レフトビハインド

 大きな両開き扉が佇んでいる。真鍮や黄金のような光沢のある扉はあちらに向かって大きく開かれていて、その先は眩しさのために見えない。


 光は扉の向こう側で闇の中に壮麗に輝き、すべて正義も神も天国も、この世に確かに存在していることを予感させてくれた。


 だが、扉を隔てたこちら側に光は漏れては来なかい。光は向こう側でだけ存在していた。


 四角く区切られた輝く扉の向こう側は、少しずつ幅を狭めていく。扉は重々しくゆっくりと、しかし確実に閉じていく。


 永遠に扉が閉じられてしまう前に駆け込まなければいけないのだが、身体は静止したままで、よく見ると自分には立って歩くための足が無かった。


 扉はほとんど閉じつつあり、狭まりつつある光は長方形から一本の線に変わっていた。


 声にならない狂おしい叫びがどこからともなく聞こえたが、耳を澄ませばそれは口の無い自分のものなのだった。




 扉は今や存在せず、色を持たない暗闇の中、自分の指先すら見ることはかなわない。


 あとに残ったおれだけは、光の残り香までも憎まねばならぬ。


 揺れ湧くこころがおれを目覚めさせ、もうやすらぎを望みはしない。


 まだおれは、叫び続けなければいけないのだ。

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