第23話「無血クーデター」
人を思い通りに動かす、現実でも作用する魔法がある。その魔法は名称を"言葉"と言うらしい。発動には"理に適った内容"と言う詠唱と、"心"という名の魔力を込めなくては、効果は現れないらしいが。
作戦会議に出席した師団長の彼と、旅団長のみずぽんさんがようやく戻ってきた。珍しく軍団長のポーラが不在の今回CT、果たして本体戦の指揮官は誰がするんだろうか。
「2人ともおかえり。それで指揮官は誰?Tokiさん?まさかのゴッディ?」
まぁこの2人のどちらかが順当ね。
「……ナギだよ」
みずぽんさんの答えは、心無しか力がこもってない。
「え?誰?」
ナギ?どこかで聞いた気もするけど。
「ナギ、NagiKirimaなんよ。知ってるでしょ。軍団長と同じ旅団<コーラ団>所属ってことで、決まってしまったんよ」
!!思い出した……私が初めて参加した野良PTの募集主、聖地巡礼中にエリコの村で再会した効率厨。北方ではあまり見かけ無いけど、まさか師団長だったとは……
「ネギ切り魔が指揮かよ、終わったな。今回はパスするんで後よろしく」
そう言うとファリスはさっさとメギドに行ってしまった。とりあえず残った旅団メンバーを二分し、本隊参加組と砦守備組に別れたが、ナギが指揮か……旅団チャンネル内に重苦しい空気が漂う。
そしてCT開始時間となり、ナギによる本体戦指揮が始まった。始まってしまった。
「みなさん指揮をすることになったナギです(≧∀≦)よろしくお願いしますm(_ _)m今回の攻略目標は赤C4F3で、山裾を通って向かいますので皆さんまずは黒C2F2に移動!٩( 'ω' )و」
ナギの指揮と聞き心配してたが、主戦場になりそうな私達の砦C4F2近辺に山裾を通って行くなんて、侵攻ルートは意外と堅実だ。
「Tokiさんの意見を取り入れたか。一安心だねん」
なんだ、そう言うことか。彼の話でタネが明かされた気分だ。
「作戦会議で自分は南方で野良PTを何度も指揮してるので自信があると言うのを聞いた時は、本当に心配したんよ」
ナギは何というか、想像どおりのナギだな……
侵攻ルートの中継場所に指定された黒C2F2で足並みを揃えて、私達は国境森に足を進めた。ここを越えれば赤の国領内。今日はどんな本隊戦になるんだろう、なんて考えていると勢力チャンネルに動きが。
『本隊正面に赤!10↑くらい!』
早速敵か。国境森は視界が悪いため、遭遇戦も多い。しかし、ナギからなんの指示も出ないが、敵はどうなったんだ?と思っていたが、そこに衝撃的な情報が。
『指揮官討ち死に!誰かリザして!』
おいマジか。一体全体どうなってるの?
『赤は?戦闘はどうなってる?』
『付近に敵影無し。赤の行方は不明』
『指揮官どこで死亡?シャウトして場所知らせて』
『もう手遅れ指揮官死に戻り』
状況は全く見えないが、どうやら早くもナギが討ち死に、そしてメギドに死に戻りしたそうだ。一体どういうことだ。
敵地である国境森で指揮官を失った私達黒の国本隊は、当然の如く混乱しみんなうろたえるだけだった。そして前進する者、後退する者が出始め、散らばる本隊。こんな所を敵本隊に襲われたら一たまりも無いのは分かるが、肝心のナギはようやく首都に到着した所らしい。一体どうすればいいんだ。
『ちっ、だらしねぇ。やれやれしょうがねぇな、全員C2F2に集合しろ』
オジンが指示を出し始めたが、指揮を執るのか?なんにしても口が悪いし、そもそもC2F2ってどこのだよ。という事で、黒のC2F2に向かったり、赤C2F2に向かったり、その場にとどまる者で尚更混乱する現場。これはどう考えてもマズイぞ。赤に接敵された以上、こちらの位置はとうに敵本隊の知る所のはずだし。
「うむむ、こうなったらおいの覇王の外交術を使うしか無いな」
こんな時にまでつまらないギャグを飛ばす彼。
「覇王の外交術って何言ってんのよ?」
混乱した空気に当てられて頭がおかしくなったか。
「覇王の外交術とはもちろん……土下座外交だよん」
『みなさん落ち着いて下さい。ナギさんへ、ここはおいが無血クーデターを起こしたと言う事で、指揮権を頂いてよろしいでしょうか?もちろんナギさんが本隊に合流しだいお返しします』
