第3話

初めてこの機体に乗る日が来た。

外見上はどう見てもスホーイ7という旧式の機体の複座型。機首に口を開けた空気取り入れ口と旅客機のような後退翼。20世紀中盤のノスタルジックな姿だ。

若いソバコワ少尉さんが前の操縦席に乗り、私は後ろの爆撃主の席に着いた。


初めてこの機体を見た日と同じような低く雲の垂れ込めた空の下、機体は滑走路で加速を始め、やがて通常の軍用機と同じように離陸し、雲の中を進み、突然明るい空の下に出た。層積雲の上に出たのだ。

これは旅客機に乗っていても時々普通にある事だから特別驚かないが、それにしても陰鬱な地上から澄んだ青空の下に出るのは心地よいものではある。


「ここからが作戦の本領です。しっかり目に焼き付けておいて下さい」

ソバコワさんはそう言うと、機体は異常な加速を始めた。

それは全く未知の高速だった。信じ難い速さで雲や地上の光景が後退を始めると、わずか数分、パスタが茹で上がるような時間で我々二人はポンニチ海を貫き、ポンニチ列島の上空へやって来た。

「あれが爆撃目標の大都市オーサカです。ファシズム政党『イーシン』の本拠があります。爆撃のタイミングを覚えて下さい」

「ちょっと待って下さい、これは明確に領空侵犯ではないですか?」

「問題ありません。大気中をこの速度で進む我々に対し、ポンニチ航空自衛軍は何ら対抗策はありません。いや、アメリカ合衆国であろうとロシアであろうと中国であろうと、現在の防空技術では何もできません」

「いや、これは外交問題になるのでは?」

「アジア侵略を試みるポンニチ帝国に対して警告になるでしょう。同志ヴァシリエフ少尉、世界平和の脅威となる国に対して、何をそんなに弱腰になっているのですか?」


そんな会話をしている間に機体は太平洋に出て、左旋回を始めると、あっという間にサハリンの見える我が国の領空に戻って減速を始めた。

イリーナ・ソバコワ少尉さんの操縦はこの計画を遂行する上である意味完璧だった。

ゲロノフスキー博士やウンドンスキー中佐ら上層部の考案した計画の通りそのものだし、この計画が計画通りに行かなくなるような敵の対抗策がなければ、計画はこの通りに進むだろう。


「同志ヴァシリエフ、凄いと思いませんか?今、我々二人は現在のどんな先進技術を持ってしても撃ち落とすことはできません。つまり、今、私たちは世界最強なんですよ!」

どう見ても20代辺りだろうと思われる若いイリーナさんが興奮するのもわからなくはないけれど、我々二人がのそ「世界最強」であって良いのだろうか?彼女が空軍でどんな実績を上げてきたのかは知らないが。


減速して旅客機のような速度になった機体は再び層積雲の中に静かに潜って滑走路に戻った。

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