第20話「師団長」

 軍団長に任命される事で、指揮官モードが使え1部隊、時には本隊を率いる事を周囲に期待される役職、師団長。プレイヤーの中には拝命を目指すのも多いけど、実際は常にギリギリの決断を迫られる苦労ばかりの役職だ。


 CT前作戦会議。本体戦を前に、軍団長が主催し師団長そして砦所有旅団長が集まり方針を話し合う場だ。その作戦会議に、珍しくみずぽんさんとファリスがインしていないため、副旅団長である私は、師団長の彼と一緒に参加することになってしまった。黒の国首脳会議とも言える場に、まさか私が参加する事になるとは……緊張する。


 しかし実際参加してみると会議とは名ばかり、軍団長ポーラと同じ派閥のオジン、ぽららの3人のためだけにあるのが実態だった。これで会議と言えるのだろうか。我慢出来なくなった私は、ついに発言してしまった。

「私達<聖霊騎士団>の所有する赤C4F2は、赤の国内での飛び地状態。奪還のため赤本隊が現れる可能性が高いので、黒本隊は先に山道を急行、赤C4F2付近で待ち伏せるのはどうでしょうか」

そして赤本隊を叩き、それから砦の攻略に掛かる。セオリー通りだ。

「いや、自分達の砦の防衛は傭兵雇うなりして自分達でしろよ」

完全にお前が言うなだオジン。

「これまで赤本隊は国境森沿いの砦を狙って来てました><」

そのこれまでとは、もう状況が違うって話をしてるの!

「では本隊はこれまでどおり、国境森中央越えルートで赤の国に侵攻します!」

マジか……なんのための作戦会議なんだ。怒りと悲しみがフツフツと湧き上がるのを感じる。

「あー、でも山道を通る別働隊を組織して、赤の国の後方を撹乱するのは良いと思いますん」

そんな時、発言したのは彼だった。私の意を汲んで、代案を出してくれたのだ。

「ゴッドフリーさんの後方撹乱は実績が有りますので、試す価値はあると思います」

Tokiさんも賛成してくれた。黒の国では数少ないまともな師団長だ。

「では今回は特別に別働隊組織を許可します!ただし人数は少数で!」

そうして本日の作戦会議は終了した。次の課題は、CT開始までに別働隊の人数を集めること。あーあ……全く。


 その後、彼とTokiさんに賛同のお礼を言いに行ったところ、別働隊の人数も揃えてくれることになった。どうやらTokiさんもポーラとオジンを良くは思っていないようだ。


 そして、CT開始時刻のリアル時間2000となった。<聖霊騎士団>の内、私、彼そしてノワールの3人は別働隊と共に山道を進み、他メンバーは守備隊として砦に先行することになった。

『みんな揃ってるかな?それでは黒別働隊出発!』

ついに始まった、彼指揮による別働隊での赤の国後方撹乱作戦。今更ながら心配になってきた。


 山道入り口に位置する黒C2F3に別働隊が到着すると、そこで彼の指示が飛んだ。

『どなたか斥候スキル持ちの方、先行して山道を偵察してきてくれませんか?』

移動、索敵系の技が揃う斥候スキルは、追うにも逃げるにも便利なスキルだ。

『こちら偵察行きます』

『よろしくお願いします』

彼の指揮は、どうやら偵察重視らしい。

『では別働隊も山道に向けて前進して下さい』

ここまでは順調なのかな。勢力チャンネルに流れてくる発言によると、またプレイヤーをかき集め相当な数を擁するポーラ率いる本隊も、国境森を越えたそうだ。


 特に問題もなく山道を進んでいると、先程の偵察から驚くべき報告が入った。

『赤側山道入り口に赤多数!』

マジか!飛び地である赤C4F2の奪還では無く、迂回路である山道の進軍を赤本隊は選んだのか!このままでは私達別働隊とぶつかっちゃう。

『了解です。偵察はやられ無いように後退して下さい』

一見冷静な彼だが、多勢に無勢なこの状況を理解しているのだろうか。

『赤本隊と僕ら黒別働隊じゃ戦力差ありすぎるから、別の道を通ってやり過ごそうw』

確かに。ノワールさんの言うとおりかも。

『本隊には本隊でぶつかるべき。ポーラに連絡して我々も本隊に合流しよう』

『取り敢えず戻って黒側山道入り口に一番近い黒C2F3で善後策を考えよう』

その他色々意見が出たが、皆一様に後退を求めるものだった。それもそうだ、数で負けてるこの状況じゃ誰だってそう考える。しかし、どうやら彼だけは違ったようだ。

『いや、このまま赤本隊を野放しにしたら黒国内の砦が危ない』

マジか、戦うと言うの。

『砦の守備は、第一にはその砦の所有旅団に任せるべきでは?』

『その意見は作戦会議でも出ました。ですが、都合次第で味方を見捨てるなんてすべきでは無いです』

『では……』

『別働隊は山道中腹まで前進!そこで赤本隊を迎撃する!』

報告からの彼の決断は早かった。ポーラ率いる黒本隊にも状況を説明、援軍要請をして私達別働隊は前進を開始した。確かに都合次第で仲間を見捨てていたら、誰も付いてこない。ここはもう彼の下、死ぬしか無いか。


