act.4 勧誘
札束を持ってアジトに帰った俺は、兄貴分のライトにそれを見せびらかした。
「どうだ、あっさりと依頼をこなしてきたぜ」
ライトは俺の手元を見て、目を細めた。
「やるじゃないか!」
ライトはソファーに寝そべりながら、銃の手入れをしていた。部品を磨き、油をさす。ちょっとした歪みも命取りになるから、銃身の感触も念入りに確かめている。
「仲介屋が、次の依頼を成功させたら、A級と認めてやるってさ」
「じゃあ、次は慎重に選んでやる。B級もちゃんと無傷で終えられるようにな」
「A級になったら、難しい仕事をバンバンこなして、すぐにライトを追い抜いてやる」
「ばかっ。A級になったら、もっともっと慎重に、確実に達成できる依頼を選ぶんだよ。俺がな。下手な仕事に手をつければ、身を滅ぼすことになるんだ」
「そんな温い事をしてるから、ライトはいつまでたってもS級にしてもらえないんだ!」
「一度でもへまをしたら
「危険な仕事には手を出すなって言うんだろ。でも、それじゃあ、たいして稼げないし、クラスだって上がらないだろ」
「いいか、俺たちの仕事は下手したら死ぬんだぞ。殺し合いになるような危険な仕事は極力避けて、安全な仕事をすべきなんだ。それでも充分に良い暮らしができる」
「だけどさ……」
俺がほほを膨らますと、ライトは笑った。
「そんなガキっぽい仕草をしているうちは、俺の言うことを聞いておけ。一人前になったら、自分で仕事を選べば良いさ」
そう言いながら、ライトは銃を組みなおした。
「安全な仕事を選んでも、安全だとは限らない」
窓の外から声が聞こえた。
「誰だ!」
ライトは窓に向かって銃をかまえた。
「えっ、ガキ? でも、ここは五階……?」
窓の外には十歳くらいの少年が立っていた。
ガシャン。少年は窓を蹴破って、部屋に飛び込んできた。
「この野郎。殺されたいのか!」
ライトは少年に銃を向けたまま叫ぶ。
「まだ、弾を入れていないはずだ」
少年はニッと笑い、ライトに詰め寄ったかと思うと、背中のベルトからサバイバルナイフを取り出し、ライトに向かって振り下ろし、ナイフが胸に深く突き刺さった。
ぐっ、とライトが声を上げ、口から血を吐いた。
「このっ!」
俺はスローイングナイフを少年に向かって投げた。
少年はライトの腕を盾にしたが、ナイフは腕を引きちぎり、少年に向けて飛んだ。
「くっ」
少年は寸でのところで身をかわした。それから、間髪いれずに俺に駆け寄ってきて、足を払って床に押し倒した。
首筋にサバイバルナイフをあてがわれる。
「その男は、俺たちの仲間うちでは
「だから、なんだよ!」
精一杯怒鳴りつけてやったつもりだった。だが、声はか細く震えていた。
「そんな男だから、ついに殺しの依頼が出たってわけだ」
少年は俺を見下ろして、
「だが、お前への依頼は出ていない。どうだ、助けて欲しいか?」
「くそっ、ガキのくせに生意気な!」
「お前はいくつだ?」
「十五だ……」
「なら、お前の方がガキじゃないか。俺は十六だ」
少年は愉快そうに笑った。
「さっきのナイフ。切れ味がすごかったな。どこで手に入れたんだ?」
「普通のナイフだよ」
「あんなのが売られてるなら、俺はそっちを使ってるさ」
「そこいらで買ったのを磨いたんだ」
「お前が?」
「少し前まで、金属加工の作業所で働いてたから」
「いい腕だな。どうだ、俺の下で、ナイフ磨きをしないか。お前に殺しは向いてないよ」
「向いてない?」
「さっき、ナイフがあの男の腕に当たったとき、顔をしかめたろ?」
少年が首を傾げる。
俺は肯いた。たしかに、自分のナイフがライトの腕を切り取ってしまったのはショックだった。
「身内だろうと、眉一つ動かさずに殺せるようにならないと、この世界では行きぬけない」
「えらそうに!」
「だが、ナイフ磨きとしての腕はこの俺が保障する。それを活かせば、今よりずっと良い生活ができる」
ライトを殺したやつの下で働くなんてありえない。そう言おうとしたが、俺のあごは無意識に肯いていた。
「悪くない反応だ。そうだ。たとえ兄貴分の仇でも、敵に回して犬死してもしかたない。怒りは忘れて言うことを聞いておいたほうが身のためだ。殺しの才能はいまひとつでも、生きる才能はあるみたいだな」
少年は俺の体からおりて、起き上がろうとした俺に手を差し出した。
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