#046 『 力 』
オリヴィアの柔らかい唇が俺の唇と重なり合うそんな状況を内心、ドキッとしながら、俺は今の現状がどうなっているのかを把握しようと脳内をフル回転させる。しかし、すぐにショートするかの如く、頭が真っ白になった。
そして数秒間ものキスの時間が流れ、オリヴィアは唇を話すと後退りしながら自分のした事を改めて認識し、恥ずかしそうに照れながら顔を赤くしていた。
前世では同棲経験まであった俺だったがいつも自分から攻めていたせいで、こうした攻められることは想定していなかった。
故に俺は何も考えられずただ顔を赤くさせ、まるで恋愛をしたことがないかのような動揺を見せていた。
そして、二人ともに動揺しながら黙ること数十秒。
ついに沈黙に耐えきれなかった俺は口を開こうとしたが先にオリヴィアが沈黙を破るように口を開いた。
「いっておくますけど!! べ、別にそういうわけじゃなくて。
私は元から、って違くて、だから…………。」
一人、モゴモゴとする中でオリヴィアは「違うから!!」とだけ叫ぶとそのまま駆け足気味に天幕を出ていく。
「なんなんだよ……。」
一人残された天幕で俺は深呼吸するとそのままその日は何もすることが起きず、天幕内のベットに横たわるとそのまま意識を手放した。
翌日。
天幕のベットで起きた俺はいつものように朝日を浴びるために天幕を出る。
するとそこには汗でびっしょりとした兵たちが満面の笑みで俺を見ていた。
「陛下。これをご覧ください!!」
そう告げる部隊長に俺は反応するようにし視線を動かし、彼の見せたかったものを見る。
そこには、二頭の馬に牽引された木材が二台あった。
「これを、どこで?」
訊ねる俺に部隊長は静かに告げる。
「陛下のことを思い、勝手ながらに夜通しで本国から輸送してきました。」
部隊の兵たちと同様に頭を下げながら応える部隊長に俺は驚く。
本来、このような仕事を行う必要がないにもかかわらず、彼らは自分の意思で解決策を見つけ出し、命令違反による罰則を覚悟してでも行動した。
その様を見て俺は笑みを浮かべると彼ら向かって告げる。
「攻城兵器を夜通し持ってきたことは良いことだ。これを持ってすれば都市を落とすことは容易だ。」
そう持ち上げた上で俺は続けるように告げる。
「だが、依然、命令違反を犯したことに変わりない。
よってお前たちには罰則を与える。」
少しばかり、威圧しながら俺は目の前に跪く部隊の兵たちとその部隊長目掛けて宣告する。
「これよりデヒューバース地方の攻略が終わるまでの間、お前たちの食料から一品少ない量を与えることとする。」
その罰則に兵たちはキョトンとする。
当然だ。いかに罰則とはいえ軽すぎる。しかし、時にこの罰則は効果を発揮する。
例えば、このような状況の場合では特にそうだ。
目の前の部隊長は、今作戦の意味を十分に理解した上で都市攻略に必要な攻城兵器を持ってきた。
これによって都市が陥落すれば、作戦は次の段階へ進むことができるため、彼らの行為は賞賛されて然るべきだ。
しかし、それはそれとして、命令違反を無視するのはいただけない。
例えば、今回の件で彼らを賞賛し讃えることになれば、兵たちは皆、結果良ければ命令を無視しても良いという考えを持ってしまう。
そうなれば、命令違反は常習化してしまい、軍としての体裁を保てなくなってしまう。
故に、どんなにいいことをしても命令を無視すれば罰を与えることを示さねばならない。だが、いいことをして罰せられたのでは人は自分から行動しなくなり次第にただ命令を聞くだけの指示待ち人間になってしまう。
これらを防ぐためにも罰は固定化されたものではなくそのものの犯した罪の重さ分だけの罰が必要だ。
実際に彼らは軍全体のことを考えて行動した。その結果勝利は明確になった。
これを踏まえた上で命令違反だからと処刑でもしようものなら兵たちは俺について行かなくなる。
しかし、今回のように食事の量を一品少なくする罰は一見して軽すぎるが、常に体を動かしエネルギーを消耗する兵であればその一品が時に貴重となる。
とはいえ、受け入れられないほどの重さの罰でもないために兵たちは遅かれ早かれ受け入れざるを得ない。
そうした微妙な塩梅を理解してうまく活用すれば、アメとムチの法則のように人は自ら進んで成長する。そうして成長してもらえれば、より強大な力を持つ軍隊を俺は従えることができる。
臨機応変な対応ができる柔軟性に上からの命令に従順な従属性を兼ね備えた不敗の軍。
それこそが俺のめざす軍のあり方だ。決して常勝の軍ではなく、不敗の軍を目指すことで一つ一つの勝利を重ねて国力を増幅させる。
そこを視野に入れているからこそ、俺は目の前の兵たちに向かって罰を宣告した。
軍とは組織である。それは変わりようがない事実であり、個人の身勝手な行動は組織において許されない。
なぜなら個人の身勝手な行動が組織全体の命運を分けることもあるからだ。
故に俺は、彼らを罰して組織としての行動を示した。
個人の力に頼らずに皆で支え合って前に進む。それそこが俺が下した決断だった。
罰則の内容を聞いた兵たちがキョトンとする中、俺は一人。
遠方に昇る太陽を眺めて、朝日を全身に浴びる。そして俺は命令を下す。
「総員、用意!! 一時間後に出発だ!! 目指すはペンベルクだ!!」
