第28話「悪魔の旅団」
大きな組織ではみんな仲良しとはなかなかいかず、どうしても派閥が出来てしまうもの。問題は、最も力を持った派閥がもしトップに反旗を翻したら、組織を守るために一体どうすればいいのかって事だ。
最近気になることがある。日課の情報サイトの流し読みをしていると、黒の国現軍団長である彼に批判的な書き込みが少しづつではあるが目に付くようになってきたことだ。批判の内容と言えば、調略で旅団を寝返らせた事で、正々堂々と戦う場を奪ったとか、対人戦の楽しみは互角な戦力によるせめぎ合いなのに、今やすっかりパワーバランスを崩され一方的になったとか、偵察や生産職を大事にするあまり、しわ寄せが前線で戦うプレイヤーに来ているなどの、明らかにオジンと<1stSSF>のメンバーが思い付きで書き込んでいるのが分かるものだが、正しいかどうかよりも、声のデカい意見に人は流れやすいもの。今はまだ影響は出ていないが、今後が心配になる。唯一ホッとしたのは、すぐに対処したためか、旅団メンバーが寝マクロに手を染めた事を問題視する書き込みは無かったことだが、複雑な気分だ。
そんな不安要素が黒の国内にあるとは言え、対赤の国の戦況は明らかに優勢な今、来たるCTの前準備である作戦会議に新しく旅団長になった私も参加しているが、積極的な意見が多数だ。
「赤の国は今や南の黒の国、東の灰の国両方と敵対している二正面作戦中。どうしても本隊が分散するだろうから、ここは積極的に攻めに行くべきです」
Tokiさんやティルミット、その他師団長や旅団長からも同様な意見が出た。
「それでは念を入れて本隊を2つ作り、お互いにフォローしながら別方面から攻めるのはどうでしょう」
彼の提案だが、こちらが数で勝ってる以上、多方面から攻めるのは悪くないと思う。
「「「賛成」」」
「片方は軍団長のゴッドフリーさんが率いるとして、第2部隊は誰が率いますか?」
当然の疑問が出たが、まぁ、Tokiさんが率いるのが順当でしょ。
「オジンことO-Jinさんを、この後師団長に指名して、お願いしようと思います」
それを聞いて凍りつく一同。盟友のポーラが失脚した事で、ようやく表舞台からは引っ込み、せいせいしてた所なんだから当然だ。
「いやいやいや正気ですか?最近裏で行われてるあなたへのネガテイブキャンペーン、明らかにオジンですよ犯人」
「そもそもオジンに本隊の指揮なんて無理だって」
「理由を教えて下さい。そんな突飛な案を出す理由を」
もちろん反対意見続出。そりゃそうだ、私ですらあり得ないと思う。
「このまま黒の国内に派閥間対立を作るわけには行きません。早いうちに歩み寄り、和解をしようと思っているからです」
性善説に則った考え方過ぎる。
「いやいや、オジンは恩義を感じるような人間じゃないって。<1stSSF>が悪魔の旅団と言われるのは、その強さよりも行いからよ」
流石にこれは意見せざるを得ない。オジンなんかに任せたら、下手したら彼の立場が危うくなる。
「上手くいかなかったら、任命したおいの責任として下さい」
彼の決意が固いと知ると、みんな渋々承諾し、作戦会議は御開きとなった。もはや私には不安しか無い。その後、オジンは自信満々に師団長と指揮官を引き受けたが、その時の発言、
『分かってんじゃん、どうするべきかがw』
を聞いた時、私の不安は益々膨れ上がった。
彼率いる第1部隊は、私達の所属する<聖霊騎士団>、ティルミットさんの<テルモ・ガーデン>を主力とし、その他自由選択となった小規模旅団や無所属プレイヤーで構成された。オジン率いる第2部隊の方が人数が多い配分になっているのは、彼が言うには、
「オジンも自分の手で砦を占領すれば満足するでしょ」
という事らしい。まぁ、ティルミットさん率いる<テルモ・ガーデン>にも何かと難癖付けるオジンだ、引き離したのは正解かもしれない。
第1部隊は私達の砦、赤C4F2のある東側、第2部隊は<1stSSF>の砦群がある西側からそれぞれ国境森を越えて赤の国に侵入する事になったが、優勢な戦況では敵地を進むのもそれほど緊張する事では無かった。あの報告が偵察から入るまでは。
『赤C4付近に赤本隊!かなりの数です!』
おいマジか。灰の国との国境も固めなくてはならないはずのこの状況で、逆に積極的に攻めてくるなんて考慮してないぞ。
『まさか向こうから総力で攻めてくるとは……どうしましょう軍団長。隊を2つに分けてる以上、正面から当たるのはいささか分が悪いかと思いますが』
