やけくそぎみに狭き門

富める者が天国に入るのはラクダが針の穴を通るより難しいが、人智を超えた難易度調整のあおりを喰らうのは、なにも彼らだけではない。


自分こそは天国へと至る資格があると考えていた者は、まず地獄の門をくぐらせられながら天を呪う。次にその者は、一足先に無限の責苦を負わされている錚々たる顔ぶれを前に、呪うことを忘れる。


「あんたは!十字架にかかって神さんのとこに行ったんじゃなかったのか!」

「信者がやらかすと監督不行き届きで刑期が伸びるんだ」


いばらの冠を抱く神の子は、脇腹の古傷をさすりながらそう言った。


奈落の底でバラエティ豊かな苦痛を与えられながら、彼らは再び天を仰ぐ。羨望することすら忘れ、栄光ある彼の地に入ることを許される死者とはどんな奴らなのだろうと思いを馳せる。


地獄の虜囚たちの予想は様々だが、事実はそのほとんどに反していて、天国には誰も住んでいない。決して踏み荒らされることのない無人の輝く園は、無限の広さを持って無限の時を過ごす。時空を超えて無限であるために、時折そのかけらが自我を持つ主体によって知覚されることがある。ひとがある瞬間に安らぎや救済を感じるのはこのためである。


聖書のことばはいつも正しい。神の国はあなたの中にある。自分自身でさえ踏み入れることのできない、純粋な光として。

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