第21話「トーナメント」

 プレイヤーが主催するユーザーイベントなんてのがあって、色々な内容のイベントが催されてるけど、特に人気があるのはやっぱり闘技場での対人戦イベント。そこには、様々なプレイヤーが集まるけど、時には因縁の相手との邂逅なんてのも、あるかもしれない。


 本日私達<聖霊騎士団>は、中央部地域首都イプロテウスの闘技場で対人戦の練習をしているが、闘技場には私達の他にも多くのプレイヤーが集まり、いつに無く混み合っている。何故みんな北方にも行かず、ここ闘技場に集まっているかと言うと、近々開催されるトーナメント形式の対人戦イベント"コーラ杯"に向けて練習をするため、効率よくタイマン相手を見つけるには、闘技場が最も適しているからだ。


 私達旅団からも、彼と旅団きっての戦闘狂ウニちゃんの2人が参加する。最初は私も参加を考えたがこの大会、主催が<コーラ団>、司会進行がぽらら、そして協賛が<1stSSF>とあり、どうも気乗りしないのでやめてしまった。大会には参加しないが、対人戦練習は北方で役に立つし、何よりも楽しいので私も闘技場について来たと言うわけだ。

「それにしても今度の大会、沢山のプレイヤーが参加するらしいけど、誰が優勝すると思う?w」

クロさんに言われて考えたが、強いプレイヤーか……北方では自勢力以外のプレイヤーの名前は見れないので、他勢力のプレイヤーとかよく知らないんだよなぁ。

「やっぱり前回大会優勝者、<1stSSF>のNamelessじゃないかな?」

まるさんの言うキャラ、確かに首都で見かけたことがあるが所属旅団からしてロクな奴じゃ無いんだろうな。

「Namelessは旅団内でも凄い負けず嫌いで有名で、タイマンで負けようものなら数時間は反省点と言うか愚痴を延々と垂れ流してましたね」

Fetyさんは本当に<1stSSF>で苦労してたんだなぁ……

「傭兵旅団<星屑同盟>旅団長、キリュウさんもなかなか強いって聞いたことあるよ^^」

傭兵旅団の中でも最大手の<星屑同盟>の旅団長ともなれば、メジロさんの言うとおり、なかなか強いのも頷ける。

「今大会には参加しないけど無所属のソロ専、神威も強いらしいんよ。最近見ないし、引退したって噂だけどね」

みずぽんさんの話が本当なら、軍属ひしめく北方でソロ専は凄いな。よっぽど腕に自信があったのか。

「ソロ専なんていう、友達がいないだけのまともじゃないキャラは消えたのさ」

急に口が悪くなる彼。神威ってのに負けた事でもあるのか。

「何にしても頑張りなさいよ。応援に行くから」

<1stSSF>や<コーラ団>なんかに遅れをとったら承知しないよ。


 そしてやってきた大会当日。大入り満員の中、観戦出来そうな場所を探してウロウロしていると、アナウンスが。

「それでは第5試合、<聖霊騎士団>所属、ゴッドフリー選手vs<ハンターズギルド>所属、ユクモ選手の試合を始めます><」

彼の1回戦だ。大会前に応援すると約束してしまったし、ちゃんと観戦しないと。人混みをかき分け、なんとかリング前に辿り着く。


 試合開始位置にいる対戦相手を見るに、どうやらいわゆる脳筋近接職のようだ。魔法系スキルを取らないため筋力や持久力、重装着こなし、そして体力だけに上げるスキルを絞れるため、その分他に多くのポイントを割けられることから、北方にも南方にもよくいるスキル構成。対する彼のスキル構成は一言で言えば、魔法剣士。果たして、あのマイナー構成でどこまで通用するか……心配だ。そして、試合開始の合図が鳴った。


 始まってみると、彼は低級術で牽制、敵の攻撃には刀剣スキルの防御技のパリイや、カウンター技の切り返しで対応、攻撃で受けたダメージは、擬態スキルの技でタゲを切りつつ水魔法で回復という戦法で試合を優位に運んでいった。特にタゲ切りからの回復術は詠唱中の妨害が難しく、彼のしぶとさを形作る組み合わせだ。いつぞやの行商人からヒントを得たとのことだが、私も練習相手をして、そのしぶとさは検証済みだ。やや火力不足は否めないため、長期戦になりつつも、初戦は彼が危なげなく勝利した。

