第七話 幻術士は老人と話す
「申し訳ないね、知らないなぁ。そんな人は」
「そうですか、残念です」
酒場のマスターに情報料として銅貨一枚を支払う。
サイクロプスを手に入れた翌日、リィルと一緒にアザゼルの行方を調査しているのだが、まだ有力な情報は得られていない。
諦めて酒場を立ち去ろうとしたそのとき、深く刻まれた皺が目立つ、老齢のエルフの男に声をかけられた。
「ちょっと待ちなさい。そこにいるお嬢ちゃんは【人形師】かね?」
「――っ!?」
リィルは手に持った人形をサッと後ろに隠した。
こんな事を聞く
「おっと、怯える必要はないよ。わしは【人形師】に興味があるだけじゃ」
「どういう意味です?」
「そのままの意味じゃ。君たちは、かつて【人形師】が『イレギュラー』ではなく、『戦闘職』だったことを知っているかね?」
「【人形師】が『戦闘職』? そんな馬鹿な……」
予想外の話が振られたので、混乱する俺。
「その様子だと知らないみたいじゃの。まあ無理もない。今の皇帝が即位してから、その事実はなかったことにされているからの」
「……おじいさん、そのお話、わたしに聞かせて」
俺の後ろに隠れていたリィルが、興味津々な様子で話に入ってきた。
「うむ、いいじゃろう。今からおおよそ百五十年前、ここエルタリア王国で、大きな反乱が起こったことは知っているかね?」
「……知ってる。カプリオの乱。迫害されてたハーフエルフが起こした、王国史上最大の戦い。……最終的には英雄スフォルツァによって反乱は鎮圧された」
リィル、意外と博識だな。俺は全然知らなかったぞ。
「よく勉強しているの、お嬢ちゃん。それではその反乱の首謀者、ルイス=カプリオの職業については知っているかね?」
「……そこまでは……知らない」
「そうじゃろう、皆知らないのじゃ。かつては幼子でも知っていたというのに。……王国にとって都合が悪いから、言論統制されてきたのじゃ」
「……なんで?」
リィルは真剣な眼差しで老人に問いかける。
「カプリオが使った力は強大すぎた――つまりはその職業が持つ本来の力を知られてしまうと、また反乱の危険があるから、封じられたのじゃよ。……そして、今ではその職業は『イレギュラー』として虐げられているのじゃ」
「話が見えてきたぜ、お爺さん。その職業は【人形師】ってことですね?」
老人は目を細めて頷く。
「その通り。……何を隠そう、わしはカプリオの
「……力の秘密、教えて」
「勿論教える。そのために話しかけたのじゃからな」
老人はポケットから地図を取り出すと、それを広げた。
「ここがアスカムの町で、そこから北西に書かれている×印。ここに【人形師】の力の秘密が眠る町があるはずじゃ」
「……おじいさんは、行ったことあるの?」
「ある。何度もある。しかし何度行っても、あるはずの町が、そこにはなかったのじゃ」
「――は?」
思わず失望を、口に出してしまった。
なんだよ、今までの話は全て、老人の
呆れて帰ろうとすると、老人は俺の服を引っ張り、必死に引き留めてきた。
「――待て、待つのじゃ! 話を最後まで聞かんか!」
「……悪いけど、俺達暇じゃないんで」
「わかった、これを見なさい」
そう言って取り出したのは、手のひらサイズの小さな人形。
「それが、何なんです?」
「【人形師】のお嬢ちゃん。これを操って、わしを殴って見なさい」
「……うん、わかった」
こんな小さな人形で殴ったところで、
一体何をさせたいんだこの老人は。
そう思って人形が殴るのを見ていると、驚くべきことが起こった。
――ズガァァァァァ
なんと、人形のパンチで老人が吹っ飛んでしまったのだ。
「お客様! 何をしているんですか!?」
酒場のマスターが慌てて飛んでくる。
「……え? わたし……何を!?」
うろたえるリィル。
それを見て老人はニヤリと笑う。
「ほほっ、老体にこの仕打ちは
「ご老人がそういうのでしたら今のは不問にしますけど。……酒場で暴れるのは、よしてくださいよ」
マスターはため息をついて、カウンターの奥へと戻って行った。
「……お爺さん、この人形に何か秘密があるってことですね?」
「そうじゃ、この人形をカプリオは――
「
試しに人形に向かってステータス鑑定をしてみると、驚くことにステータスが出た。
種族:人形
名前:ミニパペット
性別:-
レベル:-
HP:100
MP:100
攻撃:100
防御:100
魔力:100
敏捷:100
げ、俺よりも強いじゃないか。
こんな小さな人形よりも弱い俺っていったい……。
「少年よ、驚くのはまだ早いぞ。本物の
「百倍!? 嘘だろ……」
「嘘ではない。この地図の町さえ見つかれば、
老人の
「……おじいさん、わたしが、見つけるよ。クロスも、いいよね?」
リィルはゆっくりと、でも力強く喋り、同意を求める。
「はぁ、しかたない。可愛いリィルの頼みとあっちゃ、断れないな」
「……ありがとう、クロス」
少し、照れくさそうに笑うリィル。
その笑顔が見れるのなら、どこにだって行ってやるさ。
―――――――――――――――――――――――
※後書き
ちなみに現在のクロスのステータスは以下の通りです。
種族:ヒューマン
名前:クロス=ロードウィン
性別:男
年齢:16歳
職業:幻術士
レベル:51
HP:102
MP:102
攻撃:51
防御:51
魔力:51
敏捷:51
【スキル】
『モンスター幻術』:モンスターの結晶から幻像を映し出す
『モンスター操作』:モンスターに一度だけ命令できる
『鑑定レベルB』:対象の相手のスキル以外のステータスを確認可
【ユニークスキル】
『実体化』:幻像に魔力を込め、実体化できる
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