急に懇切丁寧に発言し出す彼。
『……分かりました。一時的に指揮をお願いします_(┐「ε:)_』
一時的にとは、この後に及んでまだ指揮するつもりかナギ。
『それでは、本隊戦の指揮をします。みなさん続いて下さい。まずは黒C2F2まで後退開始!』
順序良く新しい指揮官が現れたため、ようやく混乱が収まりみんな一斉に移動を始めた。やるな彼。混乱しきった本隊を収めるとは。
そして国境森の前に位置する黒C2F2に本隊が到着したところで、彼の次の指示が飛んだ。
『申し訳ありませんが、<1stSSF>の皆さんは先程の国境森内山側まで移動し、敵の偵察狩をして頂けませんか?重要任務なので、<1stSSF>以外に適任が見当たりません』
『しょうがねぇな、やってやるよ』
『よろしくお願いします。もし敵本隊を発見したら、すぐに後退して本隊に合流して下さい』
煽てには弱いのか、素直に動くオジン。にしても黒本隊の前衛を、あのオジン率いる旅団に任せるとは彼は何を考えているのか。
『どなたか偵察の方は、国境森、赤C4F3付近を偵察して来てもらえませんか?』
とにかく丁寧口調な彼。
「ゴッディ何か作戦でもあるの?あのオジンの旅団に前衛を任せるなんて」
取り敢えず、相変わらずの偵察重視なのは分かるけど。
「知り難き事陰の如しってね。オジンらには前衛として敵の偵察を狩る事で、本隊を隠すという重要任務をして貰ってるのよん」
なるほどね。陰の如しとは何か知らないが、風林火山の親戚かな。
「あともう1つ、重要な役を演じてもらう事になるんだけど……」
重要な役なんて、オジンとあのロクでもない旅団に務まるのかしら。
その時、彼の放った偵察から報告が入った。
『国境森内赤多数!赤本隊の模様!』
『了解です。<1stSSF>は赤本隊を見かけたら、接敵前に後退して下さい』
『もう壊滅したよ。偵察報告が遅えよ、たく』
『!!なんと……黒本隊はフルbuff!ゲーム時間2100に敵本隊に突撃!』
オジンは偵察に文句を言ってるが、大方自分達は偵察を出さなかったせいで敵本隊の発見が遅れたんだろ。にしても彼、まるで前衛が壊滅するのも織り込み済みの如く、淡々と指示を飛ばすが……
『突撃開始!GoGoGo!』
考えるのは後だ、今はこの戦いを生き残らないと。走りながら敵をタゲった私は、こちらを見つけて慌ててUターンする敵目掛けて矢を放った。
どうやら敵は、私達本隊は国境森から動いていないと思っていたらしく、前衛を壊滅させただけで本隊を撃破したと勘違い、そのまま追撃に移行しバラけていたようだ。敵偵察から上手く黒本隊が隠れられたお陰だ。結果、私達黒の国が本隊戦に勝利したが、そこでCTが終了、仕方ないので私達は首都に撤退する事にした。混乱してる間に時間を浪費してしまったのが痛かった。
首都帰還後、ナギはTokiさんに指揮官はまず自分の命を第一にして、無闇に前線から飛び出さないようにやんわりと注意されていたが、まぁ全くもってその通りだ。また、彼はしきりにオジンと<1stSSF>にお礼を言い、今回の勝利はオジン達のお陰とまで言っていた。私にはそうは見えなかったが。その後、彼のところに労いの言葉の1つでもかけてやろうと思い、向かうとTokiさんと話をしていた。
「懇切丁寧な言葉で混乱を収めたのはもちろん、あの連中を厄介払いするとは上手くやりましたね。オジンなんて囮にされた事にも気付かず、あなたに褒められて上機嫌ですよ」
なるほど、"重要な役割"とは、そう言う事だったのか……
「おいはそこまで考えてないよん。<1stSSF>の連中には悪いことしてしまったと思ってるよん」
白々しい。
「……w、それではこの辺で」
Tokiさんが行ったところで、彼に話しかけた。
「お疲れ。それにしても覇王の外交術が土下座外交って」
なんか心理戦的なものでもするのかと思いきやだ。
「変な小細工なんか無くとも、まともな人なら礼節を弁え理を説きば自ずと動くものさー」
礼節を弁えれば、か。オジンという比較対象がいる今なら、すごくよく分かるな。
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