第9話 緑子 慟猛将軍と激闘する

 最初の激突からどれくらいの時間がたったのであろうか。

アーニマールの突きを防ぎ、蹴りという名のヒョウの前足から繰り出される爪の斬撃を躱し、後ろ足からの薙ぎ払いに上空へと飛び上がる。


「どうした? 防戦一方では我には勝てぬぞ?」


と余裕の表情で緑子を見るアーニマール、人型とは違う戦闘スタイルに戸惑いを隠せない緑子。


「中々面倒な……」


突破口を考えているうちに、しゅるりと足首に尻尾が巻き付く


「しまった!」


声を出し振りほどこうとしたがもう遅い、そのまま一気に緑子を引きずり駆け出していくアーニマール。


「油断大敵ぞ!このまま地獄旅行へでも行くか緑子よ!」


と緑子を引きずりながらアーニマールはビタンビタンと地面へ叩きつける。


「くうううっ!」


襲来者の世界にも地獄ってあるのかしら、と案外余裕のある考えが頭をよぎるが今は戦いの最中である。

腹筋を使い即座に尻尾へとりつき、思い切り噛みついてやった。


「ぐおっ!」


これは流石に不快なようで巻き付けた尻尾を離そうとしたが、緑子がそのまま両手で雑巾のように尻尾を絞り上げる。


 さすがに駆けるのをやめて尻尾を取り戻そうと、緑子へ後ろ足の斬撃を喰らわせようとするアーニマール。


だが緑子は構わずアーニマールの尻尾を引っ張り地面へと叩きつけた。


「ぐうっ」


衝撃に声をあげたがそれほどダメージを受けたようには見えない。


「クククク……楽しい……久しぶりの戦闘だ……」


叩きつけられた勢いのままに距離をとったアーニマールは心底嬉しそうに緑子を見る。


「其方なら分かってくれるのではないかな?……この血が沸き立ち心が躍る興奮が、どれだけ極上の闘気へと変わっていくのかを……」


そう言いながらアーニマールは上空へ高々と飛び上がり緑子の真上から、前足の斬撃と上半身からの拳の同時攻撃をかけてきた。


緑子はそれを避けずに自らも拳を握り、凄まじい咆哮を上げてアーニマールの正面へと叩き込む。


ドガァァッ! 


お互いに叩きつけあった拳の勢いは凄まじい音を発し、もうもうと土煙が上がる。


「確かに血が沸き立って、震えがくるほどだったわアーニマール」


とポツリと緑子は言う。


「でも私はこのウィンドシティの平和を守るって決めたの。だから敵である襲来者に容赦はしないわ」


土煙が薄らいでいき見える光景は、アーニマールの胴体を緑子の腕が貫通している姿だった。


「グファオッ!」


と声にならない声と共に大量の血を吐くアーニマール。


ズボッと胴体から腕を抜き去ればそこからも大量に出血が見える。


「グッ……見事だ緑子よ……これは我もしばらくは動けぬな……」


とユラリと体がかしぐが、踏みとどまるアーニマール。


「えー!……まだ倒れないのぉ……」


凄まじい生命力に驚くのと、呆れるのが混ざった口調になってしまう緑子。


だが流石にこんな序盤で、敵の幹部が死んでしまう訳がないのである。

アーニマールは力を振り絞って亀裂を作りそこへ飛び込んでゆく。


「また其方に会いに来るぞ緑子」


セリフだけなら恋愛物のようだが、相手はまた戦いに来ると言っているだけだ。


「もう来なくていいから!」


と消えたアーニマールヘ叫ぶ緑子であった。


 あたりの気配が元に戻っていき、気を抜いた緑子は激しい痛みに呻く。


「くう……咄嗟にずらしたけど、流石によけれなかったわ……」


と真っ赤に染まった脇腹に手をやる。


「とりあえず通報と救急車……あ……変身とかなきゃ……」


貧血で薄れゆく意識にのまれていく緑子の耳に遠くからサイレンの音が聞こえてくるのだった。


◆◇◆


「まったく! 一体何考えてるんですか!いくら緑子さんが強いって言ったって生身の女性なんですよ……。 それなのに敵に向かっていって攫われてケガまでするなんて……」


対策課の医療区域に搬送され緊急手術をうけた緑子は、当分安静の為に入院することになった。


その為、面会謝絶を解除されたとたんに飛び込んできた爆覇ばくはにお説教をされているのである。


「ごめんね心配かけて……避難誘導しようと思っただけなのよ」


と苦しい言い訳をした。


「緑子さんがすごいケガしたって聞いて、どんだけ心配したか……もう少し自重してください! あと、俺は緑子さんのパートナーなんだから、敵が出たのなら俺が到着するまで待っててください……俺、頼りないと思われるかもしれませんけど頑張りますから……」


と、しょんぼりする爆覇ばくは


「ねぇ爆覇ばくは君 、私覚悟決めたの。 このウィンドシティは私の故郷だしすごく大切だから……私も一緒に守りたいって」


と真剣な表情で爆覇ばくはを見る。


「だから私は爆覇ばくは君が傍にいないなら、来るまで時間を稼いで人々を逃がす。これはパートナーとしての大事な仕事だから譲れないよ」


そしてニコリと笑い


爆覇ばくは君を信じてるから、ちゃんと急いで駆けつけてくれるって。 だから無理はしないけどちゃんと仕事はさせて?」


爆覇ばくはを見た。


「緑子さん……分かった。 でも絶対無理はしないでくれよ!」

と涙ぐみながら言う爆覇ばくは


「約束するわ」


と微笑むのであった。


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