第10話「聖地巡礼5首都再び」

第10話「聖地巡礼5首都再び」

 長い長い旅の果てに得られた物が、期待外れだったら悲しいものね。本当の報酬はその旅の思い出、なんていうありきたりな事を言われても同じこと。でも、もしそれが何かを暗示するものだったら……


 ゲネブ沙漠中央部にあるアガバの村を占拠していたレギオンの群れを、皆と一掃した私達は無事教会の司祭NPCから話を聞くことが出来た。それによると、次の目的地はクエスト開始場所である首都イスカリオテ、その酒場であった。

「今度は首都に戻るのか。クエストもそろそろ終盤だといいんだけど」

シナイ山、試練の山そしてゲネブ沙漠と、今思えば随分と色んな所に行ったな。

「まぁこんだけ巡ったんだ、報酬はきっとステキなモノだよん」

ステキな報酬という彼の発言で、なんだか元気が出てきた。

「それじゃあ行こうか。こんな乾いた所にいつまでもいたら、本当に干からびちゃう」

とにかくこの沙漠に長居は無用だ。これ以上いたら、せっかく行商人さんに貰った飲み物が無くなってしまう。


 アガバの村からベエル・シェバの村を経由し、首都イスカリオテに到着した所で以前一緒に野良PTを組んだ、みずぽんさんからtellがきた。

「話というかお願いがあるんよ、暇な時でもいいから会えない?」

話ってなんだろう。急ぎでは無いようだけど。

「今ゴッドフリーと巡礼クエストをしてるんで、それが終わってからでも良いですか?」

流石に彼を放って今から会いに行く訳にはいかない。

「おk。ちょうど良いんで、ゴッドフリーさんも連れて来てくんない?」

ゴッドフリーも連れて、か。また狩PTのお誘いかな?みずぽんさんにはクエストが終わったらtellで連絡する事にして、まずは次なる聖地に向かうことにした。


 首都イスカリオテの酒場は狩の下準備に必要なため、もう何回も来ている場所だが、まさかここも聖地だったなんて。

「酒場が聖地だなんて、変な感じ」

聖地と言うと、もっと物静かなイメージがあるものだ。

「ここのイベント用司祭NPC、案外飲んだくれてるかもヨン」

「ありえる」

酒は飲んでも呑まれるなってね。酒系アイテムは使用することでストレス値が下がるが、飲み過ぎるにつれDebuffが強く長くなってしまうのだ。リアルでも将来気をつけないと。


 芸能系スキルの「演奏」「歌」「踊り」は、かなり自由に作曲や振り付けが出来るため、ユーザーによる発表会イベントが酒場で行われることもあり、そうすると物凄く混雑する。今日はどうやらそういうイベントは無いらしく、そこそこの混み具合だ。とは言っても結構な人の量ではあるが。壁際に立つ司祭NPCを見つけたので、話を聞いてみることにした。流石に酔ってはいないようだ。

「人の子、エグザ・プラヤエルスはここで、神の国の到来を祝う宴を仲間達と開いていました。しかしその時、1人の仲間が、欲に目が眩み、聖霊を悪しき者に渡してしまうという、裏切りを行ったという事を知ります」

なんと、さぞかし空気の悪い飲み会だったろう。仲間の裏切りを知るなんて。

「次の聖地は人の子、エグザが祈りを捧げた地、ゲッセマネの園です。父と子と聖霊によりて、ロギン」

次の聖地もそんなに遠くは無いが、なんだか話が暗くなってきたのが気になる。


 ゲッセマネの園は街の外れではあるが、まだ城壁内のため酒場からはそんなに遠くはなかった。オリーブの木々が茂り、小さいながらも各種生産設備がある修道院が建つその園には、多くの生産職がオリーブの実収穫とオリーブ油製作に勤しんでいた。各種魔法スキルの術は全て何らかの触媒を消費するのだが、中でもオリーブ油は料理以外にも、召喚魔法スキルの高位スキル帯の術に触媒として使用されるため、中々の売れ筋商品なのだ。修道院の中に司祭NPCがいたので、話を聞いてみた。

「仲間は皆、その裏切り者の罪が自らにも及ぶのを恐れ共に逃げるように言いました。しかし、逃げる仲間達とは別れ、人の子、エグザ・プラヤエルスは、自らの身を父たる神に委ねるため、この地で祈りを捧げたのです。」

1人の仲間が裏切り、他の仲間も離反したってことか。

「やっぱり単なる無双神話では無いみたいだねん」

彼の言うとおりだ。むしろこのままでは悲話に近い。

「次の聖地は、人の子、エグザが天に昇られた、園の墓です。父と子と聖霊によりて、ロギン」


 園の墓とは、城壁のすぐ外にある、墓に囲まれた小高い丘にある場所のことだ。今でも丘の上には数本の十字架が建っているが、かつては処刑場として使われていた名残ということを示すものらしい。

