第22話「生産職」

 このゲームの特徴の1つが、生産関係がとても充実していることだ。そのため、戦闘スキルを一切取らずに、生産スキルのみのキャラを作るプレイヤーも珍しくない。けど、血で血を洗う北方においては、そんなキャラも戦いの渦からは逃れられないものだ。


 北方で対人戦に明け暮れる毎日を送る私だが、死ぬ度にドロップで失う装備も多く、ついに装備の備蓄が尽きてしまった。南方からはお金しか持ち込めない以上、北方に来たばかりの頃にお世話になった黒の国標準装備をNPCから買うという手もあるが、装備の良し悪しも戦果に影響する以上、まずは良い装備を揃えたいもの。


 幸いこの旅団は生産スキルを持ったメンバーが所属し、鉱石を産出する砦を所有するため、そのアドバンテージを活かさなくては。

「と言う訳で、まるには防具の上級弓兵装備一式、Fetyさんには与一の弓の製作お願いできる?」

攻城職は戦いだけでなく、装備作りにも欠かせない存在だ。

「今材料の手持ちが無いため首都で伐採してきますので少々お待ちください」

大抵の武器は鍛治で作成されるが、弓系は資材加工で作られるので、Fetyさんは私の生命線だ。

「マグさんの中装カテゴリ防具なんだけど、上級弓兵装備は素材に裁縫スキルの生産品も必要になるんですよね……ボク裁縫スキル無いから、作れないんですよ……ごめんなさい」

何ー!私達の旅団には、裁縫スキル持ちいないんだよなぁ。

「うーむ……どうするかぁ」

ローブとかの軽装カテゴリは裁縫スキル、チェインメイルとかの重装カテゴリなら鍛治スキルだけで作れるのに……なんて不遇なスキルだ。

「あっ、でも素材さえあればいいんで、用意してくれれば作れますよ」

「りょーかい。なんとか手に入れてくるよ」

と、なれば首都にでも行って作ってくれる生産職を探すか。

「おいにもクルセイダー装備一式作ってくれない?」

「それも裁縫スキルの素材無いと作れないんで無理」

「ぶひぃぃ!」

彼は魔法剣士スキル構成にしてから、重装着こなしと軽装着こなし両方が必要な装備に変えたそうだが、製作も面倒になったみたいだ。

「それじゃゴッディも一緒に首都まで生産職探しに行くよ」

「へーい、マグりん当てはあるのん?」

「え?ゴッディあるんじゃないの?」

マジか。都合良く生産職がいればいいんだけど。

「仕方ない、一から探すか……まるは準備しててくれない?」

「了解!いってらっしゃい」

こうして私と彼は裁縫スキル持ちの生産職を探しに、首都に向かうことになった。北方では良い防具を手に入れるのは一苦労だ。


 首都に到着後、彼にシャウトをしてもらったところ案外早くに、コタツさんと言う生産職が見つかったのは幸いだった。

「……と言うわけで上級弓兵装備一式とクルセイダー装備一式に必要な裁縫素材をそれぞれ4個分ほど作ってもらえますか?」

北方では防具はすぐに落として無くなるので、作りだめしとこう。

「ラジャ〜材料は揃ってるんでちょっと作って来ますね〜」

品物を受け取ったが、うーむ、さすがプロ仕事が早い。完全生産職のキャラは今まで知り合いにいなかったので、良い機会だから色々聞いてみよう。

「北方での生産職ってやっぱり大変ですか?素材を採取するのも一苦労って前聞いたことあるんですが」

採取場を破壊されたり大変だと最初の頃聞いた気がする。

「う〜ん、でも首都周辺の採取場を使えば、ゲリラもあんま来ないんでそんなに襲われることも無いからね〜。本当に大変なのは首都の中って感じ〜」

首都の中?中はCTに防御施設を突破されない限り安全のはずだけど。

「と言うと?」

「死亡時のドロップで失うばかりの戦闘職に比べて生産職は儲かるんだから値下げしろとか〜、注文の品はせめて最高品質じゃないなら割引しろとか〜、砦の採取場使わせたんだから無料で作れとか〜、前は無所属で各国を巡る行商人プレイしてたんだけど、商品を買った後、殺して払った代金をルートで回収とかされて〜、そっちの方が大変かな〜。生産職も楽じゃないのに〜」