「ゴッドフリー選手の勝利><!随分時間がかかった試合でした><」

と、ぽららはアホっぽいコメントをしてたが、彼のパリイや切り落としの使い方……かなり熟練している。


 それからも順調に勝ち進んだ彼は、ついに準決勝に進出。そこであのウニちゃんを下した、Apocryphaというキャラとの対戦に臨んだ。

あの対人戦大好きなウニちゃんを負かすとは……相当な強者だ。

「( ;ω; )」

ウニちゃんも泣いてしまっている。


 試合前、お互いの意気込みを、さっきからズレたコメントばかりしているぽららが両選手に聞いて回った。

「みんな見てるー?がんばるよー!」

彼はなんとも気の抜けたコメントだ。まぁ緊張してないのならそれでいいか。

「我雄伏して幾星霜、終の間に強敵と合間見えん。我が愛刀"血吸い村正"の一閃にて葬らん」

何語だろうか。Apocryphaさんはもしかしたら、モラトリアムの病なのかもしれない。装備も黒地に赤糸威、おまけにマスコットなのか、コウモリ連れてるし。


 そして始まった、彼対Apocrypha。もちろんコウモリは一撃で倒した彼だが、そこに襲いかかるDebuffの嵐。Debuffとネクロマンサー的な術で微妙スキルと名高い暗黒魔法を主力として使うのは奴が初めてだと思う。何せ、北方で使ってるプレイヤーを見たこと無いし。


 負けじと彼も土魔法術、スピリットアブソプションのMP吸収で対抗する。そんな彼に、牙スキル技、吸精でMPを吸収し返す。各種吸収技が揃うが与ダメが低いため、これまた不人気の牙スキル持ちとは、奴はロールプレイ優先か。


 そして終盤、お互いMPが尽き刀剣スキル持ち同士、激しい撃剣の打ち合いに。通常攻撃をすればパリイで防ぎ、真正面からの大技攻撃を切り返しでカウンターしようとするも、それはタゲを取ってない囮。そして切り返しの使用ディレイの隙を突いて本命攻撃を入れる……双方一歩も引かない、息詰まる攻防が続く。


 激しい打ち合いの連続でお互いHPを消耗する中、彼が擬態スキルの技で姿を消した。そうか、戦いが長引けばMPが回復し、水魔法が使え彼が有利!暗黒魔法のメインは所詮Debuff術。術者の有利に直接は結びつかない。


 姿を消す彼を見て、奴が動きを止めたと思いきや、徐に自らの腕に噛みつき、吸い上げた血を空に向かって吹き上げた。

「ブラッドライン……微妙スキル牙の最上級技……使用を初めて見たんよ」

みずぽんさんでも初見の技があるのか。

「あの技の効果は確か、周囲一帯に吹きつけた血が触手のように敵を自らの所に引き寄せるんよ」

鮮血で真っ赤に染まるリング。しかし彼をタゲれない以上、引き寄せたところで意味あるのか?

「我が闇の眷属、我が従順なる僕、我と血の契約を結びし者、死してなお我に仕え、血に塗れた勝利を!!」

戦いの最中に奴は一体何を言っ……


 次の瞬間、床に横たわっていたコウモリが爆発、範囲攻撃に吹き飛ばされた彼が倒れた。暗黒魔法コープスエクスプロージョン……そうか、ブラッドラインは、コウモリの死体まで彼を引き寄せるためだったのか。


 準決勝を勝ち抜いた奴は、事前予想を覆し決勝で優勝候補筆頭NamelessもDebuffで固めて難なく勝利、優勝するという大荒れな大会の立役者となった。にしても、

「暗黒魔法と牙がこんなにも強いとは><私も今度上げよっ><」

と言う、アホな司会進行の批評はしっくり来ないな。

 

 大会後、延々と愚痴を垂れ流すNamelessのいる闘技場を後にし、彼と2人で歩いていたが、街の外れに差し掛かった所で奴の発言が流れてきた。

「ヘレティやったよ!除け者の力を見せてやった!」

「アポ、素が出てる」

「……!我愚民に力を示さん。深淵の闇に包まれた北の地をも我が血の色で染めん」

彼を負かした相手ながら、なんだか憎めなくなってきたな。

「多分だけど……あのApocrypha、赤の国の軍団長じゃないかなん」

まさか。幾ら何でも話飛び過ぎでしょ。

「なんでそう思うの?」

もしあの喋りで指揮されても分かんないし。

「なーんとなくね。顧みられない者の意地というか、そんな感じが剣を通して伝わってきてねん」

顧みられない者の意地か……なんだかようやく、しっくり来る評価が聞けたな。




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