第2章 北方で大規模対人戦

第13話「旅団結成2北方へ」

 初めての中央部地域、初めての旅団結成、初めての北方の対人戦エリア。その日は初めて尽くしの一日だったけど、何よりも一番印象に残ってるのは、初めての対人戦への参加が決まった時の、緊張でガチガチになってる自分自身ね。


 無事試練の山を越え、中央部地域オウンテ村に到着した私達。目的地のメギドの村は、もう少し先との事らしいが、私は既に初めての中央部地域で、お上りさん状態だ。

「西部地域と全然違う……」

私達が今までいた西部地域とは、施設の建物も周囲の風景も違うんだけど、何よりもプレイヤーの装備が違うことに驚いた。もちろん、既に西部地域も行動範囲としているプレイヤーもいるらしく、見た事ある装備もチラホラある。しかし、多くの装備は私達のとは違い、露出が多い鎧や、やたら丈の短いローブなど、いわゆるファンタジーなデザインをしていた。うーむ、カルチャーショック。

「中央部はファンタジー世界がデザイン元だからね。敵もオークとかゴブリンだよ」

まるの解説を聞き、西部地域は中世ヨーロッパ風だから、装備もここまでデザインが違うのかと合点した。

「マグりんもあのハンターズ装備みたいな中央部デザインの装備にしてみたら?」

彼の視線の先を追うと、そこには肩にふとももそれにヘソまで出した装備の、弓を持ったプレイヤーが。これは私へのセクハラだな。

「豚はオークの巣に投げ込むよ」

「ぶひぃいい!」

中央部地域をまだまだ見学したかったが、本来の目的である旅団結成と、北方勢力への所属のため、私達は後ろ髪引かれる思いでオウンテ村を後にした。


 目的地のメギドの村は、オウンテ村から北東方向、北方と南方を隔てる山脈の丁度切れ目を塞ぐ関所と、その他の施設群によって構成されていた。北方から戻って来たみずぽんさんとファリスさんと合流した私達は、話し合いの結果、所属先を"黒の国"とすることが決まった。みずぽんさんらが既に所属しているし、何より黒っていうのはなんだかカッコいい。もちろん私は言わなかったが。

「いよいよ旅団を結成するんだけど、名前何にするんよ?」

そうだった。みずぽんさんに言われるまで、全く考えてなかったが、所属旅団名とエンブレムはキャラをクリックした時のプロフィール欄に載るため、変な名前なんて付けられない。下手したらその名前だけで、痛さやオタク度を測られると言うから、ここはお茶でも飲んで慎重にならないと。

「†破壊の堕天使☆黒い皇太子†で!」

彼の発言に、飲んでいたお茶を吹きそうになった。

「「「却下!」」」

当然の如く、満場一致で却下される彼の提案。つまんないギャグ飛ばしやがって。

「<ORCA旅団>なんてどう?それか<地獄の壁>は?」

「この際<まりも王国>でいいんよ」

「<第1混成旅団>にしよう」

「<(*'ω'*)>」

「<テトラポッド>」

その後も続々と意見が出たが、みんな自分の趣味反映させすぎ。私が名付けるとしたら……

「<プフル>なんてどう?グレープフルーツの略なんだけど」

食べ物系の名前は可愛いが少しあざとい感がある。けどあえて略すことで自然になる……完璧ね。

「マグりん変な名前……」

いや、彼には言われたくない!と思ってたら……

「どうしたのマグ」

「変わった名前なんよ」

「それはちょっと……」

貴様ら……!


 その後も色々な案が出たが、中々全員から賛同が得られるものは無かった。その時、彼が発言をし始めた。またギャグじゃなきゃいいんだけど。

「<聖霊騎士団>なんてどうよん」

さっきよりはマシだけど、聖霊か……どっかで聞いたな。

「マグりんと聖地巡礼クエストした時に、やたらNPCが聖霊って言ってたように、ゲーム内設定にある単語だし丁度いいんじゃないかなん」

そう言えば、父と子と聖霊と……と決め台詞のように言ってたな。

「私は別にいいと思うけど」

変にリアルのを持ってくるより、ゲーム内設定に合わせれば、痛いことも無いだろうし。

「うーん……まぁいいんじゃない?このままじゃ決まらないし」

結局、みんな意見の出し合いで疲れていたのか、旅団名は<聖霊騎士団>にそのまま決まってしまった。……今思うと、やっぱりちょっと早まったかな。騎士団って。


 その後、エンブレムは後で誰かが作ることにし、早速私達は旅団結成をすることにした。結成方法は簡単だ。教会にいるNPCに依頼をするだけ。後はみんなで出し合った結成費用が消費され、ついに旅団結成となった。旅団長は、言い出しっぺのみずぽんさん。副旅団長は、ファリスさんと私が任命された。最初期メンバーの1人として任命されたのだが、ギャグばかり飛ばしていた彼は任命されなかったため、ぶひぶひと鳴いていた。


