第二十話 幻術士は尾行する
メンビル外れの路地裏に、恰幅の良い男が一人。そして、その後方に、帽子を深く被り、口元が隠れる程のマスクを着けて歩く俺。
なにをしているのかというと、尾行をしているのである。
遡る事一日。
冒険者で賑わう宿の一室で、リアとリィルと俺の三人で、打ち合わせをしていた。
「冒険者ギルドの奴隷商人の話なんだけどー、もう当たりはついてるんだ。これを見て」
リアが取り出したのは水晶の鏡。
映像を記録できる代物だ。
ユラユラと鏡面が動き、徐々に一人の男の顔が浮かび上がってきた。
「この太った男は、ホセ=ムーチョというギルドのお偉いさんなんだー。うちは見たんだ! ムーチョが街で奴隷商人と懇意にしている場面を。きっと村を襲ってる悪い奴も、ムーチョの差し金だと思うんだよねー」
「なるほどな。つまりこいつの動向を調査すればいいってことだな?」
「そーそー! うちだと顔が割れちゃってて、尾行するのが難しいから、クロスにお願いしたいの」
「了解! そういうことなら任せておけ」
というわけで、俺が尾行を引き受けた。
あの時は一つ返事でOKしたけど、実際尾行をやってみると結構しんどい。
まず一定の距離を保ってついていくのが難しい。
歩くたびに隠れる場所を探すのも大変だし、見失わないように注意するのも神経を使う。
「……こんなしんどいなら、リィルも連れてくるべきだったかなー」
思わずぼやいてしまう。
はぁっとため息をついてから、ムーチョの方を見ると、動きがあった。
「おー、これはこれはムーチョさん。ご無沙汰しております」
黒いマントに身を包み、2メートルはあろうかという大剣を背中に携えた、ハンサムな男がムーチョと握手を交わしている。
(あいつが奴隷商人なんだろうか? 人は見かけによらないというかなんというか……)
前情報がなかったら、爽やかな好青年にしか見えなかったであろう。
それにしてもあの大剣を扱えるとなると、厄介な敵かもしれない。
早速ステータス鑑定をしてみた。
種族:ハイエルフ
名前:ローグウェル
性別:男
年齢:20歳
職業:ソードマスター
レベル:70
HP:8872
MP:7836
攻撃:19291
防御:6971
魔力:7518
敏捷:20762
(強い……)
レベル70にしてこの攻撃と敏捷。
【ソードマスター】は『戦闘職』の中でも特に戦闘に向いている職業と聞いたことがある。
正面からは戦いたくない相手だ。
「……ところでムーチョさん。今日はお連れの方がいらっしゃるようですね」
「お連れだと? 私は一人で来たのだぞ」
「ふむ……。となると、穏健派の犬でしょうかね」
ローグウェルの鋭い眼光が俺の方に向けられる。
(まずい――! 見つかった――!)
――ズンッ!!
50メートルはあった距離を一瞬で詰められ、両腕を抑え込まれた。
「ぐっ、離せっ!」
「……クロス=ロードウィンか、知らない名前だ。しかし奇妙だ……【幻術士】の癖にレベルが50を超えているとは」
名前とステータスがバレている。
いつの間にか相手からもステータス鑑定を受けていたようだ。
「ムーチョさん、この男に心当たりはありますか?」
「いや、知らん顔だな。だが思い当たる節はある。最近穏健派のリアが私の周りをちょこちょこ嗅ぎまわっていた……十中八九その手合いだろう」
(げっ、バレバレじゃないか。このままだとリアもやばいかもしれない。俺がここでなんとかしなければ……)
焦る気持ちとは裏腹に手に力が入らない。
こうまで距離を詰められてしまうと、為す術がない。
結晶を取り出すチャンスさえあれば、打開できるはずなのに。
「こいつも奴隷庫に放り込んでおけ。こいつを上手く使えば、リアを篭絡できるかもしれんしな」
「御意。それではこいつを眠らせて、
――トンッ
見えない速さの手刀で首の後ろを叩かれ、俺は意識を失ってしまうのであった。
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