ティルミットさんの言うとおりだ。しかも赤C4と言えば、私達の砦と<テルモ・ガーデン>の砦のすぐ近くじゃないか。
『仕方ない。第1部隊は侵攻作戦を中止、赤C4F1からF3の砦防衛に回る!砦まで急げ!』
その後の偵察の続報から、赤本隊の攻撃目標は私達の砦、赤C4F2である事が判明。なんとか敵本隊到着前に砦内に入る事が出来たが、念のために周辺の砦にも守備隊を配置した今、とてもじゃないが数が足りないのは明らかだ。
『赤C4F2に敵本隊、第1部隊は砦防衛に回るため、第2部隊からも援軍をお願いします』
彼は即座に援軍要請を出したが、果たしてあのオジンが、素直に聞き入れるか……
『こっちも砦攻撃中なんで、そっちがどうしても無理そうなら援軍出す』
なんだそれ。無理そうだから援軍要請してるんだろうが。
『敵は多数なので、早めにお願いします』
『ブラフかもしれないんだから、まずは戦ってみてから判断しろよ』
作戦会議の時に感じた私の不安は、今まさに的中したと言える。
そして押し寄せて来た赤本隊。私達の砦は最前線に位置するため、これまで旅団メンバー全員でお金を出し合い防御施設を強化してきたとは言え、果たしてどこまで持ち堪えられるか。最外周の柵に殺到する敵に矢を射っているが、次から次へと現れる敵に、絶望感が少しづつ高まってくる。
『柵が破られた!遠隔職集まって!』
『空堀に落ちた敵に石を落として!上に登らせるな!』
『ダメだ!空堀もヤバい!』
<テルモ・ガーデン>のメンバーや、無所属のプレイヤーが守備を手伝ってくれているが、敵本隊の前に次々と突破されていく防御施設。
「MPが尽きる!一旦下がって!」
PTの回復役であるマキシ達もいっぱいいっぱいのようだ。
『援軍が来れば盛り返せる!踏み止まれ!』
彼も必死に檄を飛ばすが、オジンからの援軍、正直言ってとてもじゃないが期待できない。
そう思っていた時だった。敵の包囲の薄い所を突破、砦内部にTokiさんはじめ、数名の味方が駆け付けたのは。あのオジンが援軍を寄越したのか!数は少ないが先遣隊か何かだろう。砦内の味方の士気が一気に上がるのを感じる。
「よく来てくれたよTokiどん!これで本隊も来れば一気に逆転できる!」
彼の喜びはひとしおだった。人の良心を信じる者が救われたんだ、当然だろう。これは私も心を入れ替えなくては。
「……本隊は来ません」
え……Tokiさんの発言に一瞬だが時間が止まる。
「オジン達<1stSSF>は目の前にある砦の攻略を優先するためここを見捨てると部隊チャンネルで通知してきました。その決定に納得いかない数名だけが、こうして来た次第です……」
マジか……一瞬期待しただけに絶望感も大きい。彼もただ呆然と立ち尽くしている。
そうしている間にも敵は空堀も突破、城壁に梯子を掛けて登って来ている。
『梯子の敵になんでもいいからノックバック攻撃して登らせないで!』
味方の声にハッとする。考えるのは後だ、とにかく今は最期まで戦わないと。
「ゴッディ何ボッとしてんのよ!あんたが戦わないでどうするの!」
状況は絶望的。しかしそれと戦うかどうかは別問題だ。動かない彼を尻目に、とにかく私だけでも戦いに戻ることにした。
敵を阻止するため城壁の上に戻った時、突然辺りに転がる死体が連鎖的に爆発、味方が何人も吹き飛ばされた。そして血煙の中から1つの黒影が姿を現わす。黒地を赤糸で威した装備を全身に纏い……背中には軍団長の証である覇王のマント……まさか奴がこんな最前線まで出て来るなんて。咄嗟に矢を射掛けようとしたが、身体が勝手に引き寄せられる。これは……ブラッドライン!斬りつけられるその時、水弾が奴に命中、なんとか脱出できた。
「すまないマグりん!最期まで戦うよ!」
「遅いわよ!グータラは相変わらずね豚!」
「ブヒィ!」
その後も私達は死力を尽くし最後の1人まで戦ったが多勢に無勢、砦……私達の"家"は敵の手に落ちてしまった。もし第2部隊が援軍に来ていれば、結果は違っていたはずだ。彼は人の良心を信じ、そして裏切られた。オジンとその旅団による所業は、まさに"悪魔の旅団"と呼べるものだ。そして何よりも彼の発言、
「もうあれに頼るしか無いのか……」
に私はまたもや不安を覚えるのだった。
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