第10話 緑子 ヒーローのテストを眺める

特務対策課の開発部門より連絡があった爆覇ばくはは、ようやく退院した緑子と共に、開発テストルームへと足を運んでいた。


「今日はなんのテストをするの?」


「俺もまだ聞いてないんだよな……この前の魅惑将軍とかいう女と戦った戦闘データをもとになんかやってたらしいけど」


爆覇ばくはもよく分からないらしく、落ち着かなそうに開発担当の者が到着するのを待っていた。


「遅くなって申し訳ない、最終調整に手間取ってしまってね」


そう言いながら部屋へ入ってきたのは開発主任と小村社長。


「社長もテストに参加されるんですか?」


「今日は、先日の精神攻撃に対抗できる遮断装置の開発に成功したのでそのテストをするつもりなんだよ、上手くいくようなら実戦配備として戦闘部隊のスーツに組み込む予定なんだ、勿論『メタルバン』のスーツにもね」


「なるほど、じゃあ私はそれを見学してたらいいんですね」


「あぁ君は回復したばかりだし、あの精神攻撃は女性には効果が薄いようだから爆覇ばくはや私達の様子ががおかしくなったらこのボタンを押して止めてくれ」


とタブレットを渡してきた。


「分かりました」


少し離れて見学することにした緑子、社長は続けて爆覇ばくはへ説明を始める。


「先日の魅惑将軍の精神攻撃は、男性だけに作用すると思われる一般的に分かりやすく言えば『高周波』のようなものだと戦闘データで観測された、そこで開発部門に急がせてそれを遮断する装置を開発したのがコレだ」


と、小さなイヤーモニターのような物体を差し出してきた。


「これを耳にはめると、高周波を相殺できるはずなんだ」


「なるほど、じゃあ早速つけてみます」


爆覇ばくはは耳へモニターを装着する、すると何か音が聞こえてきたようで、ものすごい渋い顔をしている。


「社長……あの魅惑将軍が出てきたらずっとこの声聞かないとダメなんすか……?」


「仕方あるまい……現状が最も確実に防いでくれるんだよ」


社長も同じく渋い顔で装着する。


「では、テストのために装着なしの人間も待機させてくれ!」


と社長は号令をだして、準備を急がせた。


「では始めるぞ!」


その声と共に、緑子の耳には何も聞こえて来なかったが、明らかに装着してない人達の様子がおかしくなってくる。


じっと長椅子へ座っていたのだが、フラフラと体が揺れていたかと思ったらバタリと椅子に倒れた。


「これは……」


と、思わず駆けて行こうとした緑子だが、横にいた女性の開発担当部員に止められる。


「まだ待機でお願いします」


といいながら様子を見ている。


5分ほど経過しただろうか、小村社長が


「よし、部屋にも流してくれ!」


と指示を出した瞬間、部屋の中に重厚で陰鬱な合唱ともいえないもの……通称『お経』と呼ばれるものが流れてきた、そのとたん意識を取り戻し何事もなかったように起き上がる職員たちをみてやっぱり緑子も渋い顔になってしまうのであった……。


「実験は成功だな! これを正式採用して全員に配備しよう」

と真面目な顔でいう小村社長、それを見て爆覇ばくは


「これ、自分で唱えても効果あるんすか?」


と気になって聞いてみた


「それが、普通の人間が唱えてもあまり効果がない様なんだ。 ただ本職の住職を父に持つ、知識や作法などを身につけた職員が唱えたら効果があったんだよ、だからといって特務課全員で出家するわけにもいかないだろう?」


とやはり渋い顔で答える小村社長。


「確かに……人々の平和は守りたいですけど、お墓の平和の面倒までみるのはごめんですからね」


爆覇ばくははブツブツよく分からないことを言っている。


「とにかく、新型戦闘スーツにもこれを組み込んで新しく配備するからそれまでよろしく頼んだよ!」


と小村社長は研究員たちを連れて颯爽と部屋を出て行った。


「もう当分あの魅惑将軍出てこないでくんねぇかな……」


とポツリとこぼした爆覇ばくは、彼はフラグというものの存在を未だに知らないのであった。

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