子龍転界記

子龍解説記

「各地に『龍の爪痕』と呼ばれる場所が残っているんだ」

「たとえば?」

「タクタク山の巨石群の爪痕。寝ぼけた龍が引っ掻いたんだと」

「それ、岩が山頂から転げたときに出来たのさ」

「天空橋を支える岩の爪痕。始端と終端の岩それぞれに傷がついている。つがいの龍が飛び立ったのかな」

「それ、ムシャムシャジバチの巣だ」

「ヒロロ岩壁の爪痕。こいつは大きいぞ。端から端まで歩くのに一日かかる」

「それ、かつての川が作った道さ」

「ほかには?」

「まだある」

「それらのお話が作られた頃、私たち龍はだいたい寝ていたか、ひっそり小さく過ごしていたのになあ」

「龍の不在が一人歩きして伝説を作っていったんだ」

「龍を覚えている人などとっくにいないこの世の中で、忘れずにいてくれるわけだ」

「モルデラ台地を引き裂く爪痕もあるぜ」

「それ、マンネンモグラが頭をぶつけて出来たのさ」

「龍の爪痕に見えるんだけれどもなあ」

「私がミステリースポットを作って来ようか」

「龍が暴れると爪痕だけでは済まないな。お伽話だけでたくさんだし、龍はお伽話の中だけで暴れていて貰おう」

「寝ぼけてつけた傷が伝説になるんだったらさ、私が寝ぼけて壊した壁も素敵じゃない?」

「あっ壺をどかしたら穴が!」

「ふふん」

「今すぐ直してくれ、素敵にな」

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