「人の子、エグザ・プラヤエルスは、この地で人々に、仲間が聖霊を悪しき者に渡したこと、自身は聖霊を独り占めしたこと、邪な法を人々に広めたことを訴えられ、磔により処刑されました。その最期の言葉は、


 神よ、人々に安寧の地を


でありました。人の子、エグザが天に昇られて以降この世界は病み、悪徳が蔓延し、強き者が弱き者から奪い、貪る地となりました」

なんとなく予想できたが、処刑まで来てしまったか。

「処刑されちゃったよ。これで何で神として崇められてるんだろ」

とてもじゃないが、ハッピーエンドとは程遠い話だ。

「ハーレムも無い、ラブコメも無い、戦闘描写も無い、登場人物に個性も無い、これじゃあ人気が出ないわけだね」

彼の頭の中にはそれしか無いのか。

「最後の聖地は、イスカリオテ大聖堂、またの名を聖再臨教会です。父と子と聖霊によりて、ロギン」

イスカリオテ大聖堂…カテドラルか。ここにきて、本当に最初の場所に戻るのか。それにしても聖再臨教会だなんて、そんな別名があるとは初めて知った。


 そうして私達は、この聖地巡礼クエストの始まりの場所、カテドラルに戻ってくることになった。ここは、このゲームで始まりの地を西部地域にした時のプレイ開始場所でもある。クエストを初めてから、二度目となる大司祭NPCの話を聞くことにした。

「よくぞここまでたどり着きました。人の子、エグザ・プラヤエルスは昇天なされた後、この地に埋葬されましたが、世界は病む一方であり、人々は嘆き悲しみました。そんな中、自らを十字架に掛けた人々を救うため、人の子、エグザは復活されました。彼は世界を癒し、そして

 私は、この世界のどこかで、常に皆と共にある

とのお言葉を最後に残されました」

なんだ復活したのか。しかし、自らを処刑した人々を救うために復活するとは、エグザは聖人か。あっ、聖人だから宗教になってるのか。ちょっと納得。

「これで、皆様の聖地巡礼の旅は終わりです。人の子、エグザは今でもこの世界のどこかで、私達を見守っています。皆様においても、人の子、エグザの教えを忘れずにいられるよう、これを授けましょう。父と子と聖霊によりて、ロギン」


 きた!このために苦労して巡ってきたんだから。そしてシステム欄に流れる、

「胸部装飾品 アミュレット を入手しました」

との文字。アミュレットとは、どんな効果が付いてるのかな、とワクワクしながらステータス欄を開いた私は目を疑った。

"効果:HP+5 特殊制限:非破壊"

えっ…こんだけ…?攻撃力や回避が +5ならかなりの有用アイテムだが、HPでは+5は雀の涙だ。非破壊って言ってもなぁ……

「な〜んだ……ガッカリ」

旅の間にあちこち寄ったので、それなりに稼げたとは言え、期待してた分ガッカリも大きい。

「報酬はこれだけじゃないよマグりん」

なんだって!?それならそうとはやく言ってよ!

「目を閉じると思い出す、旅の思い出こそが本当の報酬なんだよ」

死ね。

「死ね」

つい思ったことをそのまま発言してしまった。

「ぶひぃいい!」

まぁ見た目は小さな十字架の首飾りと悪くないし、胸部装飾品枠は空いてるので、このまま装備しておくか……必然的に彼とお揃いになるのは少し納得いかないが。


 さて、聖地巡礼クエストも終わったことだし、豚の本性を現した彼を連れて、みずぽんさんに会いに行かなくては。みずぽんさんにtellをしたところ、丁度ここ、首都イスカリオテにいるとのことなので、カテドラル裏で会うことにした。

「2人ともおひさ。今度、ファリスと旅団を結成するんだけど、2人も参加しない?」

どんな用事だろうと思ったら旅団のお誘いだったとは。旅団とは、要はギルドの事。語意は元の意味を離れて、旅人の集団とかそんな感じらしい。旅団か……

「他の旅団に参加する予定も無いので、是非よろしくお願いします」

「おいも参加するスルー」

私もついに旅団メンバーか。

「2人ともありがとなんよ。それじゃあ旅団結成費用の分担金、今のところ1人500kSなんだけど頼めるかな」

ぇ……

「メンバーが増えれば分担金も減るから、2人も知り合いを勧誘してね」

私は、またもや金策に奔走することになるのか……

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