていいじゃないですかと不貞腐れてしまった。

初めて見る委員長の顔にあ、やばいと慌てて弁解の言葉を探す。


「あ、いやでも!せ、セーラー服も似合ってると、思う…。」


実際に休み時間想像したセーラー服姿の委員長の姿を思い出す。嘘ではない。決して。俺の言葉にキョトンとした委員長は、休み時間の時の様に笑い出した。


「ふふ。ありがとうございます。その言葉に免じて許してあげましょう。」


笑いながら言う委員長にほっと胸を撫で下ろした。今度ばかりは、俺のミスと言えど、気の利いた言葉を返せたんじゃないかと思う。


「あ、でも。田中君も学ラン、似合うと思いますよ。」


覗きこまれながら、にっこりと笑って言った委員長に

さいですかと俺は撫で落とした手をぎゅっと胸元で握った。



ツノがあって困ることもあるそうです。

俺も不意打ちを受けて困っております。

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