第27話【黒幕の名は品川富士彦?】
廊下へ出て少しばかり歩いてそこで写真部長は豹変した。
僕が僕のことを『僕はなにもできない』、なーんて思い悩む必要も無かった。
「テメエか『鐵道写真部』なんて造ったのは」そう言われ僕は写真部部長に思いっきりガンを飛ばされていた。
『いや違う』とは思ったが声にならない。コンペティションとやらの意味を説明する意思なんてどこにも無さそうだった。さすがのにっこーちゃんも立ちすくんでしまっている。
「お前、前に俺に言われたことを根に持ってこんなことしたんだろ?」
まだ覚えられていた! 確かに根には持ってるかもしれないが、僕は報復までは踏み切れないタイプだ。
「鉄道写真なんていかにも野郎が思いつきそうなことだよな。テメーの趣味か?」とさらに写真部長は畳み掛けてきた。
いや、にっこーちゃんがやろうとしたんですけど——と思ったところで、
「『鐵道写真部』の部長はわたしです! 言いたいことはわたしにお願いします!」、にっこーちゃんが自ら名乗りを上げてくれた。写真部長はジロリとにっこーちゃんの顔に視線を送り、
「そういやそっちの女子も『ウチの写真部』の部風についてゴチャゴチャ言ってたの覚えてるぜ」と口にした。
『覚えられていた』のはにっこーちゃんもか!
「悪く言ったつもりはありません。ただ、人によって『雰囲気の合う・合わない』があるだけです」
「うわっ。相変わらずだよな。なにそれ? 『強気』っていうの? それとも自分の思ったとおりにならないと気が済まないタイプ?」
「なんですそれは? 自分の考えを言ったらダメですか?」
「あぁ。自分の意見って言やあいいってもんじゃねえな。特に女子は」
にっこーちゃんは写真部長を睨みつけていたが写真部長は僕の方を睨みつけていた。
「どうやらテメーを舐めてたようだな。テメー、女を抱き込めるんだ?」
え?
「テメーはあのオリエンテーションの日に部室の隅々まで観察していたんだ。そうしてこの女子に目をつけた。この女子の性格を利用して『部長にしてあげる』って持ち掛けただろ? 『好きなような写真部作りなよ』とか言ってよ」
言ってないよ! ここで初めて写真部長の〝認識〟に気づいた。僕は『できる人』にされているらしかった。
「——それに野郎が部長やるよりは女子を前面に立てた方が生徒会への働きかけは上手くいくからな」
対生徒会工作のために『にっこーちゃんが女子であること』を利用した? 僕がか?
「で、まんまと成功したと。しかも生徒会幹部を丸ごと抱き込むなんて汚ねえ真似しやがって。どーいう騙しのコミュ力を使いやがった?」
どんだけ有能なんだよ、僕! 完全に間違ってるよ! そもそも生徒会長自身が鉄道マニアで鐵道写真部にノリノリで、副会長はなにを考えているのか分からないけどとにかく生徒会長にくっついてきただけのようなんですけどっ!
なんか何重にも勘違いしているぞ。『鉄道写真は野郎が撮るもの』という先入観を根拠に過剰にストーリーを膨らませている。
僕がにっこーちゃんに甘言を弄し部長に祭り上げ、生徒会を丸ごと取り込んだことになってる! そんな凄まじいコミュ力を僕が持っているわけないだろ! 『写真部オリエンテーション』の時の印象こそ『僕という男子の正しい印象』なんだぞ。
「ナントカ言えよ。ガン無視してんじゃねーよ」
下級生を脅す上級生ってどうよ?
「無視はしてません」
「ほー、ようやく喋りやがったな。その騙しのコミュ力見せてみろよ」
「騙してません」
もはやこれはイジメそのものじゃないか。
「言いがかりはよしてください!」
にっこーちゃんが写真部長の独演、いや毒演を止めさせようとしてくれた。だが写真部長の方には止める気は無い。相変わらず視線は僕から外れてくれない。
「言いかがりじゃねえよ。このドロボーが」
「なにも盗んでいません」僕は言った。
「とぼけてんじゃねーぞ部員ドロボー。ウチの部に入った部員をお前の所の部が引き抜いただろ。ぜってー許さねえ」
言われて詰まる。向日町さんは確実に写真部の方に先に入部届を出している。いくらこの写真部という部の空気感が気に食わなくてもこの事実はどうしようもない。惟織さんが『したでに出て』と言うのは悔しいけれど道理に適ってしまってる。
「だけどまあ『本人の希望云々』ってのは俺も当人から話しを聞いちゃったからそこは否定できない。だけど俺の方もこのままじゃ済まねえんだよ」写真部長は言った。
「それは写真での勝負で〝向日町さんの帰属先〟を決めるということですか?」にっこーちゃんが問うた。
「写真じゃねえよ。鉄道写真だ」それが写真部長の提案だった。
ようやく〝コンペティション〟の意味が見えた。向日町さんを賭けた写真部長とにっこーちゃんの勝負。そうか、そういうことなのか。
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