第12話「旅団結成1山越え」

 非対人戦エリアの南方から、対人戦を主体とする北方エリアに活動の軸を移すのは、このゲームではよくある流れだ。それにしても、南方と北方を隔てる村の名前がメギドと言うのは、今思えば皮肉が効いてるわね。


 あれからフォーミタブルからtellが来ることは無くなり、ホッと一安心したのも束の間、旅団結成費用の分担金である500kSの内、未だ半分ちょっとしか稼げてなく、私は溜息ばかりの狩を今日もしていた。それにしても、みんなはもうこんな大金を準備できてるのだろうか。そう思った私は、早速彼に聞いてみることにした。

「ゴッディ、旅団結成費用の分担金についてなんだけど」

……今どれくr、と続きを打っていると、彼からもう反応が来た。

「ようやく貯まったよん。マグりんはどんな感じ?」

なんと、彼はもう貯まっているのか。慌てて打ってる途中の文を消し、新たな文を打ち直した。

「旅団のメンバーが、私達2人も加えて4人だと寂しいから他の人も誘わない?」

我ながら、かなり無理ある話題変更だ。

「確かに。なら、あの3人組誘うのなんてどうだろん?」

あの3人と言うと、マキシ、ウニちゃん、それにまる達か。あのガリラヤ洞窟での共闘の後も、数回一緒に狩に行ったりしてるし、声掛けてみるか。


 その後みずぽんさんにも話を振ってみたところ、同意が貰えたので早速3人にそれぞれtellをしてみたら、幸運な事にOKが貰えた。


 お陰で私の所持金で払える額まで分担金が下がったし、他の3人も直ぐに払えるとの事だった。

「じゃあ早速、旅団結成するんよ」

専用チャンネルを立ち上げ、旅団参加予定の7人で自己紹介をした後、ついに旅団結成の運びとなった。

「ところで、旅団に所属できるのは北方で同じ国所属のプレイヤー同士なんよ。みんなはどこ所属?こっちとファリスは黒の国所属だけど」

みずぽんさんらはもう北方民なのか。私は対人戦はもちろん、北方に足を踏み入れた事すらない。

「無所属です」

「おいもー」

「ボクも」

「オレとユニは赤の国所属なんだけど、なんなら黒の国に亡命してもいいよ」


 みずぽんさん、ファリスさん、マキシそれにウニちゃんは所属国があるって事は、北方での対人戦経験者か。私も対人戦練習しないとなー。

「じゃあ国所属と亡命しないといけないから、メギドの村で集合するんよ。こっちは今ファリスと北方で直ぐ行けるから、そっち到着したら教えて」


 メギドの村……ここ南方と北方を隔てる、国境の村か。中央部地域にあるから、西部地域のここから行くには、大旅行になるな。


 その後確認したところ、私と彼だけでなく、マキシ、ウニちゃん、それにまるも現在西部地域にいるとの事だったので、首都イスカリオテで合流後、5人で西部地域から中央部地域への国境越えをする事になった。

「国境越えのルートは、試練の山とゲネブ沙漠の2つあるけど、どちらで行きます?」

まるの質問の答えは、私的には一択だ。

「山越えで。沙漠は飲み物いくつあっても足りないから」

干からびボラれる悪夢はもうごめんだ。

「メギドは中央部地域の北端で、そっちのが近いしな」

「(о´∀`о)」

「おいも山越えがいいー」

全員賛成ということから山越えルートに決まったので、まずは試練の山の麓エリコの村に向うことになった。


 エリコの村には聖地巡礼クエストの際に来たが、山越えするプレイヤーなどで相変わらず賑やかな場所だ。ここで私達は、飲食物等を露店で買うなどの準備をした。

「山には毒攻撃してくるMobがいるから、解毒薬多めに持ってった方がいいぞー」

とのマキシのアドバイス。薬調合スキルは上げてないが、毒を治すだけなら関係無いので買っておくか。


 準備が整ったので、私達は出発することになった。いざっ、試練の山越え!


