第十九話 幻術士は雨宿る
「リィルーー! リアーー!」
待ち合わせ場所である広場に着くと、二人の姿が見えたので大きく手を振った。
「なにしてたのー! 遅いよー! うち、もう待ちくたびれたよー」
リアはむくれっ面をして出迎える。
復讐を終えてすぐにやってきたのだが、少し待たせてしまったようだ。
――ザアアアアア
「ん……?」
突然に雨が降り出した。
慌てて三人で近くの喫茶店へと飛び込んだ。
「うへぇ、こりゃやばいな」
ちょっと覗いた窓の外は、土砂降り状態だった。
水煙に遮られて、遠くまでは見えないが、大慌てで走り回る人々の姿が見える。
「しばらく外に出れそうもないねー。でもちょうどよかった。クロスとは個人的に、もっと深ーい関係になりたかったからねー」
「――――っ」
リィルは何とも言えない変な顔でリアの方を見る。
「リィル? どうした?」
「……なんでもない」
ぷぃっと横を向いてしまう。
本当にどうしたのだろう、お風呂で何かあったのだろうか?
ちょっと心配だ。
「お客さん、何飲むんだい?」
髭を生やした、少し無愛想な店員さんから注文をせがまれたので、壁に打ち付けられているメニューの板をざっと眺める。
ここの店は年季の入った木造建築で、ハイカラなメンビルの街では少し異質だ。
壁や天井のあちこちにツギハギがあることから、素人工事を繰り返してきたことが
正直こんな内装で客が来るのだろうかと、余計な心配をしてしまう。
「えーっと、俺はコーヒーに、ナッツを頼む」
ちらりとリィルに目をやり、
「リィルはオレンジジュースあたりか?」
「……わたしもコーヒーで」
華麗に無視された。
やはり、何故だかリィルの機嫌が悪いような気がする。
「はいはーい、うちはホットミルクで! ミルクは美肌効果があるからいいんだよねー」
リアは相変わらずの軽い調子で言う。
しばらくすると、注文した飲み物とナッツが運ばれた。
それらで喉と腹を満たしながら、今日のクエストの話を
「にゃははっ、
「うるせぇな、俺だってあの時は必死だったんだよ」
「ふーん、必死だったんだー。それでもリィルのこと庇ってたってのが憎いじゃないの」
「なんだよその言い方は。それくらい当たり前だろ? ……俺は、リィルを守るって決めてるんだ」
「ヒューヒュー、お熱いねー!」
リアは満面の笑みで茶化してくる。
リィルはというと、少し顔を紅潮させて俯いている。
「あのな……リアはなんか勘違いしてるみたいだが、そういう関係でもないからな」
リアは「ほんとかなー」と言いながら、俺とリィルの顔を交互に見ている。
お節介なことこの上ないな。
「にゃははっ、まあいっか。そろそろ本題に入ろうかな」
「そういえば話があるって言ってたよな。一体何の話なんだ?」
クエストが終わっているにも関わらず、再び三人で集まったのは、リアが冒険者ギルドでは話せない大切な話があると切り出してきたからだ。
「ふふっ、それはねぇ」
にやりとしながらミルクを
「ずばり、二人にとっておきの依頼があるんだー!」
「ほう、ここまで勿体ぶって言ったからには、おいしい話なんだろうな?」
「報酬はとびっきりのものだよ! ただ、依頼の難易度はベリーハードだけどねー」
そこまで言ってから、両手を口に添えて、ヒソヒソ声に切り替え、
「実は冒険者ギルドの一部の人がさー、奴隷の仲介人をやってるみたいなんだ。……それだけなら気に食わないだけなんだけど、最悪なことに、小さな村を襲って無理やり奴隷を集めてるみたいなんだよねー」
「なに!? それは見過ごせないな」「……酷い」
興奮のあまり、リィルと声が重なってしまった。
「でしょでしょー。二人ならわかってくれると思ったよ。冒険者ギルドだと、どこに敵がいるかわからないから、なかなか相談できなかったんだよねー。あ、ちなみに報酬は、カッコ可愛く可憐なリアちゃんです!」
自分を報酬にするとか、さらっととんでもないことを言ったなこの女。
「ランクA冒険者のリアが仲間になってくれるなら、それは頼もしいけどさ。お前、ギルド専属の冒険者じゃなかったっけか?」
「あー、まあねー。でもいいよ、もう辞めるから」
「えっ、まじか!?」
ギルド専属の冒険者というのは、なりたくても簡単になれるようなものではない。
年に一度王都で開かれる、選抜試験に合格した者だけがギルド専属冒険者になれるのだ。
試験の内容は、モンスター討伐の実技、戦闘技官との模擬戦闘、エルタリア大陸の地理や各職業についての知識、病気や怪我の応急手当術など、多岐にわたる能力が求められるものとなっている。
高額な受験料がかかるため、腕に自信がある者しか受けないにもかかわらず、試験の倍率は数千倍と言われている。
その分合格してからの報酬は格別で、社会的地位も高い。
かつて王国が行った調査では、親が子供になってほしい職業No.1に選ばれたことがあるとか。
よく考えると、リアって雲の上の存在なのではと思えてくる。
「ん、どうしたー? 急に難しい顔して。クエスト、受けてくれるよねー?」
「あぁ……受けるよ。リアは本当にいいんだな?」
「勿論だよー! クロスもリィルも気に入ったしね。それじゃ、改めてよろしくー! おー!」
リィルが手をグーにして前に突き出す。
俺とリィルも一緒にグーにして、三人で手を合わせた。
かくして、リィルが正式に俺達の仲間になった。
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