act.3 才能
貧しい家に生まれた俺は、ゴミくずのように扱われながら育った。俺の父親もまたゴミのように扱われながら、町の外れの解体屋で働いていたが、俺が三歳になる前に、機械に押しつぶされて死んだ。それからは、母がボロ雑巾のようになるまで働いて、どうにか俺を養っていたが、俺が十二の頃に厄介な伝染病にかかり、徐々に衰弱していき、半年後にポックリ逝ってしまった。
貧しい家なんてこんなものだ。
俺はゆりかごの家という施設に入れられた。そこは表向きには孤児院だが、実態は強制労働施設だった。親のいない子達に過酷な作業を指せ、劣悪なねぐらとマズイ飯を提供する場所だ。二、三年そこで働いて、その後はエスカレーター式に、街に点在する肉体労働施設に就職させられるシステムになっていた。
俺も親父や母親のように、体を犠牲にして死に物狂いで働き、どうにか食いつなぐだけの生活をし、いつの日にか下らない場所でのたれ死ぬ運命をたどるはずだった。
だけど、俺には一つだけ才能があった。
人を殺す才能だ。
十四の夏、施設に五人組の強盗が入った。施設長はあっと言う間に惨殺され、子どもたちも次々に殺された。だが、俺だけは殺されなかった。
強盗たちが寝室に来たとき、俺は汚い毛布に包まれた下で、モンキーレンチを握りしめていた。
「弾を無駄にするなよ」
強盗のリーダー格の指示を受けて、強盗たちは一枚一枚毛布をめくり、人がいた時にだけ引き金を引いた。
ケチケチしやがって、だけどおかげで、一瞬のチャンスがある。
俺は息を潜めて、強盗の足音に耳を澄ました。
強盗が近くに来た。
俺は二段ベッドの上段にいて、下に施設で一番に仲の良い友達が寝ていた。
強盗が、友達の毛布をはがし、銃を撃った。
今だ!
俺はベッドから飛び出し、レンチに全体重を乗せて、強盗の頭を殴った。
グアンという鈍い音がして、強盗の頭がへしゃげた。
残る四人の強盗たちは、目を丸くして俺を見た。
ふと横を見ると、頭を打ちぬかれて、顔の半分が吹き飛んだ親友が、片目だけで俺を見ていた。もう片方の目は、血と肉片になって、壁にこびりついている。
「おい、撃て!」
強盗のリーダーが叫ぶ。
俺は殴り殺した強盗の体を引っ張り起こして盾にした。
幸運なことに、強盗は防弾ジャケットを着ていて、何発撃たれようとも、弾は貫通してこなかった。
カチ、カチ、カチッ……。
間抜けなことに、むきになって銃を撃った強盗たちは、軒並み弾切れを起こした。
俺は盾にしていた強盗の体を蹴り飛ばし、強盗のリーダーに飛びかかった。
過酷な労働のおかげで鍛え上げられた俺の腕力は、子どものわりに強かった。
レンチで殴りつけると、リーダーの頭が水に濡れたパンのように柔らかく歪んだ。
「おい、このガキ……」
「どうするんだよ?」
「やばいぞ、逃げろ!」
リーダーを殺されて、残る三人の強盗たちは縮み上がった。
みんな、弾切れの銃を捨て、廊下に走り出ていった。
「なんだ、お前ら?」
廊下から、三人とは別の声が聞こえた。
ダンッ、ダンッ、ダンッ、三発の銃声が続く。
「まったく、何で、もう死んでるんだよ、いったい?」
声の主が、寝室をのぞきこんだ。
「うおー」
俺は雄たけびを上げながら、その男にも殴りかかった。
しかし、彼はひらりと身をかわし、俺を押さえつけた。
「なんだ、ガキかよ。ここに入れられてるガキか?」
俺の手をひねり上げ、顔を地面に押し付けながら、彼はたずねた。
「何があった?」
俺は床にほおずりしたまま、事情を説明した。
「そうか、俺は強盗じゃないから安心しろ。どちらかと言うと、お前の味方だ」
「どういう意味だ?」
「ここの悪徳施設長を殺して欲しいという依頼があったんだ」
「あんたは、殺し屋……?」
「ああ、A級の殺し屋だぜ。すごいだろ?」
それにしても、と彼は周囲を見回した。
「この強盗二人は、お前が殺したのか?」
俺は肯いた。
「友達が殺されるのを見捨ててかよ」
「じゃないと、俺が死んでたから」
「そうだろうな」
ふんっ、と殺し屋は笑った。
「気に入った。一緒に来い。弟子にしてやるよ」
「弟子?」
「お前には殺しの才能がある。それを活かしたほうがいい。こんな施設で働くより、殺し屋のほうがマシな生活ができるぜ。どうだ、来るか?」
俺はまた肯く。
「じゃあ、決まりだな。俺はライトだ。お前は?」
こうして、俺は殺し屋になった。
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