第15話「ノリと勢い1敗報」

 戦う前から既に勝敗はついている。そんな言葉はほとんどの場合、劇的な逆転勝利の伏線に過ぎない。でも、戦う前から既に集団としてのまとまりを失っていたら、それは言葉どおり戦う前から勝敗はついていると言えるわね。


 北方での集団戦に旅団のメンバーみんなと一緒に参加してから、私はすっかり対人戦にハマってしまった。初めは死んでばかりで、敵への攻撃や撃破に味方の回復などで増え、死亡で減る戦績ポイントもずっと0のままだったが、何度もゲリラや本体戦に参加し腕を磨く内に、徐々にではあるが収支が上向いてきた。そうなると加速度的に面白くなってきて、今ではどハマり状態だ。


 今も中央部地域の首都イプロテウスにある闘技場で、彼とたまたま酒場で再会したマロさんと一緒に対人戦の練習をしているところだ。

「マロさん南方でしかプレイしてないんだと思ってたら、対人戦も強いにゃー」

威力は高いが詠唱の長い上級術では無く、隙が小さい低級術をメインに攻撃してくるなんて、とてもじゃないが対人戦初心者には見えない。

「マロも、たまに、北方にもいってたりしてたんだお」

そうなのか。道理で熟練した戦い方をする訳だ。

「それなら私達の旅団<聖霊騎士団>に加入して、一緒に北方で楽しまにゃい?」

旅団目標、砦を所有するを達成するには、まずはメンバーを増やさないと。

「まだまだ南方で、いきたいところ、みたいところがあるから、また今度のきかいにするお」

それは残念。マロさん対人戦も強いし、料理スキルは北方では生命線になるのに。

「よし、ゴッティもう一回勝負だにゃー!」

そして問題は彼だ。北方には見学程度にしか行った事無いとかなんとか言ってた癖に、なかなか強い。悔しいので何度も挑んでいるのだが、一向に勝てない。

「よーし、次おいが勝ったら何してもらおうかなgff……」

足元を見た彼は、負けた方が言う事を1つ聞くなどという条件まで出したきた。お陰で、今は語尾ににゃーを付けるという辱めまで受けている。

「調子に乗ってられるのも今の内だにゃー!次はゴッティがぶひぶひと喚く事になるにゃにゃー!!」

そしてトンカツにしてやる!


 その時、ラジオ代わりに入っていた勢力チャンネルに動きがあった。

『皆さんお待たせして申し訳ありません。作戦会議で、本日のCT攻略目標が決まりました』

黒の国・現軍団長Staleさんがログインしてるとは珍しい。と言うか、もうCTだったのか。CTとはコンクエストタイムの略で、土日祝日の20時から22時までの、北方で拠点を占領できる時間帯のことだ。そのため、必ずと言っていいほど本隊戦が起きる。作戦会議とは、大方軍団長に師団長、砦持ち旅団長が集まって話し合いでもしていたのだろう。

『今回CTでの攻略目標は、赤の国C3F3となりました。リアル時間2005に出発しますので、皆さん正門前に集合してください』

リアル時間20時丁度に、北方にいるプレイヤーは全員それぞれの所属国の首都に強制ワープされるので、敵拠点の占領は時間との勝負だ。それにしてもStaleさん、やけに低姿勢だな。

「ぶひっ、もうこんな時間か。今から北方行っても間に合わないかもだけど、折角だから参加しない?」

何おう。さては私との勝負から逃げる気か。

「素直に負けを認めるのなら、それでも良いけどにゃ?」

なかなか彼に勝てないのは、ここの闘技場が他よりも狭いからと言うのもあるし。

「はいはい、おいの負けおいの負け。早く行くよん」

グギギ……いつか絶対連戦連敗に追い込んでやる。

「マロさんも一緒に行くにゃ?」

「今日は、えんりょしておくお。2人で楽しんできてだお」


 マロさんと別れ、メギドの村を経由し黒の国首都に到着した頃には、本隊は既に出発した後だった。

「やっぱり間に合わなかったかー。どうするゴッティ、今からでも本隊追いかける?」

本隊は参加人数がかなり多く、目的地までの道中、何度も足並みを揃える必要があるため、急いで行けば合流できる可能性もある。

「うーん、2人PTで本隊に参加するのもなんだか気が引けるなぁ」

確かに、魔法職のいないPTでは、戦力的にバランスが悪いし、誰かを誘うにしても、既に進軍中の本隊にPT未加入のプレイヤーが居るとも思えない。

「じゃあ今日はもう諦めて南方戻る?」

プレイヤーが集まるこの時間に、たった2人で出来ることは少ないしね。

「いや、折角だから本体戦裏ゲリラなんてどうよん?」

本体戦裏ゲリラ?

