空名木嵐と眠木果子 -Who am I-
虹色のスツールに座り、膝を抱えて窓から星を見ていた。
フローリングの海は揺蕩い、
「ずいぶん、無茶をしたみたいね」
嵐の無茶は一度や二度ではない。けれど今こうして安穏の眠りの中にあるように、彼女は無事帰ってきていた。
これは夢だ。果子は夢の中である程度の意識と自由を持って行動できる。そして、めったにないことだが、こうして人の夢に入り込むこともあった。今回は、嵐の方から招待したような気配があるが…
「あなたは、だれなのかしら」
果子は敏感な嗅覚でそれを感じ取った。夢という嘘をつけない世界において、果子のそれは嵐の素質をはるかに凌駕する。
「バレてましたか」
てへ、と舌を出し、嵐は首をぐるんと回して果子に微笑む。
「今、私はこんな感じの鉄格子のなかにいます」
波打つフローリングの上を渡り、果子は机に腰かけた。
机は荒れ狂う時化に立ち向かう灯台のようにフローリングの上で果子を支える。
「自覚症状、アールラボの診断ともに、私にかつての私以外の要素を認めています」
「私の診断も加えてね。あなたの投影に、私が知っている男のそれが混じっている」
「
「ええ」
月明かりを受けて、嵐の影が長く伸びる。
「眠木支部長の診断なら、もう間違いないですね。私の中にあいつがいる。あいつに自我と呼べるものが残っているかどうかもわからないけれど、もしそれがあるなら、いや、すべて私の中に溶け込んでいるとしても、私を野放しにはできない。奴の自我、あるいは私の自意識が、また同じことを繰り返すかもしれない。今度は、より悪意を込めて」
「前者は否定する。あなたは間違いなく空名木嵐よ」
「後者はどうです?」
「さあ、あなたはもともとそういう
「ひどいこといいますね」
「あなたほどじゃないわ」
クスクス、フフフ、と小さく笑いあう。
「アールラボの独房?ってどんなところなのかしら」
「今度遊びに来てください。一緒に無味乾燥なランチでも」
「あら、それならうちに来なさい。多少ましなご飯くらい出します」
「いつになるやら」
「私の診断結果を加味すれば、あなたの拘束は解かれるはず」
「ありがたいけれど、だからってお礼に行くほどデキた人間じゃないんで」
「
「ん?」
にこにこ。
「んん???」
にこにこ。
「なんでその二人がくっつくんですか?」
「詳しく聞きたいでしょ」
「いや、待って、キョウ?んん?」
「ほら、朝になったら身支度なさい。一緒にアイスでも食べましょうよ」
果子はフローリングの波間を軽やかに歩きわたり、夢の間を辞した。
翌日正午、あらゆる手続きを踏み越えて嵐は眠木が支部長を務めるUGN支部に出向くのだが、それはまた別のお話。
リプレイ「変わる心、変わらぬ心」へ続く
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