檜森あかねと禍是杜九一と… -家出-
キリキリと首が締め上げられる。
あかねは意に介さず、つまらなそうにつぶやいた。
「しかし、どこの馬の骨かと思えば禍是杜の次男坊とはのう」
九一の瞳孔が細まり、薄れかけた意識が覚醒していく。足を振り上げ、あかねの脇腹へ突き立てる。
「ぼくをっ…その名で呼ぶなっ………」
あかねのもう片方の手が蹴りだされた爪先を受け止めていた。正確には、人差し指一本で。
「僕はぁ………っ」
声にならない声と共に、九一は肺の中の空気を締め上げられた気管から吐き出した。
「おっと」
力を緩めると、無力な
UGNの支部長・評議員・関係企業の上役らが集結する海上パーティは大混乱に陥っていた。それは複雑な思惑が絡み合った暗闘の余波によるものであるが、「策士ども」の中にあかねにとって重要な「強者」は存在しなかった。策謀と牽制に飽いた彼女はたまたま出くわした「策士ども」の手駒、傭兵たる
「九一や。お前の兄姉はお前をそれはそれは心配しておったぞ」
「ハ。
九一は周囲で転がる魔眼を眼で追った。その魔眼があかねの死角から飛び出すより先に、その軌道上に光が灯る。
「―――ぬしら禍是杜のきょうだいときたら、ひねくれものばかりで可愛げがない、のう」
飛んで
禍是杜九一は家と名と、己に連なるすべて
禍是杜に生まれながら、
「見つけたら連れ帰れと玄瑞には言われておる」
あかねは罪人に刑罰を言い渡すような厳粛さをたたえた声で告げた。
「そりゃいい。里丸ごとぶち壊してやる」
九一は泥とスライムを混ぜ合わせたような目であかねを睨んだ。
「言われてはおるのだがの」
あかねは九一の首根っこを掴んで立たせると、胸元から取り出した携帯端末に目を落とした。九一は、あかねが唇を舐めたのを見逃さなかった。
「貸し一つで見逃してやらんでもない」
言い換えるなら、「お前にかまうよりずっと楽しいことが起きてるからお互いいいところで手打ちにしよう」、だ。
「貸しはどう返せばいいので?」
おどけたセリフを吐き捨てつつ、十の魔眼をその両手に収める。長居は無用である。
「ちいとばかし、防人も荒れそうじゃ。霧谷に貸しを作っておきたい」
言い換えるなら、「この騒動の原因はお前にもあるのだから、面倒をかぶった霧谷に罪滅ぼしして、ついでに防人の株を上げてこい」、だ。
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「とゆーわけでぇ、僕が来ました☆彡」
「あんたたちはそのなんたらって遺産が気になる。霧谷を利用した事件の首謀者もそこにいる。UGNとゼノスは僕が仲介して協力する。あの子一人放り込むより勝率高いでしょ?」
「いいでしょう。そのようにプランを修正します」
あっさりと少女は九一の提案を飲んだ。第一関門突破。
「あなたにUGNと私たちを仲介する能力があるのかは甚だ疑問ですが、彼女の護衛として雇い入れましょう」
第一関門突破…しているのか?
目の前に提示された金額。あかねに黙っておけばどっちにもいい顔ができる。九一は差し出された少女の手を握り、楽観的に捉えた。
防人の名でUGNに恩を売る。UGNの連中とゼノスのエージェントを仲良くさせる。
それくらい朝飯前さ。
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