第14話「旅団結成3初陣」

 初めての対人戦、それも双方合わせて60人、もしくはそれ以上のプレイヤーが集まっての集団戦は、まさに死と隣り合わせだった。私は生き残るのに精一杯だったけど、今思うと言葉では言い表せないものを、その時感じていたのも確かね。


 私達が所属する黒の国と敵対する赤の国所属のプレイヤーが30人以上で砦にゲリラ攻撃を仕掛けて来たため、指揮官のTokiさんの指示のもと、私達は首都正門前に集合した。

「ところでPTどうする?今5人と2人PTになってるけど」

そうだった。試練の山越えPTのままだった。

「バランス良く2PTに分けるんよ」

と言うみずぽんさんの指示の下、私達<聖霊騎士団>は私、彼、まる、マキシの北方初心者+魔法支援兼保護者の4人PTと、みずぽんさん、ファリスさん、ウニちゃんの3人PTに別れた。もう私達には旅団チャンネルがあるので、会話にも困らないし。

「対人戦は初めてだと、攻撃当てるのも一苦労だから最初は遠巻きに見て雰囲気掴むといいよ」

攻撃当てるのも一苦労?マジか……

「そうします」

ここはPTの保護者マキシの意見に素直に従うことにしよう。実際どんな感じなのか全然想像つかないし。


 PT再編も終わったところで、最初に指揮官が指定したゲーム内時間の1530になった。

『それでは人数も集まりましたし、時間ですので出発します。C2まで移動しで下さい』

マップに表示される目標地点。ついに出陣か。無事生きて帰って来られるんだろうか。まぁゲームだし気楽に行こう、と自分に言い聞かせながら、出発するみんなに着いて行くことにした。

「いやー緊張するね」

彼は北方には来たことあるって言ってたが、それでも緊張するのか。

「そう言えば、ゴッティ馬乗らないの?騎乗スキル意味無くない?」

馬に乗らなければ、騎乗スキルに振ったポイントが無駄になるのでは?

「馬乗ると突進攻撃のチャージ出来たりして強いんだけど、北方だと馬バカ高いから買えてないのよん。でも騎士スタイルはおいの憧れだから騎乗スキルは切らないけどね!」

北方だから、ただでさえ高い馬が更に割高になるのか。徒歩騎士だなんて字面だけでも辛そうだ。


 そんな話をしつつ首都の周りの畑を抜けたが、北方は全てがPKエリア。いつなんどき敵対国のプレイヤーに襲われるかもしれないと思うと、ただの移動でも気を抜けなかった。街道を自動移動しつつ、別ウィンドウで情報サイトを見るなんてのは、平和な南方だからこそできる時間の潰し方なんだなと改めて感じていると、指揮官の置いたマップ上の目標地点、C2すなわち黒の国第2都市に到着した。


 C2に到着後、新たな指揮官の指示は、待機であった。なんでもC2F2の現状把握をするそうだ。C2の周囲を見渡すと、首都と同じように、この都市の周りにも農作物が植わっている畑や伐採可能な木々がある採取場が目に入った。

「ゲリラの目的って、こういう採取物が狙いなの?」

今来てる、赤の国ゲリラもまさか散歩に来たわけじゃあるまい。

「そうだよ。例えばここC2は主に農作物と木材を産出するんだけど、採取場の真ん中にある風車やら木こり小屋やらの建物を敵対国プレイヤーに壊されると、採取物の湧く量が減るのよ。それと純粋に、対人戦するのがゲリラの狙いってところ」

マキシの話によると、戦いとお互いの国の採取場を破壊し、生産基盤を崩すのが目的か。なんか本当に戦争してるんだな。


 C2F2の守備隊、つまりC2F2を所有している旅団<アンビション>のメンバーからの報告によると、C2F2周辺では依然戦闘中だけど敵との兵力差があり過ぎるので、砦に篭って応戦してるとのことだった。

