第2話
どんよりとした曇り空の下、俺は中佐の後について滑走路の脇にある格納庫に向けて歩いていた。古ぼけた格納庫に視線を向けながら、中佐が言った。
「あそこに、今回の作戦に使われる最新鋭の戦闘爆撃機の機体がある。自分の命を預ける機体を、よく見ておけ」
格納庫の脇に、命令書を届けに来たあの若い女性が立っている。
「パイロットを務めるイリーナ・ソバコワ少尉です。どうぞ宜しく」
格納庫の入り口まで来ると、彼女はそう言った。
「はあ、少尉殿でありましたか」
「あなたも少尉殿ですよ?ヴァシリエフ少尉殿」
「あ、はあ、そう言えばそうでしたね…」
彼女は呆れたような顔で中佐の方を見たが、その表情にはそれほど軽蔑の成分はなかった。とりあえず、苦手なタイプではなさそうだ。
格納庫に入り、機体を見た俺は、再び絶望せざるを得なかった。
空気取り入れ口が機首にあり、主翼は後退翼。どう見ても旧式、初期のジェット戦闘機のような形をしている。
「あ、あの、中佐、これは1950年代の戦闘爆撃機、スホーイ7の複座型に見えますが…」
「うむ、実に良い機体だ。しかもゲロノフスキー博士の最新技術によってグレードアップされている。低空をマッハ20で飛行できるのだ!我が軍では、これをゲロ1型と呼んでいる。低空域をマッハ20で侵入する飛翔体に対し対処できる技術は現在、世界のどこでも実用化されていない。ポンニチ帝国はおろか、アメリカもロシアも中国も、この機体の侵入を防ぐことはできない」
ちょっと待て、ナンタラ博士だか知らないが、最高速度が10倍近く上がったりするものなのか??
「私はこれから重要な会議があるので失礼する。分からない事があったらパイロットのイリーナ君に訊くように」
そう言うと中佐は去って行った。
「イリーナさん?」
「…」
「イリーナ少尉」
「…」
「ソバコワ少尉」
「何でしょうか?」
「この作戦、変じゃないですか?」
「何がですか?」
「いや、変でしょう?」
「どういう点が変なのですか?」
「これ、本当にマッハ20出ると思いますか?」
「私はもうこれで飛びました」
「出るんですか!マッハ20」
「まだマッハ0.8しか出してませんが、多分出るようになるのでしょう」
「多分!?出るようになる??」
「私は博士を信じます」
「いや、だとしても、重要な作戦なら優秀な精鋭を任命するはずではないですか?」
「この作戦に選ばれたということは、つまり私たちは優秀だということです!そうは思いませんか?」
本心からそう思っているのかどうか、よくわからないが、彼女はそう言った。
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