よびごえ
「時は満ちた」
「こっちへ来い」
「お前の欲しいものは分かっているぞ」
どこからともなく、声が聞こえる。か細く、地の底から響くような声だが、大方こんな感じのことをいつも言ってくる。
害はない。少なくとも今のところは。恐怖を感じる以前に、すっかり耳が慣れてしまった。
この声は僕をどうしたいのだろう。陥れたいのか、与えたいのか、判断材料はあまりにも少ない。
最大の問題は、本当に”どこからともなく”聞こえてくるために、声のもとへ近づこうにも遠ざかろうにも、自ら行動に反映させるのが何一つできないことだ。声の主は、このことが分かっているのだろうか。みんなお見通しで、戸惑う姿をあざ笑っているのかもしれないし、声の背後には何一つ存在せず、ただ僕の聴覚に響いているばかりだとしても不思議ではない。
思考だけがどこまでも空回りしている。結局のところ何一つ分かることはなく、僕はただ益のない考え事の対象を一つ余計抱えているわけだ。
声はただ、今日も耳にこびりついてくる。
「時は満ちた」
「こっちへ来い」
「お前の欲しいものは分かっているぞ…」
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