第11話【鉄道写真大肯定論】

 あった!

 あとはどう話しを展開させていくか——


「にっこーちゃんっ、」

「なに?」

「鉄道写真を本当に極めようと思ったら窮屈どころかどこまでも過激になるんだけど」

「過激ってなに?」

「終いにゃ登山やスキーを習得しなきゃならなくなったりする」

「え⁉ そうなの?」

「碓氷峠って知ってる?」

「確か、関所とかあるところよね?」

「そう。鉄道写真を撮るために妙義山系に登る」

「妙義山ってなにか聞いたことある。なんか岩肌というか崖よね」

「そこから四キロくらい先の列車を撮れたんだって」

「『撮れた?』なの」

「ご明察。横川—軽井沢の間にはもう線路は無いから」

「なにそれ! 意味無いじゃない!」

「まあまあ、そういう例があったということで。それにまだ線路があるところもある。それが磐越西線」

「それどこ?」

「郡山から会津若松の方へ行くやつ」

「ひょっとしてそれがスキー?」

 僕はうなづき、

「猪苗代湖って知ってる?」

「知ってる知ってる」

「スキー場の上の方まで登ってそこから雪原と湖とをバックにしたSLが撮れるって。スキー場の上の方に登るから当然スキーの技術が必要になる」

「おー、過激じゃない。わたしそこまで辿り着けないよ」

「どう?」と振ってみる。

「うん、なんかいろいろ撮れるね。熱が戻ってきたような気がする。もしかして『鉄道写真』いいかも」にっこーちゃんは確かにそう言った。表情も元のにっこーちゃんが戻ってきた。

 対策はバッチリできた。今はそう断言できる!


「心配させちゃったね」

「え?」

 虚を突かれた。次のことばが出てこない。


 にっこーちゃんが僕の顔を見ている。

「わたしのやる気を引き出してくれようとしたでしょ?」

 見破られてた!

「あの……少しわざとらしかった……?」

 にっこーちゃんはにこりと微笑み、

「気にしないで。わざとらしかったのはこっちも同じだし」

 さっきの〝冗談〟のことなんだろうか。

「いまの、励ましてくれたと思ってるから。『鉄道写真』がいくら小うるさくてもわたしはやる気を失わないよ」

「うん……」

「それに登山やスキーの話しで興味が出てきたところもあるんだ」


 また気の利いたことを言えなくなってる僕がいる。本当にやられたらもう着いていけないぞ。しかし間違いなく鉄道写真の一ジャンルに『俯瞰系』というのがある! 高いところへ登って撮った写真はとにかく目立つ!


「でもさ、ひとつ問題があるよね」にっこーちゃんは言った。

「問題?」

「すっごくお金がかかりそう」

 ネガティブに聞こえるそのことばはもうぜんぜんネガティブじゃない。話しててそれは分かる。声の調子と表情で。

「富士彦くん、絶対に『鉄道写真部』造ろうね」

「うん。造ろう」

「決行日は週明けの月曜日、その日に生徒会室へ突撃するから」

「時間は?」

「うーん、やっぱり時間が充分にある放課後かな」

「じゃ放課後、資料持ってくるの忘れないでね!」

 写真持ってくるの忘れないでね、と言おうとして言えなかった。


 ともあれ改めてふたり、『鉄道写真部』設立を誓い合った。いい感じになってきた。

 行くぞおーっ!

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