「何それ?」

また用語が増えるのか。

「本隊とは別場所別ルートの偵察をしたり、敵偵察と戦ったりすることだよん」

それなら手薄になってるはずだから、少数でも出来ることはあるかも。

「じゃあそれ行ってみよう。本隊は普通に国境森越えルートらしいから、私達は中央山脈ルートかな」

現在黒の国は、南側に川を挟んで国境を接している緑の国とは同盟を結んでおり、北側に森を挟んで国境を接している赤の国と専ら交戦している状況だ。またそれとは別に、中央山脈内を通る山道により、他国とも繋がっているので、そこを通れば赤の国の脇に出ることができる。

「山道は狭くて見通しも悪いから、丁度良いねん」

こうして私達、出遅れ組2人は普通とは違った方法で本体戦に参加することになった。


 中央山脈に向かう途中、勢力チャンネルや旅団メンバーの話を聞いていると、久しぶりの軍団長直々の指揮にも関わらずあまり順調という感じでは無いようだ。

『敵本隊の位置が確認できるまで、申し訳ありませんがもう暫くC2F3で待機お願いします』

『C2F3ってどっちの?黒?赤?』

『黒のです。すみません』

『てかいつまで待機してんの?このままじゃCT終わっちゃうよ?』

『偵察の方は、何とか敵本隊の位置を見つけて下さい』

『やれやれ…』

Staleさんは古参旅団<ゼロ>の旅団長と同時に、黒の国全体の指揮を執るべき軍団長も兼任しているが、最近はイン率が低いため今日みたいにCTに指揮をするのは珍しい。それが先程から勢力チャンネルで噛み付いてるO-JINさんには面白く無いらしい。にしてもO-JINて。王刃のつもりかもしれないが、まんまオジンだな。

「そういや夕飯まだだったわん」

こんな時でも相変わらず彼はお気楽だ。

『赤C2F3前に赤多数』

『きた!全員フルbuff戦闘準備!』

『いや待った。多数ってどれくらいよ』

『今追われてるので正確な数は分かりません』

『報告は正確にしろよ。これじゃ分からんわ』

私達は無事に中央山脈に到着したが、本隊は戦う前から既にグデグデになりつつあるなぁ……と思っていたが、悪い予感が的中してしまった。

『正面赤赤赤赤!』

『赤本隊正面!』

『右翼押されてる!』

『左翼下がってる』

『赤騎馬が左側迂回してる』

そしてしばしの間、静止した勢力チャンネル。次に動き出した時には、全ては終わっていた。

『左翼崩れた』

『左翼敵騎馬により崩壊』

『左翼黒追撃されてる』

『右翼包囲される』

『こちら指揮官死亡、撤退して下さい』

『全軍撤退指示!全軍撤退指示!』

どうやら本隊の方は、軍団長の指揮にケチが付けられている間に接近してきた赤本隊により、壊滅したようだ。本隊が敗れた以上、赤は次に当然砦の奪取を目指すだろうが、一体どのルートでどこを狙ってくるのか。今や勢力チャンネル内は混迷を極め、まさにパニック状態だ。


 本隊の敗報を聞き、彼と善後策を話していると、追撃を逃れて来たプレイヤーが1人2人と中央山脈に集まって来た。みんな道が入り組んでおり見通しの悪い山道に、身を潜められる場所を求めて来たようだ。私はストレス値でボロボロな味方のために焚き火を設置してあげたが、その後も敗残兵やら出遅れ組やらが続々と集まり、ちょっとした集団になって来た。


 軍団長や師団長なども全員死に戻りした今、赤の国がどこを攻略目標としているのか情報は錯綜し、皆自分達が次にどこへ行き、何をすればいいのかも分からず、ただただ混乱し、恐慌するだけであった。

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