マジか……そんな要求や非道な事をするプレイヤーがいるのか。

「戦闘職が存分に戦えるのは生産職のお陰なのにひどい話だねん」

全く彼の言うとおりだ。

「コタツさん!品物の代金少し多めにしといたんで受け取って下さい!」

事情を聞いてしまった以上、これは割増しなければ。

「ありがと〜。こっちもなんか愚痴っぽくなっちゃってごめんね〜」

対人戦をしているのは戦闘職だけだと思っていたが、北方では生産職も戦っているのか。それもよりタチの悪い戦いを。


 コタツさんから素材を受け取り砦に戻ったところ、まるはまだ採掘中だそうなので、もう少し時間がかかるとのことだった。

「等級は高品質でもいいですか?最高品質素材は中々集まらなくて」

Fetyさんの発言からも素材集めの大変さは伝わってくる。

「高品質でも十分よー」

にしても露店で売ってる装備には、高品質とか最高品質とかいう等級が付いてるが、この等級ってどうやって設定されるんだろう。今更ながら聞いてみるか。

「等級は、採取できる素材には低品質・中品質・高品質・最高品質があって、それら使用素材の平均と、作成時のルーレットによって決まります。具体的には、使用素材の平均が高品質で作成時のルーレットで凡作なら最終等級も高品質、下作で中品質、上作なら最高品質になりますね」

うーむ……Fetyさんの説明で分かったのは、生産は難しいと言うことだ。素材にも等級があるのか。あっ、だから南方だとみんなより良い等級の素材を目指して生産職もダンジョンの奥地を目指すのか。

「素材を最高品質で揃えて、作成時のルーレットでも上作を出せば、さらに上の等級、最上高品質が作れて自由に銘が付けられるんだけど、かなり難しいほとんど趣味の等級だね」

まるが言う最上高品質装備……いつか手にしてみたいなぁ。まぁドロップがある北方では高品質か、良くて最高品質で充分だけど。

「おいもカッコいい銘が付いた剣を振るいたいな。ロングソード<サンティアゴクロス>みたいな感じのん」

彼のネーミングセンスは良く分からない。中二病を拗らせ過ぎたか。


 そんな話をしながら、砦でダラダラとしていると、勢力チャンネルに報告が。

『赤C4F2付近に赤7か10』

私達の砦だ。これはヤバイ。今外の採取場ではまるが採掘の真っ最中、それに他のメンバーは出払っていて、今砦内には私と彼しかいない。

「まる直ぐに砦内に戻って!」

急いで彼と共に砦の外に駆け出す。幸い、近くにはまだ敵の姿は見えない。

「重量少し超えちゃって重いー」

明らかに移動速度が遅くなっているまる。

「鉱石少し捨てて重量減らして!」

「でも、マグさんにいい装備作ろうと思って、高品質と最高品質の鉱石に厳選したから……」

どうりで採掘に時間が掛かると思っていたら、まるはそんなことをしていたのか。

「おいの装備には?」

「ゴッドフリーのは貯めてある中品質鉱石を使うよ」

「ぶひいいい!」

豚はこんな時でもお気楽か。

「そんなこといいから早く砦内に!」

そうこうしている内に、ついに敵が来てしまった。目視で3人、先走りか。今までの経験上、こう言う時は後続に報告される前に戦闘に持ち込んだ方が良い。そう思ったのは彼も同じだったらしく、ほぼ同時に攻めかけた。


 罠を周囲に設置、敵の接近を防ぎつつ、彼が狙っている敵に私もタゲを合わせて攻撃する。すると、敵の内1人が動きの遅い退避中のまるにタゲを決めたのか、追いかけて行くのが見えた。

「まる逃げて!」

私も慌てて追いかけるが、間に合うか。しかし、敵の方が一歩早くまるに追いつき、背中を金棒で殴りつけた。


 生産職を虐げるか!敵にタックルをして引き離した後、タイマン勝負にもつれこんだが、罠を置きまくり足止めし何とか勝利。息を切らせながら彼の方を見やると、何と彼は2体1という不利な状況ながらも勝利していた。流石しぶとい構成。


 その後、駆けつけた旅団メンバーと残りのゲリラも掃討、まるも無事で事なきを得た。

それにしてもまるは無茶して。

「まる、戦いでは私の装備よりもまるの存在の方が重要なんだから。鉱石よりも自分を大事にすること、いい?」

「はぁい……ごめんなさい」


 その後、まるとFetyさんから装備を受け取ったが、なんと2人の名前が銘として入った、最高品質装備だ。礼金も要求額より多めに払った私は、できたてピカピカの装備を身に付け、気分も上々だ。


 それにしても装備は戦果に直結するのに、それを製作する生産職が虐げられているのが実情とは……いつか改善することができたら、いいな。


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