 山道中腹は他よりも更に道の幅が狭まる場所のため、確かに大軍を迎え撃つには適した場所だ。そこに私達工兵スキル持ちは彼の指示の下、移動は制限するが遠隔攻撃は通す馬防柵、徒歩は通すが騎馬は通さない逆茂木、遠隔攻撃を防ぐ置き楯を設置、即席の陣を構築した。

『馬防柵は道一杯に設置するんじゃなくて、真ん中1箇所だけは空けて入り口を作っておいて』

『なぜ?道を完全封鎖した方が良いのでは?』

『入り口があれば敵の攻撃はそこに集中するからねん。数で負けてる時は、その方が返って防ぎ易くなるはずよん』

なるほど……確かに全面に攻撃が集中したら防げきれない。私達はその1箇所空けた場所に逆茂木を設置、出来ることは全て行い赤本隊を待ち受けた。


 少しして赤プレイヤーが1人か2人、陣の前方に現れ、ウロウロし始めた。

『来たか……全員柵の内側に』

彼の言う通りだった。それは赤本隊の偵察だったらしく、そのすぐ後に赤本隊が押し寄せて来た。敵の近接職は陣の入り口に殺到、目論見通りと言えるが数が多すぎる。私は馬防柵に取り付く攻城職を矢で追い払い、隙を見つけては入り口に罠を設置するのに手一杯だ。

『柵3番が破られるぞ!生産持ち修理を!』

『ここリバplz!このままじゃ動けない!』

『入り口の近接職に回復回して!』

流れてくる発言も悲痛なものばかりだ。このままじゃあ……

『4番の柵もヤバい!持ちそうにない!』

『4番に必ず援軍を送る!絶対に退くな!』

そんな中でも彼は矢継ぎ早に指示を飛ばし、なんとか敵を食い止めようと必死だ。


 しかし現実は非情だった。いや、愚かだったと言うべきか。

『別働隊山道で赤本隊と戦闘中!至急援軍を!』

『本隊も砦攻撃中なんで無理です!』

『赤本隊を足止めして砦攻撃の時間を稼いでください><』

『別働隊の組織も戦闘も自分達で決めたんだ、自分達で責任持ってやれ』

なんて奴らだ……ポーラもぽららもオジンも現状が分かっているのか?自分達の砦攻略しか頭に無いのか。


 そして遂に柵が破られた。そこから乱入してくる敵。狭い山道のため、固まっている私達は一気に壊滅とはならなかったが、それでも押されまくっている。

『ダメだ!山道から出て広場になったら瞬く間にやられぞ!なんとか踏み止まれ!』

勢力チャンネルに響き渡る彼の悲痛な叫び。1人また1人と倒れて行く別働隊メンバー。

「くっ!ウォーターカッター直撃食らった!」

水魔法高位スキル帯の単体対象だが射程が長いこの術、HPをごっそり持っていきやがった。

「今回復す……ごめん無理だw」

敵の近接職に絡まれ、ノワールさんも私どころではなくなっている。


 そして最終防衛ライン、山道の終わりまで私達は追い詰められた。残ってる別働隊もほんの数人。これでお終いか……そう思った時、アナウンスが流れた。

『各国間で不可侵条約が結ばれたようです。本日のコンクエストタイムは終了しました』

CTが終わった……結局別働隊は全滅し、メギドの村に死に戻りしたのだが、私達は目的を果たした……のかな?装備を数カ所ドロップし、ぼろぼろな見た目の彼に話しかけた。

「これで黒の国の砦は救われたはずよ。お疲れ様、ゴッディのお陰ね」

もしあのままノータッチで赤本隊を行かせていたら、砦は落とされていたはずだ。

「ポーラ率いる本隊は結局、砦を落とせなかったらしい。自国砦に守備を多く残し、本隊は主戦場を回り込む……マグりんの策が無ければ今頃砦は敵の手に落ちていたはず。赤の軍団長は恐ろしい指揮官だよ」

私の策というより、今回私達が接敵できたのは偶然に近い。

「でもマグりんから優しい言葉を引き出せたんだ。やっぱり今回はおいの勝ちだね」

まるで私が優しい言葉を吐くのは珍しいみたいな言い方ね。全くこの……師団長は。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る