第三話 幻術士は狩りを行う

 差別する者に復讐し、『イレギュラー』は守る


 そう、思ったはいいが、まずは生活の為のお金が必要だ。


 稼ぐ手段としてはやはり、冒険者がいいだろう。


 【幻術士】が一人で冒険者をするのは、常識で考えると無茶だ。


 だが、幻獣(幻像を実体化したモンスターをそう呼ぶことにした)を使役して狩りが出来る俺になら務まるだろう。


 冒険者になるためにはギルドでの登録が必要なので、俺は冒険者ギルドの門を開いた。


「ごめんくださーい。冒険者登録がしたいのですが」


「はい、登録したいなら。名前と職業を書いてね」


 サラサラっと紙に書き記す。


 そして、ギルドのお姉さんに紙を受け渡す。


「えーと、クロス=ロードウィン君ね。職業は……チッ、幻術士かよ」


 嫌な態度を隠そうともしない、典型的な差別主義者のようだ。

 

「ほら、冒険者証。まあ、あんたなんかじゃモンスターにやられて、野垂れ死ぬのが精々だと思うけどね」


「そいつはどうも、気を付けます」


 嫌味を受け流して冒険者証を受け取る。


 冒険者証にはランクFと書かれている。


 これは確か冒険者の中で最低のランクだったはず。


 ギルドの壁紙に貼ってあるランクの基準を確認してみた。


 A:世界の危機に対応可

 B:王都の危機に対応可

 C:町の危機に対応可

 D:村の危機に対応可

 E:複数のモンスターの脅威に対応可

 F:モンスターの脅威に対応可


 なんとも曖昧な基準だ。


 まあランクなんていうのは特に気にしなくてもいい。


 とりあえずモンスターを倒して、日銭を得られるように頑張ろう。




 町から一番近い狩場にやってくると、人とモンスターで賑わっていた。


 俺は箱を取り出して、一番強いモンスターの結晶を選び出す。


 モンスターの結晶は、冒険者ギルドで討伐の証拠として提出し、報酬と交換してもらうことができる。


 だが、中には討伐の価値なしとして、交換の対象にならないか、二束三文にしかならないものもある。


 俺が持っている結晶は、ほとんどがそんなものだ。


「やっぱサーベルウルフになるのかなぁ」


 俺は手持ちで一番強い、サーベルウルフを召喚した(幻像を実体化することを、そう呼ぶことにした)。


「ワオオーン」


 サーベルウルフは遠吠えをしながら登場すると、ハッハッと息を鳴らして俺に寄ってきた。


 可愛い奴だ。


 そして俺は【鑑定レベルB】をサーベルウルフに使ってみた。



 種族:モンスター

 名前:サーベルウルフ

 性別:♂

 レベル:3

 HP:200

 MP:0

 攻撃:150

 防御:85

 魔力:0

 敏捷:200



 俺よりは強いけど正直弱い。


 続いて、狩場にいるゴブリンに対し【鑑定レベルB】を使ってみた。



 種族:モンスター

 名前:ゴブリン

 性別:♂

 レベル:1

 HP:150

 MP:50

 攻撃:150

 防御:150

 魔力:50

 敏捷:150



 微妙な強さだな。


 サーベルウルフと俺が力を合わせても、命懸けの戦いになってしまいそうだ。


 でも【実体化】の強みはただ召喚できることじゃない。


 複数を一気に召喚できるということを確認済みだ。


 俺は箱から更にサーベルウルフの結晶を取り出して召喚を行った。


 サーベルウルフの結晶ならたくさん持っているのだ。



 都合10体を召喚したところで俺のMPが切れた。


 一回の召喚で大体MPを10消費するみたいだ。


 さて、早速狩りを始めよう。


「ゆけ、サーベルウルフ! ゴブリンを叩きのめせ!」


 命令すると、10体のサーベルウルフはそれぞれが唸りをあげながら、ゴブリンに飛び掛かり、食いちぎった。


 ゴブリンは為す術もなくやられて、結晶と化した。


 ――討伐出来るとは思っていたけど、予想以上に上手くいった!


 数の暴力って恐ろしい。




 その後、ゴブリンを十体仕留めたところで、今日の狩りを終了した。


 ちなみに、狩りの間に一匹サーベルウルフがやられてしまったのだが、その場合は結晶ごと消えてなくなってしまうようだ。


 召喚したモンスターのHP管理はしっかりするように気を付けようと思う。




 冒険者ギルドに帰ると、朝に悪態をついてきたあの受付の女がいた。


(またあいつかよ……)


 心の中でそう呟いてから、今日得た報酬の半分を換金のためにその女に渡した。


「ふん、どうせスライムの結晶でしょ。うちでは換金してないっての、バーカ」


「よく見てください、スライムの結晶ではありませんよ」


「へ……!? あ、ほんとだ、ゴブリンの結晶だ。……ゴブリンの結晶が5個なので、銅貨5枚になります。チッ」


 わざと俺に聞こえるように舌打ちをした。


 でも我慢だ。今日のところは安宿の代金を稼げたので十分。


 明日は今日手に入れた、残りのゴブリンの結晶を使って、更に上級のモンスターを狩ることが出来る。


 これを繰り返せば、すぐに俺は頂点まで上り詰めることができるだろう。


 その時、この女はどんな反応をするのか楽しみだ。


 ククッ……、思わず漏れそうになる笑いを堪えながら、宿へと向かうのであった。



―――――――――――――――――――――――――――

※後書き


冒険者登録はパーティー単位での登録となっていて、クロスは以前のパーティーでも登録をしていました。が、アザゼル達がメイベルを新たに受け入れて、冒険者登録を更新したことで、クロスの情報は失効していました。

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