第11話「ダイレクトリンク」
試練を乗り越えられなかった者は、一体どうなるんだろうか?ゲームなら直前からやり直し、マンガやアニメならその週で打ち切り。でもリアルなら?ゲームの中のリアル……今考えればおかしな言い回しね。当事者としては、全く笑えない話だけど。
みずぽんさんからの旅団への参加要請。問題は、旅団立ち上げ費用である2M、つまりは200万ソリドゥスを参加予定メンバーで割った分担金を、いかに稼ぐかだった。これまで野良PTやら聖地巡礼クエストやらで稼いだお金は、そのほとんどを最高品質の上級弓兵装備と頭装備のゴーグルに費やしてしまった。お陰で修理さえ怠らなければ当分はこの装備でやっていけるが、分担金はいったいどうしたものか……
そう悩んでいた、丁度その時だった。以前エリコの村で会ったフォーミタブルから、稼げる狩場ことヘルモン山での狩に誘われたのは。その日は彼もログインしておらず、ソロで行ける狩場での稼ぎもたかが知れてると思っていた私は特に深く考えることもせず、あの男の誘いに乗ってしまった。2人で狩に行くなんて、彼といつもしている事だという気持ちもあった。しかし、あの男との狩は、いつもしている彼のとは全く違っていた。
あの男との2人では、狩をしている時間よりも私が質問攻めにされている時間の方がずっと長かった気さえする。しかもその質問の内容と言うのが
「今何歳?w学生?ww」
「普段は何してるの?w」
「どこ住んでるの?w関東?ww」
「好きな歌手は?w」
「ゲームとかよくするの?w」
と言った感じで、リアルに関するものばかり。答えに困る私を他所に、フォーミタブルの俺sugeeeな自分語りも散々聞かされ、私はゲンナリしたままその日の狩を終えた。
それからと言うもの、ログインした途端にtellが来るようになり、終いにはオフ会の提案までされて私はいい加減ウンザリしていた。もちろんリアルで会うなど論外だ。
今日も早速tellが来たが、知り合いと約束があると言い、なんとか狩はお断りした。が、フォーミタブルの近況報告という全く興味の無いtellが現在進行形で送られて来ているのが今の状況だ。
「あー!もー嫌だ!」
お前の最近聴いた音楽なんて、どうでもいいんだよ!
「どしたん急に」
正直言うと別に約束していた訳では無いけど、アリバイ作りをするため彼と首都イスカリオテで会っていたが、チャット欄があの男のどうでもいい発言で埋まる状況には、もう完全に参ってしまった。ほとほと困り果てた私は、彼に全て話すことにした。
「それはいわゆる、出会い厨とか直結厨ってやつだねん」
出会い厨?直結厨?
「何それ」
「出会い厨は、ネトゲにリアルな交際を求める人達の事だよん」
なんだそれ……出会い系サイトじゃあるまいし。
「じゃあ直結厨は?」
「まぁつまり、あれだよ。その、脳内思考が下半身とダイレクトにリンクしてる人達って事だよ」
下半身にダイレクトにリンク?どーいう事よ……
「とにかく、ネトゲにリアルな出会いを求めるのは間違っているでしょ。何かいい方法無い?」
楽しむために始めたゲームが、そんな厨1人のために、楽しくなくなるなんて嫌だ。
「とりあえず無視してたら、その内諦めるんじゃないん?tellもブロックしちゃうとか」
「こないだ、余りにもtellがしつこいから返信しなかったら、余計酷くなった……」
「oh……」
本当はビシッと言うべきだと自分でも分かってるんだけど。
「もう穏便に済ませるなんて無理な話なのかな……」
GM通報とか、出来ればしたくない気持ちがやっぱりあるんだよなぁ。
「じゃあもう言うしかないよ」
言うって何をよ?
「私はリアルでは、体重100kg↑のキモオタ引き篭もりネトゲ廃人ニートですってね」
なっ……!
「私はそんなに太ってないしキモオタでも廃人でもニートでもない!!立派な学生でちゃんと学校にも毎日通ってる!!!うがああくぁwせdrftgyふじこlp」
確かに帰宅部で、友達と遊ぶ日以外は必ずと言っていいほどログインしてるけど!
「ひぃぃマグりんが壊れた」
誰のせいだと思ってんのよ!
「私のことそんな風に見てたのねえええ!!」
きー!!