声をあげて命令を発する俺に、テントから出てきた兵たちが慌てて「「はい!!」」と応える。そして、そのまま未だ寝る兵を叩き起こし、出発の準備を行う。
兵たちが慌てながら馬の準備や鎧の準備、剣や槍、弓矢などの準備をする中、俺は身支度を整えた。
◇・◇・◇
準備を整えた我がウェストリー王国軍は整然とした態度で再びペンブルクの都市を攻める。
だが、今回は以前とは違い、攻城兵器を用意していた。
「撃て!!」
俺の声に応えるように兵たちは攻城兵器、通称投石器のレバーを引き、投石を開始する。
ヒューとまるで矢のように飛んでいく投石に俺は笑みを浮かべてつぶやく。
「落ちろ。」
次の瞬間、バコンという一際大きい衝撃音に僅かながらに遅れて衝撃が大地をめぐる。
城壁の上で都市を守っていた兵たちは一瞬何が起こったのかも理解することなく、呆然と立ち尽くす。
その僅かな隙を見逃すことなく俺は続けて、叫ぶ。
「総員!! 突撃!!!!! 城壁を登り、都市を落とせ!!!」
馬を駆けさせて前線へと出る俺に兵たちは「「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」と叫びながらついて来る。
その光景に当てられてか、城壁を守る都市の兵たちは慌てて弓を構えて矢をこちらに向けてくる。しかし、その矢が俺に届くことはなく、むしろ弓兵たちは頭上から降ってきた岩石に潰され、城壁は壮大な音を立てながら崩壊していった。
その僅かな隙間を縫うように俺は馬を都市内へと入らせると剣を掲げえて都市内の掃討を命じた。
「抵抗するものは容赦無く殺せ!! ただし、降伏するものには手を出すな!!」
その命令に兵たちは「「おう!!」」と唸るように応えると都市になだれ込みすぐさま都市のあちこちで煙が上がり剣戟音が響いてくる。
そしてそれは城壁も同じで弓兵たちは背後から登ってきた兵に脅かされながら戦っていた。
そうした中で俺は十人の騎士を連れて一際大きい屋敷に突撃した。
防衛の兵たちを騎士たちに任せて、俺はズカズカと奥へと進む。
そして屋敷の奥の扉を蹴り上げるとそこには、怯えて泣く子供を抱きしめる女性がポツンと床に座り込んでいた。
その様子に俺は一瞬、困惑を見せるも、即座に背後からの殺意に気がつき剣を構えた。
キンという金属音が部屋に木霊し火花が散る。
「降伏する気はないようだな。」
殺意高く告げる俺に目の前の男は応える。
「お前ごときに降伏などはせぬよ。」
「なら、地獄に落ちろ!!」
短い会話をして俺は再び男と剣を交えた。
実力は向こうが僅かに上ではあるが、男とは違って俺にはこの部屋に守るべき相手がいなかった。
故に、男は部屋の中でうずくまっている女性や子供を守りながら俺と対峙するしかなく、俺は女性や子供たちを人質のように使うことができた。
剣の技量は同じが故に剣戟が激しさを増す。
剣を振るっても相手はそれを受け止め、カウンターを放つ。
そのカウンターをカウンターで返すという俺と男の戦いに子供達や女性たちの啜り泣く声が増していく。
互いに擦り傷を負い、未だ決定打にかける中、廊下の方から騎士たちの声が聞こえてくる。
屋敷を護衛する兵たちを片付けた騎士たちは数分もすれば、この部屋に雪崩んでくる。
そのことを暗示するかのように俺は笑みを浮かべると、再度男に向かって降伏を呼びかける。
「降伏しろ。さすれば、お前の後ろにいる女性と子供たちは生かしてやる。どうせ、お前は助からないどうだ?」
「敵の言葉を信じろと? ばかを言うな私は最後まで諦めない。」
フラフラになりながらもただ意思の力だけで立っていた男は俺の言葉に応える。
「そうか。残念だ。」
そう告げて俺は、少しばかり右手の力を解放した。
右手が黄金のように光り輝き、男はクッと目を霞ませた。
刹那、男の首は宙を舞う。
そして、続くように館が震えドカンと言う爆発音が都市に響く。
女性や子供たちは吹き飛ばされ、屋敷の奥は木っ端微塵に吹き飛んだ。
館が吹き飛んだ衝撃で空へと吹き飛ばされた木片の一部が空から降ってくると俺は剣をしまった。
男の体は無造作に吹き飛び、館の柱が突き刺さっていたが、頭部だけはその場に落ちて血溜まりを作っていた。
女性や子供たちは吹き飛ばされたものの、どれもかすり傷程度で奇跡的に無事であった。
そんな女性に俺は近づくと威圧的に告げた。
「降伏しろ。」
短く、端的に告げる俺に女性は恐怖を抱いてしまい、顎が動かずに唇だけがパクパクと動いていた。
そんな状態の中で突如、吹き飛ばされた騎士たちは俺の安否を気にするように駆け寄ってくる。
すでに街に響く剣戟音はほぼ無く、兵たちも大勢が吹き飛んだ屋敷の周りに集まっていた。
戦いは終わり、ペンベルクと言う港湾都市は陥落した。
そのことを内心に思いながら俺は己の右手を見ると拳を握った。
先程の爆発はほんの一パーセントの力しか出していなかったにもかかわらず、屋敷はその力に耐えきれずに吹き飛んだ。
この力の持つ威力は絶大。
それを改めて認識した俺は一瞬目を瞑り考えると右手の力はやはり封印することにした。
大きすぎる力は時に人を狂わせ滅亡させる。
そのことを思い出しながら俺は瓦礫の山になった屋敷を後にした。
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