第2話

 さーてどうしたものか。あの後彼女に何回も説得を行ったがてんでダメだった。絶対の自信と眼差しを持って「貴方じゃなきゃダメなんです」と主張して来た。それに彼女がとても辛そうで悲しそうに思えたのだ。これはダメだなと思い、折れることにした。で、彼女はいま僕の家にいるわけだが。


「うわぁ凄いなんか凄い、男の人の部屋だ」


 と意味分からない感想を言い、心を躍らせていた。僕はこの状況に意味が分からないとしか言いようがない。

 とりあえずいま必要なのは状況把握だった。


「あのさ、楽しんでるところ申し訳ないけどさ、なぜこんなことになってるのか説明を願う」


「説明ですか?今見てるものが全てですよ?」


「ちがーう!見えないところの説明を求めてるの」


「あーそういうことですか。分かりました」


 そういうと彼女の雰囲気が緩いものから真剣のものに変わった。


「超能力ってのは知っていますか?」


「あぁ、最近有名なってるからな。それがどうした」


「それが実在すると思いますか?」


「実在するんじゃないか。だって世界がそれを研究しようって言ってるんだし」


「実際に見たことはありますか?」


「ないな」


「なのにその存在を信じるんですか?」


「信じるも何もないだろ。認識出来ないからってその存在を否定するのは間違っている。有ると思うのも無いと思うのも個人の自由だろ。僕は科学はそういう有り得ないとされたものを探求し続けて、実際に発見して発展して来たから、そういう類のものは信じるようにしている」


「そうですか。予知はハズレでは無かったようですね。少し安心です」


 彼女は静かに胸を撫で下ろしていた。ちょっと安堵しているようだった。


「ハズレ?予知?どんどん謎が深まるんだが」


「ごめんなさい。少し道から逸れました。じゃあ戻します。なんで私が見ず知らずの貴方に声をかけたか。それは未来が見えたからなんです。貴方と私が出会う未来が。私はそれを頼るしか無かったんです」


「頼るしか無かった?ますます分からない」


「私は未来を見る能力があるんです。いわゆる超能力です。そして今まで日本の特殊能力研究機関に拘束されてたんです。そこを抜け出して真っ先に見た未来が貴方だったんです」


「まぁ色々ツッコミたい所はあるけどとりあえず大雑把には理解した。色々質問して状況を整理したいけど、ごめん。眠気がやばい。続きは明日で構わないか?」


「はい。大丈夫です。それに私も歩き疲れて、今すぐに寝たいです」


「よし、決まりだな」


 僕は押入れから、布団と掛け布団を引っ張りだし、それを床に敷いた。最近買ったのでふわふわだった。


「うわぁこれ凄い!ふっかふか。ありがとうございます」


「どういたしまして」


 彼女はお礼を述べるとすぐ眠ってしまった。相当疲れていたらしい。自分もすぐ眠気が襲って来た。頭はいまとても混乱してるがそんなこと気にする必要は無い。明日のことは明日の僕に任せれば良い。今日の僕は寝ることに専念するだけで良いのだ。そうして深い深い眠りに落ちた。



 朝、カーテンから漏れ出る光で目を覚ました。目をこすり床に視線を向けると彼女がいた。まだぐっすり眠っていた。昨日ことが夢でないことを確認し、彼女を起こさないようにベットから降りた。歯磨きやらを終えた後、キッチンで朝食を作り始めた。トーストとソーセージと目玉焼き。まぁどこにでもある朝食だ。それを二人分。誰かに朝食を作るのはこれが初めてだった。


「…おはようございます」


「おはよう。洗面台で顔とか洗ってきたら?歯ブラシは洗面台の下の引き出しに新しいのあるからそれを使って」


「…ありがとうございます」


 一通りのことを終え、彼女が戻ってきた。ただその表情は曇っていた。


「ほら、よかったらどうぞ」


 椅子を引いて座るように促した。彼女は座らず、ただ立って僕を見ていた。


「もしかして罪悪感とか感じてる?もう遅いよ。僕は君を助けるつもりだよ。何も気にすることは無いよ」


「そう言って頂けると嬉しいです。こんな受け入られると思っていなくて」


「まぁ普通なら通報されるだろうが、僕は人を助けるのが好きなんだよ。だから大丈夫」


 何年ぶりにその言葉を発した。トラウマが蘇って、少し体が震えたが、今度なら大丈夫。僕は成長してるんだ。そう言い聞かせた。


「そうですか…!」


 彼女の顔に笑顔が灯る。やっぱり人には笑顔が一番似合う。暗い表情なんか出来るだけしない方が良いのだ。


「よし!じゃあ早く食べなよ。せっかく朝食が冷めちゃう」


「はい!」


 彼女は椅子に座り、朝食を食べ始めた。

 何度も食べるたび、おいしい、おいしいと笑顔で言ってくれる彼女を見て、心が熱で満たされていた。



 朝食を食べ終えて、僕らは昨日の話の続きを始めた。

 とりあえず分かったことは彼女が能力者であり、いままで日本の研究施設に監禁されていたが、脱走し、なんとかここにやって来たという事だ。これだけで小説が書けるレベルだが、現実だと認めざるおえない。


「両親は大丈夫なのか?」


「両親は…大丈夫です」


 深刻そうな顔で言うので、地雷を踏んだと思い、すぐさま話題を切り替えた。


「そのさ、日本は公言してないけど秘密組織的なのがあるんだろ。そこから逃げ出したら追っ手とか来るでしょ普通」


「それは心配無いと思います。超極秘なので表には手は出せないと思います。だから普通に生活してる分には問題ないかと」


「ちょっと怖いな。それを能力で確かめることはできないのか?」


「この能力、不定期なんです。自分では制御できないんです」


「じゃあそれはとりあえず保留で。何か見えたら教えて」


「はい」


「で、これからどう過ごそうか。その秘密組織とやらも調べなきゃいけないし、逃げる手段とかも考えてほうが良さそうだな、あと…」


「あのー」


「うん?」


「私達、まだ互いの名前を知らないと思うんですけど」


「あっ、ごめん。すっかり忘れた。

 僕の名前は信条 しんじょう あきら

 あと少しで大学生になる」


「私は、青葉 あおば あかりです。

 年齢的にいえば高校一年です」


「じゃあ年下か」


「そうなりますね。先輩」


「普通に恥ずかしいからそれはやめよう。信条って呼んでくれ」


 初めて先輩呼びされて少し動揺していた。


「じゃあ私のことは燈って呼んでください」


「えっやだよ。青葉で良いだろ」


「じゃあ先輩呼びしますね。先輩?」


「あーもう分かった分かった。「「燈」」。これで良いだろう」


「はい!ちょっと照れますね」


 彼女は赤くなった顔を手で隠して、左右に揺れていた。なんかこっちも照れくさくなった。


「何かしたいこととかあるか?バイトは週に3日しか入れてないし、金は幾らでもあるぞ。親が大量に仕送りしてるからな」


「ご両親、お金持ちなんですね」


「お金しか持ってないんだよ」


「……もし良かったら…」


 彼女は上目遣いで少し恥ずかしそうに聞いて来た。


「私のわがまま、聞いてもらって良いですか?」


「もちろん。出来るだけ付き合うよ」


 こうして僕らの日常が始まった。

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盲目の燈 @NARS

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