 旅団<聖霊騎士団>が結成され、私はプロフィール欄に追加された所属旅団名を、感慨深く眺めていた。すると、旅団長から早速指示が下った。

「折角なんで、この旅団で北方に行ってみるんよ」

ついに私も対人戦デビューか。毎度のことながら、初めての経験と言うのは緊張する。


 メギドの村から北方にある各国の中心地まで行くのは、ファストトラベルがあるので簡単だった。お金以外の南方の装備やアイテムは北方には持ち込めないので、とりあえず、首都にあるNPC装備屋から防具一式と弓と矢、近くにたまたまいた露店から罠と包帯、それに飲食物アイテムを買った。なるほど、確かにアイテムや装備の値段は割高だ。しかしNPCから買った、この黒の国標準装備シリーズ、見た目は悪くないが性能は今ひとつだな。

「北方では、まずは勢力チャンネルに入るといいよ。黒の国所属プレイヤーのチャンネルで、報告や指示は全てこのチャンネルでされるから」

なるほど。やっぱり戦争するなら連絡手段は重要だからね。マキシに言われ、早速チャンネルに入ってみると、凄い勢いでログが流れていた。

『C2F2側の森中に赤5〜7こちら死亡』

『いや赤もっといる10↑』

『C2F2守備現在8』

『訂正、赤30↑はいる。中隊規模』

『本当?C2F2守備現在8なので応援求む』

専門用語なのか、よく分からない単語が飛び交い状況が全く掴めない。C2F2?赤?

「C2F2側の森に赤30↑ってどーいう意味?」

敵が攻めてきたのは何となくわかるが、それ以上のことは全く分からない。

「Cは都市の略で、Fは砦の略、赤は所属国、数字は人数を表してるんだよん。つまりC2F2側の森赤30↑は、赤の国との国境沿いの森、第2都市付き第2砦近くに赤の国所属プレイヤーが30人以上いるってことだよん。多分ゲリラだねん」

マジか。北方に来て早々敵襲に遭遇するとは。ゆっくり見学でも……ちょっと待った。なんで彼がそんなに詳しいのよ?よく見ると装備も一部正式採用黒装備じゃないし。

「何まさかゴッディ北方初心者じゃないの?」

「前にちょっとだけ無所属で見学に。ちょっとだけね」

こんの裏切り者が。てことはマジの初心者はもしかしたら私だけ?むぅぅ真っ先に死んだらどうしよう。


 そうこうしていると、勢力チャンネルに動きがあった。

『k。こちら指揮します。首都で手の空いてる人は正門前にゲーム時間1530までに集合して下さい』

Tokiという名前のプレイヤーが、どうやら指揮をするようだ。勢力チャンネル内での発言も、他のプレイヤーとは違う色になっているが、何か特別な役職なのだろうか。

「同じ師団長でもネギ斬り魔の指揮なら無視するけど、Tokiが指揮なら参加するか」

と、ファリスさん。それにしても、ネギ斬り魔?変わったプレイヤー名だ。

「なんでこのTokiさんだけ発言色が違うの?その師団長て言うの?だから?」

師団長とは何だか重要そうな役職名だ。

「そうそう。月に1度、同一国内のプレイヤーの投票によって軍団長が選ばれ、その軍団長に指名されるのが師団長。普通のプレイヤーでも、勢力チャンネルで発言すれば指揮も出来るんだけど、軍団長とか師団長になると、マップに目標設置したり、指示載っけたりできる指揮官モード使えるから、大抵この人達が指揮するって感じ」

うーむ……マキシさんの説明で、とりあえず軍団長や師団長っていうプレイヤーは偉いと言うことだけは分かった。


 旅団の初陣として、この救援部隊に参加することになり、首都の正門前に向かう私達。そこには既に30名ほどの黒の国プレイヤーが集まっており、私はこれから始まる初めての対人戦を想像し、緊張で鼓動が早くなっていくのが自分でも感じられた。

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