第2話「委員長のツノって重いのか?」

小鳥遊羊子。1年3組クラス委員、そして1年生の学級委員長。

成績は中の上。トップという訳でもなく程々の実力。

生徒や先生からの信頼もある方。

よくいそうな委員長タイプの彼女だが、普通ではない事が1個。それは頭から角が生えているという事だ。


先日、まぁ色んな意味で気になっている委員長のツノを見事、触らせてもらった訳なのだが。これで委員長の事を変に意識することも無くなると思ったのだが、


「男の子に初めて触ってもらったからちょっと緊張しちゃった。」


なんて言われてしまったものだから、意識しないように、あくまで知的好奇心を満たす為に触らせてもらったのに、余計に気になってしょうがなくなってしまった。


「(あの夜は結局寝れなかったからな。)」


触らせてもらったツノの感触を思い出すかのように、手をぐっと握り開くのを繰り返す。今まで触った事のない感触。柔らかいものを握った訳でもないのに、変に触ってて飽きなかった感触だった。何故か、こう、癖になる堅さの…。

これは…うん。


「(感触が気に入ったから委員長の事を考えているだけであって、別にどきどきとかはしている訳ではないな。うん。)」


それに、この前は運よく教室で二人っきりになってツノを触らせてもらういう、シチュエーションに遭遇しただけであって。たいてい周りに友人がいる委員長が一人っきりになることなんてそうそうなく、俺も俺で普通にしていれば変に鉢合わせる事なんてないだろう。

そう思ってた。


「あ。」

「あ、田中君。おはよう。」


職員室から出てきた委員長。

鉢合わせることなんてないだろうと考えていた矢先これか。嬉しい様な、少しはがゆい気持ちに包まれる。総じて言えるのは決して嫌ではないという事なのだが。


「おはよう委員長。」

「今日は早いんですね。いつも結構ギリギリなのに。」


家に居ても委員長の事を考え始めちゃうから気まぐれに歩き回って来てるだけなんですとは言えず、


「んー、ちょっと色々と。」

「へぇ~。」


曖昧に返事を返す。というか、委員長、俺が教室に来る時間帯知ってるのか…いや、自惚れるな。たまたまだろう。それにみんな大抵来る時間帯は決まってるし、うん。


「委員長はいつもこの時間帯に着てるの?」

「今日はプリントを各教室に運ぶよう頼まれててちょっとだけ早く来たの。」


そう言った委員長の両手には大量のプリントを抱えられていた。よく見たらこの前委員長が清書していた学年便りだった。

朝から大変だな。だって委員長だものと軽く言葉を交わしながら二人並んで教室へと足が進んで行く。いや、だって、向かう場所が一緒なのだからこれは仕方ないことであって、変に離れても可笑しいし。うん。

あ、そうか。


「半分持つよ。」

「え?」

「それ、重そうだし。」


委員長の腕に納まっている大量のプリント。きっとこれから5クラス分お気に行きと考えると枚数的に重いはず。

俺も半分持ってれば、たまたまそこで出会って委員長の手伝いをしているだけだと思われるだろう。うん、イケる。


「いいの?」

「いいんじゃない。本人が持つよって言ってるんだし。」

「んー、そっか。じゃあお願いしちゃおうかな。」


そう言った委員長に腕の中からプリントを半分ほど受け取る。その際にちょっとだけ手の甲が腕とかに触れてしまったけど、不可抗力であって意識はしていない。大丈夫。うん。柔らかいなとか思ったけどそれだけだ。

にしても…半分でも結構重いぞこれ。


「台車とか、使わないの?」

「台車?」

「台車あったら便利でしょ。職員室になかったっけ。」

「んー便利だけど…その、職員室に返しに行くのが面倒くさくって。ほら、また戻らなきゃいけないし。」


苦笑いする委員長に、なるほど。委員長でもめんどくさくなったりすることはあるのかと妙な親近感がわく。こういう手のタイプの子ってあんまりそう考えたりしなさそうと思ってたけど、ちょっと意外だったな。


「まぁ後、色々と重いのは慣れてるし。」

「慣れてる?」

「うん。」


重いのに慣れてるってそういう事だろう。こういうプリントを運ぶのに慣れてるってことでいいのかな。

委員長の言葉に頭を悩ませながら各クラスにプリントを配っていく。配り終えて自分達のクラスに戻るまで次はこっちだよ、うんとかそんな会話しかしなかった気がする。


「田中君。手伝ってくれてありがとう。」

「どういたしまして。」


助かったよ~と教卓の上にプリントを置いた委員長は首筋を押さえた。

ぐっと上に向かって伸びをする委員長に確かに重かったからなぁと思いつつ、ツノのせいで真っ直ぐには伸びず、変な角度に伸びをしてる委員長。


「(こういう時にちょっと不便なのかな。)」


首、重い、慣れてる。あ、


「委員長のツノって重いのか?」

「え?」

「いや、さっき重いのには慣れてるって言ってたから。」


この前触らせてもらった時、結構な堅さだったから、もしかしてツノそのものに些か強度があるのかと思ってしまう。

強度があれば、重さもあるのが大抵で、


「…あぁ!さっきの!そうなのー。結構ツノって重くてね。」


だから肩とか凝りやすくて大変なんだ~と委員長が肩を叩く。やっぱりツノって重いのか。よく、女子の間で胸が重くて肩が凝るなんて言葉を耳にするが、委員長の場合はそれに加えてツノの重さも…、


「あー、その大変だな。」


頭をかきつつ、視線を逸らしそう呟く。邪な考えと若干赤くなった顔がばれませんようにと思いながら。



委員長のツノは重いようです。

重いと大変ですよね。えぇ本当に。

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