第十五話 幻術士は罪人になる

 要塞都市メンビル。


 この街の周りには強力なモンスターが巣くっているため、入り口は厳重に警備が固められた、表門と裏門の二つしかない。


 歴戦の猛者ばかりがここに集まるので、メンビルはランクAの宝庫と呼ばれていたりもする。


 その街から少し離れた平原で、今、俺たちは狩りをしている。


「リィル。準備はいいか?」

「……うん。ばっちり」


 極小戦闘人形ミニパペットをずらりと並べて、力強い返事をするリィル。


 この人形が手に入ってからは、狩りの安定感が増した。


 今までの楽器を鳴らすだけの人形とは違い、極小戦闘人形ミニパペットはモンスターに攻撃して、確実に注意を引くことができる。


 そのうえで、【モンスター操作】を使って召喚の総攻撃をしかければ、大抵の敵は即仕留められるのだ。


 今回ターゲットとなる敵の、ステータスをチェックする。



 種族:モンスター

 名前:レッサードラゴン

 性別:♂

 レベル:70

 HP:7320

 MP:7220

 攻撃:7900

 防御:7200

 魔力:7895

 敏捷:7759



 腐敗した鱗に覆われた、気味の悪いドラゴンだが、今の俺にとっては敵じゃない。


「リィル、陽動頼んだ!」

「うん……!」


 わらわらと歩く人形の群れがドラゴンに近づき攻撃する。


 怒ったレッサードラゴンは人形に反撃するが、狙い通り。


「レッサードラゴン! 止まれ!」


「ギシャアァァァ!?」


 【モンスター操作】で動きを止められたレッサードラゴンは明らかに動揺している。


 その間に、召喚の群れで袋叩きにした。


 こうして、簡単にレッサードラゴンの結晶を一個ゲットした。


 一見リィルのおとりは必要ないように見えるかもしれないが、囮がないと命令している最中にモンスターの攻撃を受けることもある。


 というかそれで以前死にかけた。


 ゆえに、リィルの囮は大事な囮であり、前のパーティーで俺がやっていた無駄な囮とは訳が違うのだ。


 その後、もう一体レッサードラゴンを倒してから、街に向かった。




 ◇ ◆ ◇ ◆




「すみません、換金をお願いします」


 メンビルの冒険者ギルドにて、今日の収穫の半分をカウンターに提出した。


「レッサードラゴンの結晶ね。報酬は銀貨20枚ですよー。あ、それと君達、冒険者証の更新しばらくしてないでしょ? お姉さんにちょっと貸して」


 冒険者証をチェックすると、受付のお姉さんは人差し指を顎に付けて、悩ましいポーズを取った。


「えーっと、クロス君にリィルちゃん。君達ランクEなんだね。レッサードラゴンを倒せるならランクCかランクBでいいと思うんだけど、飛び級させちゃっていいか悩むなぁ。……ちょっとギルド長と協議してくるから、待っててね」


「はい、わかりました」






 ギルド内の椅子に座って待っていると、頬がこけた高身長の男に声をかけられた。


「俺は新人が来るたびにステータスを確認してる暇人なんだがな……お前、【幻術士】だろ?」


「……そうですけど、何か?」


「隣の奴も【人形師】だし、レッサードラゴンが倒せるとは思えねぇ。どこで結晶を盗んできやがった、このろくでなしが!」


 周りにいる人全員に聞こえる程の大声で叫ばれた。


 ギルド内がざわつく。


「泥棒がでたって!?」

「そこの【幻術士】の仕業らしいぞ」

「は? 【幻術士】がこの街にいるとか嫌すぎる」

「俺がそいつボコってやるよ」


 口々に適当な事をわめいている。


「俺は盗んでなんかいません。自力で討伐したんです。……見てください、俺の幻術は【実体化】できるので、狩りに使えるんです」


 無実を証明するため、ゴブリンを召喚して椅子を持ち上げさせた。



「…………」



 何故かギルド内が静まり返る。



「……モンスターを街に持ち込んでやがる」


 誰かがボソッと呟いた。


 それが口火になり、ギルドにいる人々が一斉に非難を始めた。


「おい、そいつを捕まえろ!」

「盗みにモンスターの持ち込み、とんでもない奴だな」

「しかもモンスターを手なずけているとか、悪魔の子だ!」


 即座にゴブリンは切り捨てられ、俺は取り囲まれた。




「……クロスは……そんなことやってない!」


 リィルが必死に抗議するも、誰も耳を貸さない。



 どうしたものかと困っていると、受付のお姉さんが戻ってきた。


「ちょっと、みんなどうしたの!?」


 ただならぬ様子を見て、お姉さんは仰天する。


「そこの【幻術士】がゴブリンの持ち込みをしたんだ」


 最初に因縁をつけてきた頬のこけた男が、どや顔で報告する。


「……証拠はあるの?」


「さっきゴブリンを倒したので結晶があるはず…………あれっ? ない!?」


 慌てふためく男……今が弁明のチャンスだ。


 受付のお姉さんに、【実体化】と、それがやられた場合に結晶が消滅することを説明した。


「なるほどね。ゴブリンの結晶が残ってない以上、クロス君の言い分を聞いてあげる必要があると思うけど?」


 ギルド内が再び静かになる。


 良かった。このお姉さんは差別主義者じゃないみたいだ。


「だけどそうねぇ。クロス君のその能力、前例がなくて信じがたいのも事実かも。……それを証明するために、このクエストを受けるというのでどうかな?」


 お姉さんが、クエストの紙を見せてくれた、


 【双頭の蛇アンフィスバエナの巣の駆除】:金貨1枚


 金貨1枚は、銀貨100枚の価値がある。


「これはランクBのクエストだけど、難易度の割に報酬が少なくて人気がないから受け手がいないのよ。でも【実体化】ができるクロス君なら楽勝だと思うな。……あ、監視役兼手伝い役としては、ギルド専属のランクA冒険者をつけるので安心してね」


 なるほど、この騒動にかこつけて未消化クエストを処理させると。


 このお姉さんやり手だな。


「わかりました。それで無実が証明できるのなら、受けましょう」


「そうこなくっちゃ! それじゃあ明日の朝にギルドまで来てね。あ、そうそう、これが新しい冒険者証ね」


 すこんと晴れ上がった空のような笑顔で、冒険者証を渡してくれた。


 そこには”冒険者ランクB”と書かれていた。


 一気に三ランクアップだ。


 リィルと俺は、二人で顔を見合わせて思わずにやけてしまった。


 喜んでいるところに水を差すように、頬のこけた男が挑発してくる。


「おい、【幻術士】、逃げるなよ?」


「逃げも隠れもしませんよ。あんたこそ、俺の真の実力を知った後に吠え面かくなよ」


「ちっ、糞野郎が」


 ぺっと俺の足元に唾を吐きかけて男は去っていく。


 姿が見えなくなる前に、その男にステータス鑑定を使った。



 種族:ヒューマン

 名前:フォンパ

 性別:男

 年齢:19歳

 職業:双剣士

 レベル:50

 HP:4952

 MP:2846

 攻撃:5290

 防御:4311

 魔力:2808

 敏捷:5123



 フォンパか。変な名前だな。


 そう思いつつ、心の復讐リストの一ページに、名前を刻みつけたのであった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

※後書き


ちなみに【モンスター操作】で「死ね」と命令しても、曖昧な命令なので効果はでません。

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