『k。これよりC2F2の赤に攻撃を仕掛けます。皆さんフルbuffしてください』

いよいよか。話をして少し解れたが、また緊張してきた。マキシに各種buffを貰い、準備万端になったところで号令がかかった。

『C2F2の赤に突撃開始!』

みんな待ってましたとばかりに一斉に駆け出した。出足が少し遅れた私も走り出した。いよいよ戦闘か。胸が高鳴ると言うか、心臓ばくばくだ。


 そんな事を感じでいると、遂にC2F2すなわち黒の国第2都市付き第2砦に到着した。砦周辺の採取場は既に破壊し尽くされ、炎に包まれモウモウと黒煙を上げており、そのすぐ近くに何体かの死体が転がっている。思っていた以上に戦場感溢れる戦場に、胸の鼓動はマッハ状態だ。その奥、砦の城壁上の黒ネームのプレイヤー、つまり味方が柵外の赤ネームのプレイヤー集団と弓や魔法の撃ち合いをしているのが目に入った。あれが敵か。その直後、敵が私達に気が付いたらしく早速戦闘状態となった。

「楽勝だと思うけど、回復オレ1人だしあんま前出ないでねー」

流石マキシは慣れてるらしく、余裕が感じられる。


 でも、私も少しは戦闘に参加しないと。と思い緊張で震える指で足を止めてる敵を1人タゲり矢を射る。


当たった!


続けて技も使い追い打ちするが、倒しきる前にその敵は前線から奥に引っ込んでしまった。


逃すか!初撃破!


射程内に収めるため前線から前に出ると、別の敵がこちらに向かって走って来るのが見えた。


近付かれる前に倒さないとっ!


そいつをタゲり矢を射るが、なんとそいつは右に左にとジグザグに走るので、矢が全然当たらない。


えぇっー南方のMobはこんな動きしないよぅ!


斬りつけられた私は、罠スキルの技、火炎罠とトラバサミを置いて、必死に距離を離す。するとそいつは、火炎罠の炎に惑わされたのか、無事トラバサミに引っかかってくれた。


 前線から下がって包帯を使っていると、突然の悲報が。

「ごめん楽勝だと思って前出過ぎたら死んだ。後は頑張って」

ちょっ、魔法支援兼保護者のマキシが死ぬなんて。

「あうっ、やっぱ対人戦は難しいね。ボクも死亡」

まるもかよ!とにかく残った私達で頑張らないと。再び前線に出て、敵に矢を射る。どうやらこのゲーム、攻撃は対人戦だとタゲの移動先を予測し、少しずらして射たないと当たらないようだ。偏差撃ちの練習と思い、タゲってる敵だけに集中していたせいで、スタミナ管理が疎かになってしまった。慌てて奥に引っ込もうとしても、スタミナ切れで移動速度がかなり下がっているため、なかなか進まない。このままじゃ敵に狙われるし、早くしないと。そんな時、指揮官の発言が流れた。

『騎馬のチャージがくる!槍持ち誰か止めて!』

そのシャウトにハッとして前線側に振り返ると、丁度正面奥から馬に乗った敵が真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。

「マグ避けるんよ!」

みずぽんさんの発言を見てる間にも、前の方にいた味方が1人轢かれ、2人轢かれる。スタミナも少なく何もできない私は、ただ呆然と、死を待つだけだった。その時、何かの影が横切った。


 次の瞬間、馬上にいたはずの敵は地に落ち、スタンしていた。状況が掴めない私は、いつのまにか目の前に立っていた彼の背中を眺めていた。

「マグりん攻撃して!」

「えっ?あっ」

微かに回復していたスタミナを振り絞り、攻撃を加える。そうか、彼が槍スキルの技ファランクスで敵を強制的に落馬させ、私を助けてくれたのか……倒れる敵を前に、ようやく私は状況を理解した。


 結局、砦内から出撃した<アンビション>のメンバーも攻撃に参加し、近くの砦からも増援が来たため、数で上回った私達黒の国がこの戦いでは勝利を収めた。結局何も出来なかったが、それよりも、また彼に助けられた事を私は考えていた。今度こそ彼にちゃんと素直にお礼を言わないと……

「マグりん生きてる?今回のは赤の連中がさっさと引き上げないで、長居してくれたおかげの勝利だねん」

でもなぜか、面と向かうと言い出せない……

「ゴッティあの……」

敵の死体をルートしている彼を前に、モゴモゴする私。

「おっ、ハンターズズボンあったよ!中央部デザインのファンタジー装備!マグりん早速装備してみて!」

彼の発言を見て、ガクッと来ると同時にフフッと笑いが出た。

「ありがとう。ゴッティが居ないところで装備するよ」

「ぶひ!?」

まあ、お礼はいつでもできるさ。私達<聖霊騎士団>の活動は、まだまだ始まったばかりなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る