「ちょ、まっ、だから嘘でも何でもいいから、そういうことにしとけば、先方も離れてくんじゃないかってことよ、おちおた落ち着いて」
あっ、なるほど。あの男は私が美人だと感じて寄ってくるので、求めているものは無いって事をアピールすれば良いって事か。でも……
「却下!」
やっぱり嘘でも、キモオタデブネトゲ廃人と周囲に思われるのは何か嫌だ。
「うーん、とすると最終手段が無いことは無いんだけど……」
最終手段?
「何よそれ。早く言いなさいよ」
「まー、とりあえず他のもっと良い手が無いか、気晴らしに狩でも行きつつ考えない?」
この流れからすると、最終手段とやらも、きっとロクなものじゃ無さそうだ。
「そうね、そうしましょ」
それに余計な事を考えなくていい狩は、最近では貴重な時間だ。
「そんならおいもヘルモン山行ってみたーい!減るもんじゃないし、いいでしょ!」
彼のクソつまらないギャグも、今なら笑ってスルーできる気持ちだ。
そうして私達は、ガリラヤ湖の北に位置するヘルモン山にやって来た。ヘルモン山は西部地域のマップ北端付近にある山岳ダンジョンで、下から登って行くスタイルはシナイ山と同じだが、山頂に行くにつれ積雪が増えるという違いがある。ここにはトロール系、グリズリー系、ウルフ系そしてヤク系と言ったMobが出るのだが、稀にドロップする永久氷結晶と言うアイテムは飲食物アイテムの消費期限を伸ばす効果があり、高く売れるので人気の狩場となっている。混んでるので私達は空いてる場所を見つけ、定点狩をすることにした。流石に永久氷結晶は直ぐには出ないが、雑談をしながらの狩は本当にいい気晴らしとなった。
そう、あの男の発言がチャット欄に流れるまでは……
「マグみーけっw」
フォーミタブル……何故ここが分かったんだ……と思ったが、そういえば嫌々ながらフレンド登録したので、それで位置検索をしたんだな。あぁもう。
「ヘル山行くんなら俺も誘えよなーw火魔法あっからサクサク倒せんのにw」
嘘つけ。喋ってるばかりで全然戦わない癖に。
「そいつは?w言ってた知り合い?w」
はぁ……私の安息時間は終わってしまった。こうなればヤケだ。私は彼にtellをした。
「例の最終手段っての今やって!」
「えぇ、でも……本当にいいのん?」
「早くやって!」
なんでもいいから少しでも早く、私はこの生き地獄から抜け出したかった。
「はじめまして。マグりんとゲーム内結婚予定のゴッドフリーと言います。今日はフィアンセと、結婚費用を稼ぐために来ました」
はっ?
「結婚予定って?wマグそんな事一言も言ってなかったけど?www」
えっ?何?何言ってんの?
「あぁ、マグりんはゲームとは言え恥ずかしいらしく、あんまり人には話したがらないんですよ」
いやいやいやいや、なに人に勝手に恥ずかしがり屋属性付けてんのって、いやそうじゃなくて。
「ふーんw俺の方は結婚費用なんて直ぐ出せるしw北方にはマイハウスもあんだけどww」
え、あの、その。
「申し訳ありませんが、リアルではまだ風当たりの強い同性婚を、せめてゲーム内だけでもと考えてますので、どうかお引き取りください」
はっ!?!?!?
「ネカマにホモップルかよwwwキメェwwww」
そう捨てゼリフを残し、フォーミタブルは去って行った。
しばらく呆然と立ち尽くしていたが、会話ログを見返してようやく私は事態が飲み込めた。
「あんた何言ってんのよおおおお!私はネカマじゃないしなんであんたなんかとけっけけけ結婚するってええ!」
「おっ落ち着いて、どうどう、とりあえず話を聞いて」
これが落ち着いていられるっかぁぁあ!
「きぃぃいいい殺す殺す殺す!」
ああああもう!
「だから最終手段だって言ったでしょ〜ひぃ〜」
その後、ひとしきり彼に暴言を吐ききった私は、フレンドリストからフォーミタブルが消えている事に気がついた。どうやら向こうが削除したようだ。これは、解決ってことなのかな。認めたくないけど、どうやら彼のお陰らしい。
「……ねぇゴッドフリー……いや、ゴッディ」
「んが?」
「……ありがと」
「」
「」
「」
チャット欄をブランク発言連打で流そうとする私。やっぱり素直にはなれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます