国民2.0

國民弐号

「…本日皆様方にご紹介するのは、我が国の来たるポストシンギュラリティ・トランスヒューマン時代に備えて策定された、イノベーションドリヴン・経済再興戦略五か年計画を達成していく上でのコア・プログラムであります。

国民2.0プロジェクトは、昨今増々その加速化の進む経済競争・財政再編・少子高齢化・都市部への人口偏重・学術振興等々の我が国の抱える課題の解決を、ワン・ストップで推し進めていく上で運用される、汎用ソリューションの統合パッケージ群です。

国民2.0プロジェクトのメインコンポーネントは、全国各地に建設される独立した有機工学的な生産設備（プラント）と併設されるDNA貯蔵施設（データバンク）から成ります。

プラント内には核施設の規模面積に応じた数のヒト科複製機が組み込まれています。最大生産時には一日あたり10,000の成熟済みな国民を生産可能です(出荷までに要する期間は最短で1年と試算されています。こちらは今後の技術刷新を見込んで短縮可能であると見込まれています)。ただし通常は、我が国の統計上の生産年齢人口が常に2億人を上回らない基準に合わせて生産されます。

便宜上、生産された人間をここでは国民2.0と呼称させて頂きます。彼らは厚生労働省の管轄の下で定められた機能要件・非機能要件を基に、ロットごとに遺伝子工学的・生体工学的にデザインされます。

国民2.0の基本的な設計といたしましては、第一に低コストで高い生産性を持つ点が第一に挙げられます。これまでの我が国の中で特に優秀な国民の遺伝子を掛け合わせて造られており、肉体的・頭脳的・精神的に極めて精強な特質を併せ持たせることに成功しております。実地試験では、標準的な生産ロットのもので一日当たり4時間程度の睡眠および休憩時間を与えた環境で、20時間連続での肉体労働・知的労働を高いパフォーマンスを保って作業することが可能であることを証明しました。さらに緊急時には、300時間連続で上記の作業を実行可能です。各個体の稼働寿命を考慮しなければ、より極限状態での活動も可能となります。

最新のヒト科複製機においては、受精から半年以内で任意の年齢に各個体を高速成長させる機能を有しています。遺伝子ノックイン・ノックアウト技術の応用により、現行のロットでは各個体に生殖器は備わっていません。不要なためです。

肉体的に生成完了した各個体は、催眠薬学的施術により基本的な自我・欲求を抑制され、管理者権限を持つユーザーからのインプット通りの行動を、自発的に採るように反応づけられます。万が一、個体がこちらの意図しない挙動を示し改善が見られない場合、出荷時に頸椎付近に埋め込まれたGPS機能付きチップが、遠隔地から起動可能なキルスイッチとして機能します。チップから放たれた微弱な電流は即座に神経系統に破壊的に作用し、対象の個体を終了させます。将来的にはこれらのチップは頭蓋内に移設され、インプットに応じている間はβ-エンドルフィン・ドーパミン等脳内快楽物質の生成を促進させる機能を追加することで、不測の事態を予防できるよう更新される予定です。

以上の基本的な処置が完了し、検品をパスした個体に催眠・電子高速学習が施されます。ここで一定のスコアに達しない個体を除外することで、高クリアランスを維持したまま国民2.0は出荷可能となります。高速成長の副作用としての老化現象と、GPS機能付きチップのバッテリー持続時間の都合上、現行のロットの各個体の稼働寿命は5年程度となっております。各個体は稼働寿命がそれを上回る前に更新する必要があります。

国民2.0は、人的資源を必要とするあらゆる環境に投入可能です。低コストかつ長期的な健康への影響を考慮する必要がないため、これまで有人での作業が不可能だった局地環境におきましても、積極的に投入していくことが可能です。

現行の計画では、今後15年以内に全国民の98％が既存の国民の皆様方から我々の提供する国民2.0に置き換わる想定です。このため、我が国の政府予算のうち、医療、年金、介護、福祉などの社会保障制度にかかる費用を大幅に削減・廃止することが可能となるのです。

…概況の説明は以上となります。ご質問されたい方もいらっしゃるとは存じますが、お時間の方が押してまいりましたので、後ほど別途メール等にてご連絡ください。可能な限りお答えいたします。

それでは、続きまして本プログラムの策定および推進を担当する議員様、並びに参画頂く企業の代表者様のスピーチとなります。みなさま、盛大な拍手でお迎えください！」