第16話【わたしはコミュ障だから……】
僕とにっこーちゃんは踏切を渡り切った。踏切を渡る直前には右手に広い広い駐車場。ここには確か昔工場が建っていたらしいのだけど取り壊され駐車場になったまま今に至っている。
ここから学校の方を振り返ると校舎が見える。
そう、ここを通る列車が校舎の屋上から見えたのだ。
踏切を渡り終わった僕とにっこーちゃんは立ち止まっていた。
「こっちから見るとこういう感じで見えるんだよ。だから鉄道写真が部活になるんじゃないかって思いついたんだ」にっこーちゃんはそう解説してくれた。
しかし僕にはどこか上の空。
『コミュ障なりによく頑張ったと思うよ』にっこーちゃんにそう言われてしまったんだ……
あぁ————
「富士彦くん、どうかした?」
「あっ、いや……」
「わたしダメなんだよね」
へ?
「わたし、って?」
「わたしはわたし。
「じゃコミュ障って?」思わず声に出して言ってしまった。
「あぁ、さっき言ったの? わたしのことを誉めたんだけど」
僕じゃない⁉
「ぜんぜんコミュ障なんて見えないけど」
「あぁ、そうか。それはね、わたし、自分の言いたいことなら一方的に言えるけど、そうじゃないと急に喋れなくなるんだよね。そういうのも〝コミュ障〟っていうみたいよ」
「でも普通に会話してるよね?」
「それは富士彦くんとの話しがわたしの言いたいことと重なってるから——」
じゃあ重ならなくなったら会話が成り立たなくなってしまう————のだろうか?
「あの……」
「どうしたの?」とにっこーちゃん。
僅かに迷いが生まれる。
「……コミュ障って僕のことかと思って……」
言ってしまった!
「ああその話しね」
え? やっぱり僕のことコミュ障だって思ってたってこと⁉ でもそんなの見れば分かってしまうか……
「やっぱり分かるよね……」観念したようなことばが僕の口から出た。
「写真部の部長さんとそんな話しをしてたよね、その事だよね?」
聞いてた?
「わたしけっこう地獄耳」とにっこーちゃん。
「——だけどさ、写真部の部長さんのようなコミュ力はどうかなって、思うけど」にっこーちゃんは言った。
え?
「でも無いよりあった方がいいっていうよね?」と僕は訊く。
「そりゃね。でも生理的に受け付けないって感じかな」
「女子の入部希望者にはやけに愛想がいいとかってこと?」
「う〜ん、それもあるけど、わたしが見たのは写真」
「しゃしん?」
「あの〝写真部オリエンテーション〟の日に、部室の中に何枚も写真が飾ってあったよね? 撮影者の名前入りで」
「あっ、うん」
確かにソレらはあった。
「写真部の部長さんの撮った写真が五枚もあった」
そういうのチェックしていたのか!
「——それでその五枚全てが違う女の子で全員楽しそうに写っていた。確かに写真としては上手いんだけど、こういうのどうなのって感じがして。一人の女の子が楽しそうにしてるだけならまだ許せるんだけど……これを撮るスキルのことを〝コミュ力〟と言うのなら無くてもいいのかなって思って……」
僕としてはあっけにとられるしかない。あの日は無造作に写真が飾ってあっただけで話しを聞くのが主だった。誰が撮ったかなんていちいちチェックしてない。
こりゃにっこーちゃんの方が写真に対して真剣じゃないか。
にっこーちゃんはこつんと自分の頭をげんこつで叩いて、
「でもこれって他人の撮った写真を堕としているだけで〝嫉妬〟なのかなって」と口にした。
僕なんて絶対にあの写真部長など誉めたくないのに。
「少し気が楽になったかな?」にっこーちゃんが唐突に言った。
僕は黙ったまま反応できない。
「コミュ障カミングアウト」にっこーちゃんがさらに言った。
カミングアウトって……
「わたしだけに喋らせるの?」と遂に問われてしまう。
「楽になった……かもしれない……」
顔がだんだんと火照ってくる。
「わたしも」
「——それは同情?」
にっこーちゃんの顔をまともに見れなくなっている。
「言っておくけど〝同情で〟なんて言ってないよ。そんな余裕無いし。わたしは自分の言いたいことだけを一方的に喋れるだけだから。だから副会……いえ、惟織さんに激しく問われてなにも反論できなかった」
「……」
「コミュ障同士頑張って意思疎通しよ!」とにっこーちゃんがまたさらに言ってくれた。
「いや、そこまではっきりと……」
ようやくにっこーちゃんの方を見ることができた。にっこーちゃんはただ笑っている。
踏切の警報機が鳴り出した。
警報機の音に紛れ込ませるようににっこーちゃんがひと言言った。
「お互いカッコつけない方が話しやすいよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます