第1話「委員長のツノは本物なのか?」

1年3組学級委員にて、一年生の学級委員長である小鳥遊羊。

おさげ髪に丸メガネをかけた、見た目はいかにも委員長タイプ。

性格はややお人よし。成績も申し分なしだが、トップという訳でもない。

所謂、どこにでも居そうな委員長っぽい女の子である彼女に対して、俺が何故ここまで気になっているか。


それは、委員長の頭にツノが生えているからだ。

誤解なきようにお願いしたいのが、決して、よく見れば可愛いんじゃんとかそういう物ではない。


「田中君?」

「委員長は仕事?」

「あ、うん。学年便りを作ってたところ。」


教室の入り口で突っ立っていた俺に委員長は不思議そうに声をかけた。

やっと開いた口から出た言葉には違和感はなかっただろうか。うまく話が逸らせた様だからいいか。


放課後の教室で二人きり。なんて、


「(恋愛漫画もびっくり展開。いや、まぁそういうのを期待してる訳じゃないからいいんだけど。)」


俺は一体さっきから誰に言い訳をしてるんだろうか。

こんなの普通じゃないよなと思いつつ、ちゃっかり委員長の前の席を拝借する。


「大変だな。委員長の仕事って。」

「う~ん、最初は戸惑う事も多かったけど、皆いざとなったら助けてくれるしなんとかって感じかな。」

「ふーん。」


ふーんってなんだふーんって俺。

もっと気に聞いた言葉とかかけられたんじゃないだろうか。


委員長は所詮、推薦されてなった委員長。

4月、5月と委員長を観察していた結果、お人よしな性格の彼女はその推薦を断れずにクラス委員へ、そしていつの間にか一年生の学級委員長へとなっていた。

けど皆が皆、委員長に仕事を押し付けるのではなく、彼女が困っていると手を貸す友人に囲まれているのだ。

だからこそ、こうやって二人っきりになれるなんて本当に稀なことで。


少し心臓の鼓動が早くなっている気がするけど、普段体験しない事に驚いているだけだ。問題はない。

そう、頭からツノが生えている女の子を目の前にして少し驚いているだけだと。


ある特定の、女子に起きるツノ生え。

思春期に突如、頭からツノが生えてくるというもので、身体に害があったりする訳ではない。ただただ角が伸びて、根元からぽっきりと折れてそのまま生えなくなったり、また生えてきたりと様々らしい。

発症する割合こそ稀という事なので、勿論、俺も委員長を見るまではツノ女子という存在を見たことはなかった。


「田中君は忘れ物?」

「あー、まぁそんなトコ。」


時たま発せられる言葉に短く返す。

かりかりと「6月の学年便り」を清書していく委員長を眺める。

俺の視線はその頭から生えているツノへと注がれた。

黒髪の間からにょきっと生えているツノ。ツノの周りには小さな花が咲き誇っていて、これもツノ女子特有のものらしい。

花が咲く者もいれば、そうでもなかったり。中には、自分なりにアレンジする女子もいるらしい。

最近の雑誌では可愛い角娘特集なんてものも組まれているらしい。なんで俺がそんなに詳しいかって?よく目にするからだ。


「田中君。」

「んー?」

「私の顔に何か付いてる?」


ペンを止め、ぺたぺたと顔を触る委員長。しまった、長く見過ぎたか。

そりゃあそうだよな。何も話しかけないでただただじっと見られれば何か付いてるのかとか思うよな。俺が見てたのはツノの方なんだけど。


「委員長の、」

「私の?」

「ツノって本物なのかなって思って見てた。」


ここは包み隠さず言った方がいいだろう。

決して、下心とかそんな思いを抱いていないでただ単に好奇心ゆえですよと念を込めて。


「あぁ!このツノ?」

「委員長みたいな女子の事、ツノ女子っていうんだろ。」

「そうだね。な~んだ、ツノを見られてたのか。びっくりしちゃった。」

「俺、今までそのツノ女子って見たことなかったから。」

「そっか~。」


とりあえずはごまかせたらしい。不振がられなくてよかった。

それこそ、「あ、なんでツノを見つめてるの…。気持ち悪い。」なんて言われてしまったら色々終わる。そりゃあ俺のメンタル的な何かが色々と。


「皆あんまり触れてこなかったからツノ女子に慣れてるんだなぁって思ったけど。」

「そうなのか?」

「中学の時は、ツノが生え始めたから皆が寄ってきたりとか、まじまじと見たりとかあったけど、この高校に入学した時はそうでもなかったかなぁ。」

「そっか。なんかわりぃな。」

「ううん。見たことなかったならしょうがないよ。あ、よかったら触ってみる?」


…!?

よかったら触ってみる?よかったら、触ってみる?よかったら…触ってみる…?

頭の中で何度もエコーされる。

まさか本人からお触りの許可が下りるとは思わなかった。いや、そりゃ彼女にとってはたかがツノかもしれないが、俺にとっては、色んな意味で気になっている女の子に触るという事で。変じゃないか?!いやむしろこんな考え込む方が気持ち悪かったりするのか?


いや待てよ。逆にここで触って、あ、ツノってこんな感じなんだと学習しておけば、これから委員長を変に意識しないで済むかもしれない。


「い、いのか?」

「うん。いいよー。」


はいどうぞと頭を下げられて目の前にツノが映る。

ちょっとだけいい匂いがするのは、咲いている花のせいなのかそれとも委員長自体に匂いなのか分からないけど、確実に言えるのは、先程より心拍数が上がっている事だった。お、落ち着け。ちょっと触って感想を伝えればいいだけだ。

おそるおそる、手を伸ばして指先でちょんとツノに触れる。


「おぉ…。」


指先から伝わってきた感触を忘れることはないだろう。初、ツノ女子のツノタッチの瞬間なのだから。

委員長が顔を上げる前に、指先で触れていたのを徐々に触れている面積を増やしていく。掌を使って掴んでみると、凹凸とした感触と程よい堅さに少し感動する。

掌で感触を楽しんだ後、凹凸を指先で少しなぞってみる。

委員長のツノは巻きツノタイプだから内側に向かってくるくるとしてる所をなぞる。

もう少し触ってみたい気もするけど、あまり触りすぎるのも女子には失礼だ。あくまで俺は紳士的に、そう。平然と過ごさねばならない。


「さんきゅ。」

「いいえー。」


感触も知れたことだし、これで少しは委員長の事を変に意識することなく、普通に学園生活を送れそうだ。

それこそ、普通のクラスメイトとして。


「男の子に初めて触ってもらったからちょっと緊張しちゃった。」


なんて少し照れたように笑う委員長に、


「んん゛。」

「田中君?」

「なんでもな、い。ありがとう。」


変に意識しないようにの行動だったのに、その言葉のせいで逆効果になってしまった。



委員長のツノは本物みたいです。

迂闊に触ると危ない。主に俺自身が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る