 最初は山裾の林を進むのだが、早速スレイサイズなるカマキリや、ハンドレックなるムカデが出てきた。デフォルメされてはいるが正直言って虫は苦手なので、この先段々デカいのが出てくると思うと気が重い。

「そう言えば、北方ってどんなシステムなの?」

気を紛らわすため、話をしながら進む事にしよう。

「あぁマグらは北方行ったこと無いんだっけ。Mob退治がメインな南方と違って、北方は対人戦がメインな場所だよ。隣接しあう6つの国があるから、大抵のプレイヤーはそのどれかに所属して、他を滅ぼし統一するのが目的って感じ」

マキシさんの言う国に所属して戦うってことは、つまり戦争をする場所ってことかな。

「そういえば、6つの国の名前ってシンプルでカッコいいよねん」

彼は中二病も患っているのか。

「確かにシンプルではあるな。赤、白、黒、青、緑それに灰が国名。基本装備とかのイメージカラーも国の色になるから、みんな何となく好きな色選ぶって感じ」

赤の国、白の国って感じか。私の好きな色は……やっぱ黒かな。

「中でも黒の国とかシンプルでカッコ良くない?」

なんてこった。彼と好みが被ってしまった。


 そんな話をしながら林道を抜け山肌を登り谷を下って行くと、リバーマンという名のマーマンの亜種、と言うか体色が黒いだけの使い回しが出てくる川の流れるエリアに入った。

「他の国を滅ぼすって、具体的にはどうやるの?」

まさか、住民皆殺しとかじゃないよね。

「1つの国には1つの首都、4つの都市、16の砦、拠点があるんだけど、とりあえずは首都が陥落したら滅亡らしいよ」

砦……どっかで聞いた単語だな。

「拠点って、ガリラヤ湖の近くにあるマーマン砦みたいな感じの?」

思い出す柵、堀、壁という防御施設に囲まれた拠点攻略。あの時は本当、死にかけた。

「そうそうあんな感じ。まぁ守ってるのはMobじゃなくて敵国のプレイヤーで、コマンダーじゃなくて砦内の旗を破壊すると攻略成功だけどね」

マーマンが守ってるだけでも結構苦労したのに、プレイヤーが守ってるとなると、これは本当に一筋縄ではいかないだろうな。と、マーm……リバーマンに矢を射つつ思った。


 リバーマンを倒しつつ谷を越えると、周囲の木々は無くなり、岩肌の斜面という感じの景色になってきた。そしてまた出てくるスレイサイズとハンドレック。特にハンドレックは毒攻撃してくるしで嫌になる。

「拠点を攻略すると、何かいいことあるの?」

デカい虫共から、何とか意識を逸らさなくては。

「土日のCT、コンクエストタイムに旅団で拠点を攻略するとその旅団所有になるんだけど、付近の生産物を優先的に採取できたり、拠点内のマイハウスを個人で持てて、カスタマイズもできるから攻める方も守る方も必死よ」

マイハウスをカスタマイズか。模様替えしたりできるのなら確かに魅力的だ。そう言えばフォーミダブルがしつこく自慢してたっけな。

「マイハウスかー。おいも絵とか飾りたいな」

「豚はマイハウスじゃなくて豚小屋だよ」

「ぶひぃぃい!」

最近彼の豚キャラが癖になってきた。


 岩肌の斜面を登り、尾根沿いの道を進むと、プレイヤーが集まってる小屋が見えてきた。どうやらここが山頂休憩ポイントのようだ。

「温泉もあるし、ここで休憩しよう」

温泉!まるさんの発言を見て、私はいそいそと小屋の奥の湯船に向かい、早速一風呂浴びることにした。山の上の展望露天風呂とは、いい気分だ。ゲームとリアル、両方のストレス値が下がっていくのが分かる。


 温泉は名残惜しいけど、休憩も終わり出発することになった。ここが山頂と言うことは、道のりも残り半分か。再び尾根を通り、斜面を下り、川を渡る。虫だけでなくカモシカが出るのは、せめてもの精神的救いだ。

「それで、マキシ達は北方で対人しててどんな感じ?楽しい?」

未経験者としては、やっぱりそこが一番気になる。

「もち楽しいよ。PT組んで敵拠点の生産施設をゲリラ攻撃するんだけど、ゲリラ同士でかち合って戦いになったり、土日のCTには拠点の領有を巡る大規模な本体戦に参加したり、時にはソロで出歩いてタイマンをしたりと、戦い方は色々だからね」

「(*゜∀゜)*。_。)*゜∀゜)*。_。)ウンウン」

そう聞くと、確かにとっても楽しそうだ。ウニちゃんも同意のようだし。

「まぁでも、北方では死ぬと、スキルは下がらない代わりに装備を含めた手持ちアイテム4種類にお金ドロップするし、南方から持ち込めるのはお金だけだから露店の装備は高めなんだけどね。性能低めとは言え、NPC売りの基本装備もあるっちゃあるけど」

つまり、南方で金策をし、そのお金を北方に注ぎ込んで戦うって流れか。


 どうやら私は、一生金策から逃れる事は出来ないらしいという思いが、無事試練の山を越え、中央部地域オウンテ村に到着した喜びより勝ったのだった。

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