喉無き鳥

 誰かの約束に足が生えた。収まる本棚があれば名前を貰って眠りにつけただろうに。そいつは自分が形無きものだということを気にも留めなかった。

 暖炉の前で、椅子にもたれて、ノイズ混じりの音楽を聞いている。弦の唸り、鍵盤の憔悴、エレクトリカルな嵐に嬲られて、色濃い影が落ちる。怒りは腐って肺に溜まった。眉間に皺を寄せたところで憎悪とはならない。音楽の再生が止まる。この部屋には、初めから何もない。

 存在を許されぬならば抗っただろうに。悪となりうる淀みだった。果たされぬ約束ならば抱えて立ち上っただろうに。息の根を止めてくれる者が先に消えたならば、彷徨う鳥にでもなれた。でもこいつは違う。誰もが忘れていく中で、ひとり正気を保ち続けることを科せられた。約束が果たされるその時まで、変わらぬ姿で、消えず、留まらず。

 これは夢だと気付いてしまった。それが約束の始まり。夢の主が目覚めるときに、やっと役目から降りられる。どいつもこいつも安らかに眠りについていく。終わることのない悪夢には、ぬるく優しい風が吹き、人々のざわめきと鳥の声が絶えない。

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